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一炊夢  作者: 納豆ご飯
第1章 虚と死蝋
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第一話 虚を夢む 其の壱

 二〇一五年。日本から夏以外の季節が消えた。


 地球温暖化が加速する地球。二〇〇五年から十五年までの十年間に、地球の平均気温は急激な上昇を始めた。

 テレビでは毎月のように気温変動の推移がニュース報道される。

 近年世界的な大問題になっている地球温暖化は、日本ではとうとう季節という概念を消滅させるに至った。


 日本での四季の消滅は地球温暖化の影響であると言われているが、惑星科学の専門家達はこの説を完全否定している。


 その理由として最も大きいのは、この異常気象が日本でしか起きていないということだ。

 世界でも、気温の上昇は年を重ねるごとに大きくなっているが、日本と比べれば可愛いものだ。

 どれだけ気温が上がろうと、日本のように四季の気温がほぼ一定になることはあり得ない。


 日本の政府は、この前代未聞の異常気象に「暑熱恒久化現象」と言う名前をつけ、その原因を調査している。





「椛本、起きろ!」

 先生の叫び声に、楓子(ふうこ)ははっと顔を上げた。

 周囲のクラスメイト達は、楓子を横目に見ながら、クスクスと笑っている。

「授業中に寝るなと何回言わせるんだ…」

 二年一組担任の樫木が、呆れた顔を横に振る。

「…すみません」

「謝んなくていいから寝るなよ。あと少しで終わりなんだから…」

「はい…」

 楓子は面倒くさそうな顔で謝った。

 椛本(かばもと)楓子(ふうこ)…横浜市奈良町にある如才中等学校に通う彼女は、夏休み二日前の授業の六時限目、授業終了五分前に、盛大に居眠りをかましていた。

 変な夢を見たからか、妙に体がだるく感じる。周りからの嘲笑うかのような視線が頬を刺す。

 楓子は、ガサツで無愛想な性格から、ほとんどのクラスメイトから嫌われていた。その証拠に、楓子の隣は空席だ。

 特に楓子を毛嫌いしている鋭い目つきの女子…夏野凛は、刀の切先を連想させるような眼差しで楓子を睨んでいる。

 彼女に嫌われている理由は、楓子も分かっていた。

 楓子の唯一の友達である、白沢詩乃という生徒がいる。凛は、詩乃のことをずいぶん気に入っているようで、詩乃と親密そうな楓子に、いささか嫉妬のような感情を抱いている。

 だが、楓子が周りに嫌われている理由のナンバーワン、それは、たまに何もない空間を見つめたり、さも何か動物でもいるかのように撫でるような仕草をすることだ。

 楓子は何の前触れもなく、何もない場所を見続けたり、話しかけたりする。クラスメイトはそんな楓子を気味悪がり、疎外していた。

 だが、楓子の奇行には理由があった。

 彼女には、幽霊が見えるのだ。

 始まりは楓子が九つの頃、母親が病でこの世を去ってからだ。それを堺に、幽霊が見えるようになってしまった。

 初めは、幽霊が姿を顕すのは夏の間だけだった。

 何が原因かはわからない。しかし、楓子が大人になるに連れ、見える幽霊の数は増えていった。

 街中の何気ない風景の中、必ず人間の近くに、奴らはいる。幽霊とは言っても、その姿は様々だ。

 小さな丸い体に四肢が生えているようなもの、丸まったトカゲのような姿をしたもの、空を飛ぶ翼竜のようなものまでいる。

 目が血の塊のように真っ赤であること。それだけが、奴らの共通点だった。

 楓子は小さい時から奴らのいる街で暮らしているが、名前や正体は未だに全くわかっていなかった。そのため、勝手に幽霊と呼んでいたのだ。

 楓子は、凛の悪態もいつものことだと勝手に納得し、鋭い視線を受け流した。




*****




 部活に所属していない楓子は、誰よりも早く帰る。

 今日も例外ではなく、授業が終わった直後、そそくさと教室を後にし、廊下を歩く。

「楓子!待って!」

 ふと、背後から呼び止められ、楓子は気だるげな動作で振り返る。

「詩乃…」

「はい、これ…」

 そう言って詩乃は、小さなビニール袋を差し出した。

「金沢行ってきたんだ!そのお土産」

 袋の中には、「考える人」のポーズをした、頭がレモンの人形が入っている。

「可愛い…」

「楓子、こういう変なやつ好きでしょ?」

 少々引っかかることを言われたが、楓子は純粋に嬉しかった。

「ありがとう。大事にする」

「どういたしまして。じゃ、部活あるからまたね」

 手を振りながら体育館に走って行く詩乃を眺めた後、楓子も下駄箱から靴を出し、学校を出た。



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