幕間
ピッ、ピッ、と規則的な間隔で鳴る機械音。
点滴台に挟まれた白いベッドの上で、僕は何をするでもなく、細い管がいくつも繋がっている己の手を眺めていた。
途端、静寂を壊すように鳴った、金属の軋む音。その音は、薬品の匂いに充たされた病室に変化を訪れさせた。
無意識に音のした方を見る。
そこには、鉄扉を開いた張本人……呆然と僕を見つめる、友人の姿があった。
「次郎……」
僕は咄嗟に、彼の名を口に出していた。
彼はまだ何も言わない。病室にゆっくりとした足音を刻み、僕のいるベッドの前で足を止めた。
次郎の目は、僕を真っ直ぐに捉えていた。僕には彼のその瞳が、心なしか涙で歪んでいるように見えた。
気まずくなって、僕は咄嗟に目を逸らす。
「孝史」
僕を呼ぶ彼の声が、停滞した空気を打ち破った。
「お前は絶対に死なせない」
堪え難きを堪えるような表情で次郎が言う。
普段は感情を見せない彼がそんな顔をするものだから、目頭がどんどん熱くなっていった。
あの夏の記憶が、走馬灯のように頭を過ぎる。
僕に差し伸べられた彼の手。
「生きよう、孝史。俺と一緒に」
目の前の親友は、力強い眼差しでそう言う。
でも、僕は彼の手を取ることができなかった。
無機質に鳴り続ける機械音。底なしの空虚と喪失感だけが、病室に漂っていた。




