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第4話 衛、転生する

本日3回目の更新です。

この番外編は、これで完結です。

「こんにちは、お会いしたかったですよ。白井衛(しらいまもる)……あなたをここにお招きするのを、それはそれは楽しみにしていました。あなた、生前は()()()やりましたね」


 真っ白な空間に無機質な声が響く。

 目の前にいる人間のような形をしたモノは、そう言うとニヤリと笑った。


「……ここは、どこだ……?」


 さっきまで、俺は道を歩いていたはずだ。

 

 そう、大きな公園の前の道を、俺は歩いていた。

 公園で遊ぶ子ども達の賑やかな声に耳を傾けながら……ゆっくりと。




 二人への復讐を果たした後、衛の胸にはポッカリと穴が開いたようだった。


 時が経つごとに二人への怒りや恨みは薄くなり、代わりに、自分がしたことへの自責の念が募っていった。

 特に、あんな奴とはいえ、片親を奪ってしまった望美の子ども達への罪悪感が……


 だから、望美の死後、早々に手放されて親戚をたらい回しになった子ども達が、施設に入ったとの噂を聞いて方々探し回り、やっと見つけ出した後は二人の成長を密かに見守ってきた。


 そしてさらに、罪滅ぼしとして似たような境遇の子ども達への支援も積極的に行うようになった。


 子ども達から無邪気な笑顔を向けられるたび、心が救われるようで、気が付けば、よく公園の周りを散歩するようになっていた。


 ……そうだ。

 

 あの時不意に、目の前にボールが転がって出てきた。

 と思ったら、子どもがボールを追いかけて、公園から出て車道に飛び出した。

 

 そして、間の悪いことに向かいからトラックが来ていて……とっさに体が動いて……

 

 ……ああ……


「状況、飲み込めましたか?」


 記憶を思い出すと共に、だんだんと俯いていた頭の上から、あの無機質な音が降ってきた。

 その声は嫌に通っていて、遠ざかっていた意識が強制的に引き戻される。


「……ここは……どこなんだ? 俺は……死んだのか……?」

「ここは世界の狭間です。ええ、あなたは死んだのですよ。子どもを守ってね。殊勝なことです」


 前後の記憶から薄々感じていたことが、ピシャリと確定して血の気が引いていく。

 死んだ……? そんな、まだ心残りが……


 そう、混乱しながら前世に思いを馳せる衛に、三度(みたび)目となる声が無情にも落とされた。

 

「さて、選ばれし勇者よ。ようこそ私の世界へ。あなたにギフトを授けましょう。そして魔王を倒すのです」

「……は? ギフト? 魔王?」


 衛の混乱など、ソレは一切、待ってはくれなかった。

 どんどん進んでいく話に、思考が塗り替えられていく。

 

「そう……私の世界では、こうして招かれた転生者には、一つギフトを贈ることとしています。生前の性質を濃く反映した、その人だけのギフトをね。それを駆使し、私の世界を牛耳る魔王を倒してほしいのです。あなたと、あなたに与えるギフトには、その素質があります」


 ソレは正面に向かい合い、指をさしてそう言った。

 有無を言わせぬその雰囲気に、衛の目線は左右に揺れ、喉がゴクリと鳴る。

 

「……魔王を倒してほしいということは、分かった……そのために、ギフトという特別な力を与えてくれるということも……」

「ほう、少し落ち着いてきたのでしょうか。随分、物分かりが良くなってきましたね」


 衛からの言葉に、ソレは満足そうに言った。


「だが、その前に聞きたいことがある。その世界は、幸せなのか?」

「ふむ……幸せの概念は個人によって異なりますが、あなたが前にいた所よりも、幸せな世界であると言えると思いますよ。よくある、剣と魔法の世界……高度化した文明による弊害もなく、日々、小さな幸せに心を満たすことが可能な世界です」


 ソレは腕を組み、顎に手を当てるような素ぶりを見せながら答える。


「魔物の存在が幸せを脅かす懸念材料ではありますが、特に、あなたのような転生者であれば、私の世界では圧倒的強者として思いのままに過ごすことができますよ」

「そうか……」


 死んで別の世界に招かれたと聞いた時、衛の脳裏に一つ浮かんだものがあった。

 また生きられるならば、叶うなら少しでも彼女と共に過ごし、今度こそは彼女を幸せにしたい……


「……一つ、願いがある」


 衛の言葉に、目の前のモノの表情が、ピクリと動いた気がした。

 

「黒澤望美……彼女の魂もその世界に呼んでくれ。そして、俺に与えられるはずだったギフトを彼女に与えてほしい。彼女は、あいつらのいないその世界で、誰にも縛られることなく、幸せに生きてほしいんだ……魔王は必ず、俺が倒すから」


「ふむ……他の人を一緒に、というのは初めての願いですが……まぁ、いいでしょう。私は心が広く、そして、()()()()()()()()()()()、それはそれでいいですからね」


 その言葉に、衛は目の前のモノが決して自分の味方ではないのだと悟る。


 目を見開いて固まっていると、ソレはニタァと笑って「交渉成立です」と言い、指をパチンと鳴らした。

 その瞬間、この真っ白な空間から衛の姿が消える。


「……彼は本当に逸材ですね、今回はとても楽しめそうです……そうだ。どうせなら、転生者をもう少し増やしてみましょうか。彼と縁が強い者を……ふふふ、本当に楽しみですね」


 ソレはそう言うと、かつて衛が生きていた世界を覗いて、彷徨う魂をいくつか拾い上げていった。

お読みいただきありがとうございました!

『番外編:終わりと始まり』は、これにて終了です。

★もし良ければ、ブクマ、評価、感想等いただけると嬉しいです★


【2024年1月10日追記】

▼悪役令嬢物?の新連載を始めました。もしよければ、こちらもご覧ください。

『氷の令嬢と呼ばれた侯爵令嬢は、追放された公爵令嬢を拾う』

https://ncode.syosetu.com/n0234ip/


▼以下の作品でカクヨムコンに参戦しています。応援いただけると嬉しいです!

『異端のキューピッドが天界をのし上がる ~ギリシャ神話オタクが巻き起こす、"奇跡"の物語~』

https://kakuyomu.jp/works/16817330667283319936

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