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第3話 アリーナ、能力に目覚める

「まあ、アリーナ様、見てください! あんなところで、本当にはしたない!」


 辺境伯らしく広大な庭園の奥、少し丘になった場所にある小さな東屋で、アリーナは処理を後回しにしていた書類や手紙に目を通しながら、外の空気と食事を楽しんでいた。


 アリーナにお茶を注いでいたマーサが、ふと屋敷の方を見てアリーナに慌てて声をかける。


 マーサが示す方を見ると、庭園の中でも屋敷に近い、最も大きな東屋で、エイトとミザリーが周囲に見せつけるようにイチャイチャしながら食事をとっている姿が見えた。


 ミザリーは恐らく寝起きのまま外に出たのか、ネグリジェの上に上着を羽織っただけの姿だった。


 ミザリーの考えられないほどはしたないその格好に気付いた侍女たちは、眉間を寄せて口々に不快感をあらわにする。

 二人のそばに控える従者たちも目のやり場に困って視線を伏せ、執事は心を殺したように淡々と職務を全うしていた。




 あの、あられもない姿を平気で(さら)す、はしたない女……ミザリーってもしかして……と、アリーナが肩を寄せてお互いに食べさせ合う二人の様子を、目を細めて冷ややかに見つめていると、急に脳内に映像が流れてきた。


 それは、前世で()()という秘書と望美(のぞみ)の夫である栄斗(えいと)が、今のあの二人と同じように、妻である自分に隠すこともなく親密に肩を寄せ合う光景だった。

 

 そしてザッと場面が変わったかと思えば、聖女としてのミザリーが、以前嫁いでいた若き公爵家当主の妹に触れ、「この女は大切にされるに値しない! 穢れているわ!」と(ののし)る光景も流れてくる。


 急に脳内に注がれた多くの情報に、アリーナは二人から急いで視線を外し、気持ちが悪くなって口元を押さえた。


「アリーナ様、大丈夫ですか!? あんな不潔なものを見ていたら、アリーナ様の体に(さわ)ってしまいます。もう、屋敷の中に戻って休みましょう」


 マーサはそう言って、他の侍女たちに即座に指示して場を片付ける。

 

 アリーナは、なおも気分が優れずに足元がおぼつかない中、マーサの肩に捕まって、二人から隠れるように少し遠回りしながら屋敷へと向かった。


 道すがら庭園の花々が映るアリーナの瞳には、生まれ変わってもなおも繰り返される苦痛に対する深い絶望と、ほんの(わず)かではあるが、一つの希望の光が宿っていた。

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