藍白色の金平糖
「叶、暑くない?」
蝉の声が耳を劈く炎天下、お姉ちゃんが頬にじんわり汗をかいた顔で、笑いながら私に聞いた。夏の涼しさのような透明な声。私が大好きな声だ。
「あつい」
お姉ちゃんは「そっか」と呟き、私の小さな肩掛け鞄から水筒を出して、手渡してくれた。お姉ちゃんの長い金髪が揺れる。青空のように透き通る瞳が、真っ直ぐに私を見ている。
氷でキンキンに冷えた麦茶が、乾いた喉に流れ込む。
「ん……おいしい」
そう言いながら水筒を口から離すと、喉からお腹まで、一気に冷えた気がした。
「ふふっ……金平糖、いる?」
お姉ちゃんは、またも鞄から巾着を取り出して、小さく可愛いものを手のひらに乗せた。
「ありがと」
お姉ちゃんの手から一つ取る。砂糖でできた星屑が宝石のように光った。
私はこれが大好きだった。お姉ちゃんは、いつもにっこり笑ってこの金平糖をくれた。
輝くそれを、口に入れた。ぽりぽりと控えめな音を立てて、金平糖が砕ける。
「美味しい……」
もう一つ……と、お姉ちゃんの手から取ろうとすると、後ろに何かが見えた。
「あれ……」
私が指を指しながら呟くと、お姉ちゃんはくるりと振り返った。
背が高いお姉ちゃんよりももっと大きな陰が、すぐそこまで迫っていた。
「叶!」
お姉ちゃんは叫びながら、どんっと私を突き放した。
その瞬間、耳が痛くなるような大きな音が響いた。視界がぐわんと歪み、衝撃が体に走る。
……痛い。
そう認識したのは、地面に背中がぶつかってからまもなくのことだった。
地面に倒れ込んだ時に背中を打ったのだろう。
だが、そんな痛みは全く気にならなかった。
「……お姉ちゃん?」
私が呼んでも、返事がない。
そのかわりにか、知らない人の悲鳴が聞こえる。
「早く!救急車!」
「轢き逃げだぞ!」
頭が理解できなかった。今、何が起こったのだろう?
「お嬢ちゃん大丈夫かい?!」
知らない人が、私の手を握った。いやだ、お姉ちゃんじゃない。お姉ちゃん以外に触られたくない。
その人の手を乱暴に振り払い、立ち上がる。
目の前には、歩道に広がる赤い液体と、その中に倒れ込む……
「みっ、見ちゃだめだ!」
知らない誰かが何かを叫んでいたが、全く頭に入ってこなかった。
…………違う。これはお姉ちゃんじゃない。
この赤い肉の塊は、お姉ちゃんなんかじゃない。だってお姉ちゃんはいっつも……
近くで誰かの叫び声が聞こえる。耳が痛い。冷たい水で潤った喉も、今はひどく痛む。
蝉の声と、つんざく叫び声が耳を貫いている。
しばらくしてようやく、叫んでいるのが自分だと気付いた。




