2-6. 隠居の新聞記者
ツシマの1.3Lハッチバックの運転席に座り、播木は関越自動車道を北上していた。もちろんもっと高級な車をレンタルすることもできたが、彼は小回りの利くコンパクトな車を好んだ。特殊部隊の中では浮いて見えたほどスリムな体型(とはいえ一般人と比べ、当然、はるかに筋肉質である)の持ち主だ、車内空間が狭すぎるということはなかった。
目的地は中軽井沢である。そこに住まう斎藤という男性との面会の約束を取り付けていた。小林義勝の残した膨大な資料を所有する人物。その資料を借り受けることができたらと播木は期待していたし、そのつもりで段ボールも車に積んであった。だが、すんなりと話が運ぶかどうかはわからない。
斎藤が資料を所持していることを播木に教えてくれたのは他ならぬ小林の一人息子、省吾であった。日本経済の新たな旗手と目されるその人物とのアポは組織の持つコネクションを通じて取ることができた。ダメ元で上層部に掛け合ったところ、驚くほどすんなりと話は通ったのだった。自らにアサインされたこの任務が思っていたよりもはるかに重要なものと見做されている――そのことを痛感し、播木は慄きを抱いた。
梅雨の曇天の下、シルバーのツシマ3は安定した走りを続けた。
ハンドルを握る播木は、前日の省吾とのやり取りを思い起こしていた――。
その部屋からは東京湾を一望できた。湾岸エリアに並び立つオフィスビル群のなかでもひときわ目立つ建物、夢雲本社ビル最上階にある小林省吾の執務室である。柔らかい物腰で省吾は播木に応接セットのソファを勧めた。
歳は四十一のはずであったが、ずっと若く見えた。童顔というわけではないが、どこか少年のような面影が省吾にはある――そう播木には感じられた。
「見晴らしがいいですね」
播木はそう口火を切った。
「ええ、みなさん、そうおっしゃいます」
向いに座る省吾はリラックスした様子でそう答えた。
部屋のドアが軽くノックされ、トレイを手に背の高い女性が入ってきた。丁寧な所作で播木と省吾のそれぞれの前にコーヒーのカップを置き、一礼して部屋を出ていった。そのあいだ二人とも黙っていた。
「どうぞ」
省吾がコーヒーを勧めた。播木は頭をさげ、カップに手をのばした。だが口はつけないでいた。
「父のやっていた調査にご興味があるとか」
省吾はすぐに本題に入った。無駄な世間話などしない新しいタイプのビジネスパーソンといったところか、と播木は思った。自分は文化庁の外郭団体に所属する研究員であると目の前の人物には伝わっているはずであった。ボロは出さぬようにせねば――そう播木は思い直した。
「そうなんです」
そう返してから播木はカップを口元に運び、少し唇を濡らす程度に傾けた。
「父が残した資料をご覧になりたい、と伺っています。よろしければ、もう少し詳細をお聞かせいただければ、お力になれるかどうかも見極めがつくかと思うのですが」
省吾のその言葉は、そう簡単には協力しないぞ、ということを遠回しに言わんとしているのが明白だった。
播木はカップをテーブルに戻した。省吾の口元のあたりに視線を据え、ひと呼吸を置くと、おもむろに口を開いた。
「お父様、小林義勝氏には、著書等では発表していない調査があるはずです」
そう言いつつ、播木は省吾の反応をつぶさに観察した。案の定、彼がわずかに身構えたことがわかった。
「当然そうでしょう。調べたことがすべて本にできるなどということはないでしょうし」
省吾のその言葉に頷いておいてから、播木は続けた。
「民間の伝承です。お伽噺のようなものと言えばいいでしょうか。そういったものの中に登場する、古来より伝わる不可思議な存在――そう聞いてあなたは、どういうものを思い浮かべますか?」
いきなりの問いかけに戸惑う様子を示しつつも、省吾はこう返した。
「……天狗とか、……河童、ですかね」
