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永劫のふたりの道行  作者: 煎豆ことは
プロローグ
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プロローグ

「恋人らを」


 ヌイ、なにを見ちょる――そう問われて青年は答えたのだった。ひょろりと背が高く、栗色の髪をした、どこかうっすらと影のある若い男。下人のありふれた身なりに反して、その姿は奇妙な存在感を放っていた。人ならざる気配、とでもいおうか。


 問うたのは青年のとなりに立つ、まだ歳の頃が十を過ぎたほどの少女である。その黒髪は背を隠すほどに長い。可愛らしい顔に似合わぬ大人びた口調で喋った。


「ほほう、なるほど〈魂引(たまび)き〉のお主には見えるのか、あの男の姿が。残念ながらワシにはトートひとりしか目に入らんが」


 その言葉には反応せず、ヌイと呼ばれた青年は遠くを見やっている。


 はらはらと山桜の花びらが舞っていた。


 少女も視線をヌイと同じほうへと向ける。


 その視線の先、桜の樹々に囲まれ、若い女性が二人に背を向けて立っていた。高貴な装束のその姿からは、遠目にもそれとわかるほど、気品が匂い立つかのようであった。


「さぞ美しかろうよ」


 ヌイのいう〝恋人ら〟の姿を脳裏に思い描いたかに少女が口にした。




 つと、女性は宙に手を差し伸ばした――なにかを追うかのように。その姿が一瞬、凍りついたように見え、それから、がくりと地面に崩れ落ちた。




「定め、か」


 少女はつぶやいた。ヌイは無言である。


「悲しきことよ、の」


 少女の続けた言葉を耳にしつつ、青年はゆっくりと踵を返した。その足を止め、少女のほうを振り向き、口を開く。


「マナ」


 そう呼ばれた少女も、小さく頷いて、ヌイのほうへと向き直った。


「うむ」


 そうして二人はその場を後にした。


 桜の花びらだけが、はらはらとその場に舞い続けていた。




 それから千年の時が流れた――。






 二〇〇九年、春。それまで幾度と繰り返されてきた危機(クライシス)に、再び世界は直面しようとしていた。それはその十年後に到来することとなるコロナ禍の前哨戦とも呼べるものであった。

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