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一炊夢  作者: 納豆ご飯
第1章 虚と死蝋
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第十話 死蝋の貴方 其の肆



 白沢を送り出したあと、Aは再び緑山峠を訪れていた。

 明かりなしでは何も見えないほど暗く狭い場所を歩く。かつん、かつんと響く靴音は、単調で何の飾り気もない。

 そこは中型バスの車内だった。峠道の外れで、人知れず廃れている。中は油と錆びた鉄の匂いが充満して、淀んだ空気が肺を汚しにかかる。

 Aは手探りで頭部座席を見つけると、躊躇なく座った。

 パチンという音と共に小さな電球が点滅し、しばらくして灯りがついた。車内の様子が鮮明になる。

「もう寝ちゃったか」

 Aが笑いかけた先にいたのは、倒れている二人の学生。男女だった。

 手足は抵抗ができないように縄で拘束され、バスの車体にもたれかかっている。

「君達も行こうか」

 Aは、まず少女のほうの両足を掴んだ。少し引きずって仰向けにしたあと、腕を掴んで持ち上げ、担ぐ。

 そうして外に運び出す。少年のほうも同じように運んだ。

 バスの外には、あらかじめ停めてあった小型の貨物車(トラック)があった。

 Aは貨物車の荷台鉄扉(リヤドア)を両手で開けた。そこには、同じように手足を縛られた子供が、あと二人。

 Aは二人を担いで中に入れた。

 そして荷台鉄扉を閉め、ロックを降ろす。ふぅ、と一つ息をついて、Aは口を開いた。

「準備は整った。()()()、君の働きには感謝している」

「お役に立てて光栄です」

 背後から返事。

 Aは笑みを作って振り向いた。

 彼女は背高草を掻き分けてAに歩み寄る。不思議なほどに光を反射しない漆黒の髪に、真っ赤な瞳。その瞳孔は猫のように細く窄められている。

「その人たち、どうするつもりです?」

 彼女はAの隣まで歩き、顔を覗かせながら聞いた。

 Aはまた笑う。

「それは()()までのお楽しみだよ」

 勿体振るAに、彼女は少し不満そうだった。

「もう。そうやってはぐらかすんですから」

 Aは「悪いね」と苦笑する。しかしその顔は苦笑というより、期待と野望が混ざったような黒い微笑みだった。

()()の情報、よろしく頼むよ」

「遅くなるかもしれません」

「それも楽しみさ」

 Aは山の空気を嗜むように言った。



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