播木は小さくニヤリとした。さりげなく返した省吾の様子に、なにかを誤魔化そうとする意思を感じた。
「だが義勝氏が調べていたのは、そういったものとは少々異なります。彼ら――そう、とりあえず〝彼ら〟と呼ぶことにしましょう――、彼らは人間の姿はしているが、決して歳を取ることはない」
播木を見やる省吾の目が、わずかに鋭くなった。そのような細かい変化を観察しつつ播木は続けた。
「日本の歴史の節目節目となった様々な出来事の背後に彼らがいた。いわば、彼らこそが、この国の歴史をコントロールしている影の存在とも言えるでしょう」
省吾は黙ったままだ。
「そして彼らのうちのいずれかを味方にしたものは巨万の富を得る、とも言われています」
期待通りの反応を省吾が示している、そう播木は感じた。
「そのような存在について義勝氏は調査されていたのではないかと私は考えています」
播木がひと呼吸置くと、省吾は「なるほど」と短く返した。
「普通の人であれば今の私の話を耳にして一笑に付すか呆れ顔になるところでしょう。ところがあなたはそうではないようです。やはりお父様はそういった調査をなされていた、そうではないのですか? そしてあなたもその内容をご存知であると」
かなり踏み込んだセリフを播木は口にしたつもりだった。しかし意外にも省吾に動じる気配はなかった。彼の目には驚きも狼狽の色も見当たらなかった。そのことに内心、拍子抜けするが、播木もそれを表情に出すようなことはなかった。
省吾は少し考える様子を示したあと、こう言った。
「仮に、ですが、父がそのような調査をしていたとして、あなたがたのような公の研究機関に後継を委ねるべきでしょうか。もちろん、あなたがたからすれば『イエス』でしょう。ですが私にそれを選択する理由はないのではないかと思います」
仮に、か――完全にしらばっくれた態度を取られると想定していた播木からすると意外ではあった。だが、なんにせよ播木は自分が出せるカードはひとつしかないと考えていた。ここでそれを切ることとした。
「そうかもしれません。では、こちらも仮に、ですが――」播木はひと呼吸置いて省吾を見据えた。「資料をお見せいただくお礼として、我々のほうでこれまで進めてきた調査の情報をあなたとシェアする、としたら。我々はこの調査を昨日今日に始めたわけではありません。数十年に及ぶ蓄積があります。義勝氏は調査を完成させることはできなかった。あなたがそれをできるかもしれません」
省吾は意味ありげな視線で播木を見返した。再び何かを考えている様子であった。
一方の播木は、ここで省吾が食いつくはずと考えていた。人間の欲望というものに際限はなく、省吾のようにすでに成功を収めた者であっても、それをさらに拡大させたり、あるいは維持させるため、できうる限りのことをしたいと思うものなのだ。目の前に情報をチラつかせてやれば、省吾は喉から手が出るほどそれを欲するだろうと考えた。
表情を変えずに省吾は、こう返した。
「なるほど面白いご提案です。ただ残念ながら、あなたが交渉すべき人物は私ではありません」
「と言うと?」
「父の残した資料は、ある方にすべてお預けしています。その活用方法を含めて」
「ほう……」
「その方とお話しされるといいでしょう。紹介しますから」
そう言って省吾は少年のような屈託のない笑みをその顔に浮かべた。
播木にとっては予想外の反応の連続であった。不思議な人物だったな、と播木は振り返った。どういう意図があって、すんなりと斎藤のことを自分に紹介してくれたのだろうか。表面的に見えるとおり、単に人が良いだけなのだろうか。だがそんな人物があれほどの経済的成功を納めるというのも解せぬ話ではあった。結論としては、自分の理解を超えている、ということとなる。播木はハンドルを握ったまま、ひとり不満顔となった。
