カイロと手袋
今日も寒いですね!
なので温かくなるお話を書きました(#^.^#)
最初に気付いたのは高木勲の方だった。
クリニックの受付で「篠原美鈴さん」と、懐かしい名前が呼ばれたのを耳にして思わず目で追ったら……10年前からは考えられないくらい大人びたその人がいたから……でも、昔と変わらない綺麗な澄んだ目をしていたから。
勲は堪らず美鈴に声を掛けた。
「あの、突然すみません!僕の事、覚えてますか?」
声を掛けられたものの……上背のあるガッシリとした若い男性なぞ心当たりが無く、無意識にポーチを“盾”にしながら美鈴は後ずさりした。
「どなたか人違いをなさっているのでは?私はあなたを……」
「高木勲です!」
「えっ?!」
「中学の時、同じ塾に通っていた……」
「ええっ?!」
美鈴の脳裏に中三の時のクリスマスイヴが蘇る。
あの日はホワイトクリスマスで……塾の帰りに高木くんとお洒落なカフェでお茶をして……
「ホントに高木くんなの??!!」
「うん」
「ビックリした!! 全然分からなかった!!」
「僕もビックリしたよ! 受付で篠原さんの名前が呼ばれて……まさかと思った! とても大人っぽいから……」
「アハハ! あの頃は芋っぽいおかっぱ頭だったしね」
「芋っぽくなんてないよ!とても可愛かったよ!」
ここまで話して周りの視線が生温かいのに気付き、言った方も言われた方も俯いてしまった。
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クリニックが入っているビルの中にあるカフェで落ち着いた二人は、お互いが気になっていた事をまず訊ね合った。
「どこか悪いの?」「風邪?」
「ううん!花粉症」「僕もそう!」
「良かった!ちょっと心配してしまったから」「心配したお互いが花粉症なんて“仲良し”だね」
言葉が重なって……どちらともなく微笑んでしまう。
「高木くん、さっき中学時代の私の事を可愛いって言ってくれたけど……私も高木くんの事を可愛いって思ってたんだよ! 当時の高木くんって……背は高めだけど細身で……いかにも“中学生”って感じだったから」
「それ、どういう事?」
「えっと……今は凄く逞しい感じだけど、中学の頃の高木くんって“制服に着られている”って感じだったから」
「ああ、なるほど! あの頃は肩幅も無かったもんなあ」
「怒った?」
「全然!むしろ懐かしいなあ……って」
「懐かしい??」
「うん、それ、当時の僕のコンプレックスだったから……」
「なんで、コンプレックスなの?」
その問いには答えず勲は静かに美鈴を見る。
「篠原さんは……昔も今も眩しいね」
「ええ~! 何それ? 今は出してるおでこが眩しい?」
「そうじゃないよ! 篠原さんはいつもキラキラしてるなあって」
「もお~!上手になったね!」
「だって事実だから……」
ストレートにこんな事を言われ、美鈴を俯いて目の前のコーヒーにミルクを足し入れてクルクルと掻き回す。
一方、勲は気まずさをブラックコーヒーで飲み込み、言葉を足す。
「でも、僕たちって、全くの偶然だったよね」
「偶然って?!」
「僕たち別に同じ中学じゃ無かったけど、たまたま二人共、他県へ引っ越す事情があって……他県の受験もフォローできるあの塾に入ったわけじゃない?」
「そうね、そうだったよね。大変だった……」
「うん、学校選びとか」
「内申とか」
「僕たち、少なくともあの時、“同士”だったよね」
「うん!同士だった! でもね、高木くんが同士で良かったって思ってたよ」
「僕は今でも思ってるよ」
「今でも??」
「そう! こうしてまた会う事ができたから」
「ハハ、そんな風に言ってくれると嬉しいかも……特に今は……」
「今は?」
「うん、今は! 高木くんがこんなにかっこよくなったのが見られたから!!」
「ええっ??!!」
「えへへ!さっきの仕返しだよ!」
「酷いなあ~!僕はからかった訳じゃないのに……」
「私だって!……からかった訳じゃないよ」
