1話 やっぱり僕に恋愛は難しい?
放課後の廊下は、夕日で少しだけ赤かった。
靴箱の前に、笑い声が響く。
それが僕に向けられたものだって、もう聞き分けられるようになっていた。
「おい、茉央。なんでそんな顔してんの? 」
黒瀬灰翔が笑いながら、僕の肩を軽く叩いた。
その「軽さ」がいつも怖かった。
「別に」
そう答えた瞬間、背中に何かが当たる。
押された、と思った。
次の瞬間には、体が浮いていた。
世界が、ゆっくり反転する。
夕日の色が消えて、耳鳴りが残った。
ブレーキ音。誰かの悲鳴。
痛みより先に、
「あ、まただ」って思った。
前にも、こんなふうに終わらせようとした。
でも今回は違う。
誰かの名前を呼びたかった。
呼べなかった。
白い光が、俺を飲み込んだ。
救急車の音だけが聴こえる。
あぁなるほど、よくわかった。
僕は、突き飛ばされて轢かれたんだ。
もう、全てがどうでも良い。
さて、いつから思い出そう
―――
あれは小6の夏だった
あの日もイライラするくらい暑い日だった。
「ねぇ、茉央くんって好きな人いるの? 」
結衣菜の唐突な質問に思考が停止した、いや理科の授業中にすることじゃないだろ、、、。
いやおまえなんだよ
そう言いかけたけどギリギリ言葉には発せなくてよかった。とりあえずは濁しとくか
「えーっと氷川ちゃんかな、、、」
そう言いながら頬を掻いた。
まさかこの一言がこんな事になるなんてね、
「えっ! えっ! 茉央くん唯夏ちゃんのこと好きなの!」
嘘でしょ。そんな反応する結衣菜初めて見た。
「えー告っちゃいなよ! 」「そーだそーだ! 」
いやお前誰だよ、いやクラスメイトだろ
「あーうんいつかね、修学旅行とか」
「それ絶対言わないやつじゃーん。えっビビってんの?ww」
結衣菜は満面の笑みで言った。
「わかったよ、じゃあいつがいい? 」
墓穴掘るなよ。
「んー今日? 」
いや唐突すぎ、怒るよ !?
でもあんな可愛い顔で言ったら仕方ないやってみるか?いやでも僕は結衣菜が好きなんだ、大好きだ。
でも
「わかった、試しにね」
結衣菜に流されて言ってしまった。
あーあ
―――
お昼休み僕は、唯夏を体育館裏に呼んだ。
「えーっとなんで呼んだの? 」
唯夏は不思議そうな顔で言った
「優しくてかわいい唯夏が好きです。付き合ってください。」
結衣菜の作った告白台詞が書かれた紙の通りに言葉を発した。文字綺麗なんだ。知らなかった。
小学生みたいなこと言ってる自覚はあったし、心なんてひとつも込もっていなかった。
「いいよ」
唯夏の一言。
僕の目は大きく開いた。
手が震えた。
「よろしくお願いします」
あの日、僕は結衣菜を忘れた。
ーーー
「お前、唯夏と付き合ってんの? 」
黒瀬灰翔。僕を突き飛ばしたやつ。
正直昔は仲良かった。同じバスケクラブで練習してた。
いつからあんな風になってしまったのだろう。
「うん。まぁそうだけど、、、別に関係ないだろ」
「いや、めっちゃ関係してるだろ。こっちは幼馴染が付き合ったんだよ?パーティー開きたいくらいだわ」
心が込もってなかった。
灰翔は、半笑い気味に言った。
「いーなー。お前みたいな女っぽいやつでも彼女いるのに、俺は一向に彼女できないなぁ」
お前は、たくさん女が周りについてるだろ。ハエみたいに。
「まぁいいや。どうせすぐ別れるだろ。そしたら慰めてやっても良いけどw」
腹の底から怒りが湧いた。
殴ろうと拳を固めた時。
「何の話してるの?」
「唯夏、、。」
「あれぇ? 現在進行形のカップルじゃないですか。」
「もうあなたには、関係ないでしょ」
「彼氏さんと同じ事言ってますよーww」
本当に人を怒らせるのが好きだな。
もう離れた方がいい。
「唯夏、もう行こ」
唯夏の手を取って教室を出てった。
帰り際に灰翔の顔を覗いた。少し寂しそうな顔をしていたのは、気のせいだと思う。
―――
「唯夏。なんで僕の告白を了承したの? 」
「元々好きだったから。」
「あーあれか! 小4のときの! 」
「そうだけど、、、」
唯夏は赤面した顔で言った。
気づかないかったけどやっぱり好きだったんだ。
そう思い手を繋ぎながら静かに帰った。
まさか中学でこんなことが起きるなんて