だが、昨日の反応からして省吾が〝彼ら〟のことを知っているのは明らかだし、彼の事業の成功の背後に〝彼ら〟の存在があることも間違いないだろう、そう播木は思った。
――過去の事例のパターンに即して考えれば、省吾は今もおそらく〝彼ら〟の個体のいずれかを保護しているのではないか。一体、どの個体だろうか。既知のものか。それについても探りを入れねばならない。それについてはさすがに彼も簡単に認めはしないだろうし、我々が強権を発動して調査ができるような相手でもない。夢雲に脱税の疑惑でも浮上すれば別だろうが。あるいはそれをでっち上げる手もあるか、最後の手段にはなるだろうがな――。
そこまで考えが進んだあたりで、ふいに播木は我に返った。なんだ、オレもすっかり〝彼ら〟が存在していることを疑わないかに物事を考えているじゃないか、と。
苦笑が浮かんだ。
だが〝彼ら〟の存在を仮定しないことには調査も進めようがないのだった。当然これから会いに行く斎藤という人物も〝彼ら〟の存在を信じているものと思われた。小林義勝の親友であり、毎朝新聞記者時代の同期でもあったという、その男。歳は七十を超えたあたりのはず。記者を引退後にリゾート地に転居して悠々自適の生活を送りつつ小林から引き継いだライフワークとして〝彼ら〟の調査を続けている、といったところだろうと播木は推測していた。
――どんな奴なんだろうな、偏屈ジジイには違いなかろうが。
車は北上を続けた。
上信越道のいくつか目のトンネルを抜けたところで、雨がフロントガラスに打ちつけた。車が進むにつれ、時に激しく、時に霧のように。
佐久インターで高速を降り、県道へと進んだ。依然として周囲を雨がしとしとと降り続いていた。
播木は黙々と運転を続けた。カーナビが示すルートのとおりに左折、直進、右折、と。
やがて車は、アスファルトの道路を外れ、緑なす樹々の間を走り始めた。一台がやっと通れるだけの幅の道――もちろん他に車の影はない。
まもなく行き止まりとなった。そこに一軒の家が建っていた。古いが、手入れはきちんとされており、建てられた当時の瀟洒な雰囲気をわずかに残していた。家の脇には、シャッターを閉ざしたガレージと、前に停められたジープ・チェロキー。
播木は、玄関前の空いたスペースにそろそろと車を停め、サイドブレーキを引いた。
ドアを開けて播木が外に降り立つと同時に、家の玄関からひとりの男が出てきた。歳のわりにはがっしりとした体つきの、こざっぱりとした格好をした白髪の老人であった。その目が播木を見ていた。
播木は車のドアを閉め、玄関に歩み寄った。段差があるため、ドア前に立つ老人を見上げる形となった。
「播木と申します」
そう言って、軽く頭をさげた。わかっている、とでも言いたげに老人は小さく、二度、三度と頷いた。その顔にはうっすらと無精髭が浮いていた。
「お待ちしておりました――、どうぞお入りください」
落ち着いた声だった。播木は再度頭をさげ、老人が大きく開けたドアを通って、中へと入った。家の内部も、外観と同じように手入れの行き届いた様子を示していた。「こちらへ」先に立って老人は階段を登り始めた。播木は後に続いた。
案内されたところは書斎であった。奥の壁の一面が棚になっていて、本や書類で埋まっていた。大きな木製の机があり、その上にも書類が山積みとなっていた。その手前には応接セットがあり、ローテーブルと七十年代を思わせるデザインの椅子が左右に配置されていた。播木は老人の勧めに応じてそこに浅く腰掛けた。
「あらためまして、播木と申します」
向かい合わせに座った老人に、播木は懐から取り出した名刺を差し出した。
「斎藤です」頭をさげつつ老人は名刺を受け取った。「すいませんな、こちらはもう名刺など持ち合わせておりませんで」
斎藤は椅子の背にもたれた。鼻先の眼鏡をかけ直して、播木に渡された名刺を見、その口元が苦笑めいた動きを示した。
