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第3話 衛、美咲を地獄に落とす

本日2回目の更新です。

 紅村美咲は、人のものを欲しがる女だった。


 飾り立てた外見や言葉を武器に、安定と共に生まれたほんの僅かな退()()という隙に忍び込み、横から全てを掠め取っていく。


 しかし、これまでの人生で女達からの恨みを買っていた美咲に、ある意味、天罰が下ることになる。


 週刊誌やネットなどで暴露された、会社経営者と秘書の不倫……この影響は、美咲にも当然及んでいた。


 彼女もまた、会社を追い出された。

 

 栄斗とのつながりも同時に切れ、新たな職を探そうとしても、世間を賑わせた会社の名前と、その会社の秘書だったという職歴、そして何より、ネット上で晒された自分の名前と住所が重たい足枷となっていた。


 親からも縁を切られ、かつて関係のあった人々は全員いなくなり、誰からの援助もなく目減りしていく貯蓄に、ついに美咲は最後の最後まで守っていた手段に手を出してしまった。


 女を売る。


 どんなに人のものを奪い、どんなにそのことを(そし)られようとも、ここには絶対に落ちないと決めていたはずだった。


 しかしそこに、ついに美咲は落ちざるをえなくなった。

 そしてそれは、これまでひたすらに奪う側だった美咲が、奪われる側に回ってしまった瞬間でもあった。


 屈辱を味わいつつも、お金のために……生きるために、心を殺す日々。

 それでも心の火を絶やさずに再起を願っていた矢先、病気をもらってしまった。


 自分の中の全てのが消えていった。

 同時に、新たな火が灯る。


 病院に通うお金もない中、次第に崩れゆく体と痛みに朦朧とする意識の中で、美咲はただただ、自分がここまで落ちてしまった原因を探していた。


「……そうだ……黒澤望美……あの女がいなければ……私が栄斗の妻になって、こんなことにはなってはいなかったはずなのに……」


 理性さえも失ってしまった美咲が、小さく呟く。


「黒澤望美……あの女が死んだせいで……栄斗は会社と、私の元から去っていった……」


 沸き起こる恨み辛みが、最も自分の人生が輝いていた頃の邪魔者、黒澤栄斗の妻だった望美に向かう。


「ああ……どうして私ばかりが、こんな目に合うの……」


 何度も人生を振り返る中で、最後まで彼女の心に残ったのは、嫉妬だった。


「これまで私に奪われてきた人達が、今の私を見て笑っている……憎い……妻という立場を得て、社会的に大切に守られている彼女達が……こんな地獄を知らない女達が……」


 紅村美咲、四十二歳。

 望美が死んでからおよそ十四年、栄斗が死んでから実に十一年が経とうとしていた頃、彼女もまたこの世を去った。

次で番外編は終わりです。

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