第6話 アリーナ、幼馴染と邂逅する
久しぶりに訪れた魔の森は、昼頃であるにもかかわらず暗く、遠目に見ても鬱蒼としていた。
大人でさえ入るのに躊躇するこの魔の森に、この街の子ども達は頻繁に立ち入り、薬草や果物を取ってくるというのだから頭が下がる。
アリーナはその立場上、さすがにひとりで魔の森に向かうことはできず、護衛の騎士を一人連れていた。
エイトとの結婚後に、なぜか志願して自分の護衛騎士となった、年の近しい隣の領の三男坊・ルーク。
それほど仲良くもなかったし、少し前まで放蕩していると聞いたのに、急にやってきたかと思えば、護衛騎士になりたいと言われて驚いた。
護衛としての腕は確かなので重用しているものの、千里眼で魔の森を覗こうとするアリーナにとって、ルークは邪魔者であることに間違いなかった。
ルークに気付かれずに千里眼を使うにはどうしたものかと思案していると、不意にルークの方からアリーナに声をかけてきた。
「……この森に入るのですか?」
これまでの護衛でも、基本的に話すことのなかったルークの突然の発言に、油断していたアリーナは驚き、取り繕うことも忘れて思わず返事をする。
「え!? ええ……街の子ども達が言っていたのは、もしかしたらスタンピードの前兆ではないかと思いまして……」
「スタンピード!?」
ルークは慌てて、自分よりも距離的に魔の森に近いアリーナの前に躍り出て、魔の森からアリーナを遠ざけるように警戒を始めた。
しまった。
魔の森への視線の間にルークが入ってしまって、余計に千里眼を使いづらくなった。
しかし、こちらに背を向けるルークに、これはある意味チャンスかなと思い、ええいこのまま魔の森を覗いてしまえとアリーナは千里眼を発動する。
すると、魔の森ではなく、自分の目の前に立つルークに焦点が当たってしまったのか、全く予期せぬ映像がアリーナの脳内に流れた。
それは、前世で小学生くらいの自分が、これまた小学生くらいの幼馴染だった衛に犬から守られている光景だった。これは確か……近くの家から脱走した犬が、興奮して望美を襲ってきたときの……
「……衛?」
思いがけない映像にアリーナが思わず声をこぼすと、目の前に立つルークが勢いよくこちらを振り向いた。ルークの目は見開き、アリーナの顔を食い入るように見つめてくる。
「やっぱり……望美なのか?」
「ええ……ええ! 私は望美よ。あなたは、幼馴染の衛よね?」
「そうだ……! ああ、良かった……やっと望美と再会できた……!」
ルークはそう言って被っていた兜を取り、アリーナの両手を強く、けれど優しく握りしめた。
その表情は再会の喜びに溢れ、目には涙が滲んでいた。