「本当の所属は公安調査庁、といったところですかな――。隙のないその身のこなしで学芸員だなどと言われても誰も信じませんよ」
播木は内心に舌打ちをした――いかにも元新聞記者だということか――が、顔には出さなかった。むしろそう思ってくれたほうが話は早いかもしれぬ、逆に言えば自分の持っている情報が公安の興味を惹くような内容であると彼自身も考えているということではないか、と素早く考え、播木は椅子に深く腰掛け直した。
「そこはご想像にお任せしましょう――。電話でもお話ししたとおり、小林義勝氏の残された資料がここにあると伺いました。それを拝見できればと考えております」
斎藤は表情を崩すことなく、頷いた。
「ええ、省吾くんからも話は聞いとります。あなたの言うところの〝彼ら〟に関心がおありだということも。あなた方のお持ちの情報と引き換えに、ということでしたな」
そこで斎藤は少し身を乗り出すようにして続けた。
「単刀直入に伺いましょう。あなた方は〝彼ら〟を一体、なんだと捉えておられるのですか」
いきなり質問ときたか――播木が口を開きかけたとき、部屋にノックの音がした。二人ともドアのほうに顔を向けた。
「はい」
予想外に大きな声で斎藤が返事をすると、扉が開いた。入ってきたのは斎藤の妻と思しき女性であった。手にしたトレイにコーヒーのカップを載せ、「いらっしゃいませ」と愛想良い。播木は無言で会釈をした。
「遠いところをようこそ」
カップが眼前のテーブルに置かれた。
「この家はもともと小林くんの別荘でしてね。彼が亡くなって数年ののち、譲り受けたんですよ。そのときに彼の残した資料や蔵書もすべてここに運んでね」
急に和やかな口調になって斎藤はそう播木に語りかけた。
「そうだったんですね」
播木も調子を合わせた。どうやら妻の前では斎藤はキナ臭い話題を避けたいようだと察してのことだ。
「すてきなお家ですよね。環境も素晴らしい」
さらにそう付け加えた。斎藤夫人が「あら、冬の寒さは大変ですのよ」と口を挟んだ。播木は「ああ、やはりそうなんですね」と応じた。
「冬は寒い。雪はそんなでもないが、とにかく寒い。あれはそう簡単に慣れるものではない」
斎藤は言った。夫人は「どうぞごゆっくり」と告げると部屋を出ていった。
咳払いをひとつしてから、斎藤はジェスチャーで播木にコーヒーを勧めた。一礼してから播木はカップを手に取り、口をつけた。斎藤はゆっくりとした動作でポットから砂糖をすくってカップに入れ始めた。
その動きを眺めながら、播木はカップをテーブルに置いて、口を開いた。
「〝彼ら〟がなんであるのか、私には想像も及びません。個人的に言えば、彼らが実在するものかどうかも確信は持てません。私ども組織ではおおよそ五十年前から彼らの存在を認知し、調査をしています。それ以前にも個別案件の調査はしております。斎藤さんは彼らの存在を信じておられるのですよね。実際に彼らを見たり、直接に接触したことはあるのでしょうか」
播木の質問を耳にしながら、斎藤はカップにミルクを入れ、スプーンでかき混ぜた。しまいまで聞き終えてから、ようやくひとくちを飲み、それから目の前の若い男を見据えた。
「おそらく、な」
斎藤はそう答えた。それは〈おそらく自分は彼らを見たことがあるが、定かでない〉という意味に受け取れた。当然、播木は聞き返さざるを得なかった。
「おそらく?」
斎藤は重々しく頷いた。
「俺はおそらく彼らと会った、実際にな。だが、その記憶を失ったのだ。俺だけではない。小林と、その妻となる景子さん――その三人が三人とも記憶を奪われた。〝彼ら〟の力によるものとしか考えられない」
「なんと――。順を追ってお話しいただけないでしょうか、ぜひ」
播木の求めに斎藤は頷いた。
「埼玉の病院での出来事だ。あれは――、オリンピックの翌年だから、昭和四十年か」