二人またまた照れくさく……しばしカップに口を付ける。
「クリスマスイヴの事、覚えてる? 二人でプレゼント交換したよね」
「ああ……あの時はゴメン! 僕のプレゼント、最悪だったよね! 篠原さんが受験する県の公立高校の過去問題集なんて!」
「ううん! 私が過去問題集の事を言ったら高木くんが取り寄せてくれたんだもん! 本当に嬉しかったよ! 帰ってお母さんに見せたら笑われたけど」
「やっぱり!ホント、ゴメン……」
と頭を下げる勲の手の甲に美鈴はそっと手を重ねた。
「お母さんね。高木くんの事、『とってもいい子ね!』って言ったんだよ! そして今でも言ってるの『高木くんみたいな子はもう現れないのかなあ』って……私、散々だったから」
「それを言うなら、僕も散々だよ」
勲の言葉に「それって……」と言い掛けた美鈴は言葉を飲み、話を戻す。
「私がプレゼントしたマフラーを高木くんはちゃんと使ってくれて嬉しかったなあ」
「ああそれは……ごめんなさい。3年前までは使ってたんだけど、仕事中に落として無くしてしまった。言い訳だけど……」
「そんなの全然平気だよ!むしろ私の黒歴史だから!」
「そっか……」
明らかに顔が曇った勲に美鈴は大慌てで言葉を足す。
「黒歴史なのは、まだ編み物を始めた初心者の頃のだから! 今はもっとちゃんと編めるから!セーターだって!!キチンと人にあげられる物を編めるんだから!!」
うっかりと……言う必要の無い事まで言ってしまった美鈴は顔を伏せた。
「ホント!私って酷いね!泣きたくなる……」
「そんな!! 僕に気を遣わなくっていいよ! 僕との関係が黒歴史で無いのなら充分だから」
「黒歴史どころか大切だよ!! できれば……これからも大切にしたい!!こんな身勝手で!ご都合主義の私だけど……」
勲は、自分の手の上に重ねられた美鈴の手の上にもう片方の手を重ねた。
「もし僕たちが……お互い引越しする事無く、この街に居続けたなら……恋人同士になれたと思う?」
美鈴は顔を上げ、勲を真っ直ぐに見つめて頷いた。
「だったら! 二人共、この街に戻って来たのだから! もう一度始めよう!」
その言葉に……
美鈴はもう片方の手を勲の手の上に重ねて、少しだけ泣いた。
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カフェを出てそぞろ歩きする二人。
二人で歩けば街は思い出の場所となる。
昔も今も……
「ねえ!覚えてる? 塾の帰り路、戯れでお互いのPコートのポケットへ手を突っ込み合った事」
「もちろん覚えてる!最後は二人、手を繋いだよね」
「私、また謝らなければならない事を思い出したの。高木くんにマフラーをプレゼントした時、本当は手袋も編んでいたの。でも渡さなかった。なぜだと思う?」
「……出来上がりが気に入らなかったとか?」
「まあ、それも無いとは言えないのだけどね……一番の理由は、高木くんの手の温もりを直に感じたかったんだ! 中学生にしてはちょっとエッチな動機かな?」
「だったら!僕の方が謝らなきゃ!!篠原さんが『温かい人と手を繋ぐのが好き!』って言ってたから……僕はズボンのポケットにカイロを忍ばせて、コッソリ手を温めていたんだ。か細い僕じゃ体温が足りないから……」
「ええっ!そうなの??!! アハハハ!」
「騙してしまってゴメン!」
「ううん!そんな初々しい嘘なんて、嬉し過ぎるよ」
「ありがとう! でも僕も頑張ったんだよ。筋肉量を増やして基礎代謝を上げようって……全然間に合わなかったけど」
「でも、それをお引っ越しした後も続けたんだね」
美鈴は勲の腕に抱き付いてその太さを確かめ、自分の柔らかさも伝えた。
「お互い昔も今も策士だね」
真冬の空の下でも……
熱々の恋人同士が握り合う手は……それだけでとても温かかった。
おしまい
う~ん!
もっと上手くなりたい!(^^;)
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