「植物状態の少年が蘇生した話ですか」
「そうだ。よく調べてあるな」
「小林氏の書いた記事が新聞に掲載された件ですよね」
斎藤は口の端で笑った。
「おっと。褒めてやりたいところだったが、あの記事を書いたのは小林ではない。奴は文化部だったからな」
「それでは、あなたが書かれた、ということですか?」
「いや、俺でもない。あの記事は、小林が取材したものを俺の指示で当時新人だった梁という記者に書かせた、というのが実際のところらしい。らしい、というのは俺自身そのことを覚えてないからだ。さっきも言ったように記憶を失った。〝彼ら〟にまつわる部分だけがきれいさっぱり、とな。梁だけがそれを覚えていたわけだが、その事実が判明したのは二十年以上も後の話だ」
「二十年……。小林さんが亡くなったあとの話ですか?」
「彼が死んでから二年ほど後のことだ。省吾くんがそれを掘り起こしたんだ。墜落直前の飛行機の中で小林が書き残したメモの謎について省吾くんは調査していた」
NAL37便――迷走が始まってから墜落に至るまでの間に、死を覚悟した乗客らが書き残したものが墜落現場から幾つか見つかっていたことは当時の報道を調べるなかで播木も知っていた。小林の残したメモもそういったものだろうと播木は理解した。
「謎、ですか」
斎藤は頷いた。
「もったいぶるつもりはない。当時我々は、紆余曲折を経て、ひとつの結論に達した。君も読んだであろうあの記事の少年を蘇生させた少女は、その二十年後、墜落したNAL37便に乗っていた。おそらくは、乗り合わせた乗客らの魂を救済するために」
播木は驚愕するしかなかった。【薬師】がNAL37便に乗っていた、などとは。それは根拠のある話なのだろうか――。だが同時に、この衝撃を受けた光景に見覚えがあるような感覚に襲われもした。そのことが彼をさらなる困惑へと突き落としたが、なんとか彼は言葉を絞り出した。
「え……、い、いや、でも、ということはその少女も亡くなった、ってことになりますよね」
「いや違う」
播木の言葉をすぐさま否定しつつ、斎藤は立ちあがった。よっこらせ、という風情ではあった。播木の見守るなか、斎藤は部屋の奥の棚のところに行き、迷うことなく一冊の大型のバインダを抜き取り、それを手に元の椅子に戻ってきた。
テーブルのうえにそれを広げ、播木に向けた。そこには色褪せた新聞の切り抜きが貼り付けてあった。毎朝新聞の一面トップ、見出しの文字とともに大きく写真が掲載されている――旅客機の残骸から、ひとりの少女がまさに救出された瞬間をとらえたものだ。
「この子だよ」
斎藤は指差した。小学生くらいに見えるその姿に、播木は目を見張った。
――本当にこれが【薬師】の識別名がつけられた個体なのか。
ごく普通の少女にしか見えなかった。いくら播木が写真を凝視しようとも。
「しかし、それならば乗客名簿に名前が載っていたはず」
少し焦ったような声色で、播木はそう問いを発した。それに対し斎藤は落ち着いた声でこう返す。
「載っていたのは、彼女にチケットを譲渡した人物の名だ。我々は当時、その人物から話を聞くことができた――俺はその場には居合せなかったが」斎藤は目を細め、播木を見やった。「その人物とは、竹元壮一郎のかつての恩師だった」
「竹元壮一郎!? 竹元電器の?」
突然に出てきたその名――日本を代表するその家電メーカーを世界規模にまで発展させ経済界の伝説とまでなった人物――に、播木はただ困惑するばかりだった。
「墜落事故のあと、少女は竹元壮一郎の自宅に匿われた」
「もともと二人は関係があったということですか」
斎藤はまっすぐに播木を見据えたまま、頷いた。
「そもそも、竹元の恩師であったその人物が戦時中に少女の面倒を見ていて、その関係で終戦直後に竹元はその少女と出会った。それからだ、竹元電器が急速な発展を遂げたのは」




