第1話 衛、望美の死を知る
番外編を少し追加します。
何故、4人は転生することになったのか……もし良ければ、しばしお付き合いください。
(毎日一話更新予定)
「……は? 嘘だろ……? だって、望美は……まだ三十六歳だぞ……!!」
久しぶりに帰った実家で、母から言われた信じがたい話に、衛は思わず叫んでしまった。
想像以上の反応を見せる息子の姿に、母親の脳裏には幼い頃によく一緒に遊んでいた息子とその幼馴染の姿が浮かび、悲しみの色が濃くなる。
「本当に、まだ若いのにねぇ……過労だなんて……子供も幼いみたいだし……なんて言っていいのか……」
「望美の旦那は……黒澤栄斗は、一体何をしていたんだ!? 死ぬだなんて……そんな……」
徐々に衛の声は小さくなっていき、頭は俯いて、呆然と膝から崩れ落ちる。
随分昔に望美が引っ越してから、これまでほとんど接点もなかったというのに、幼き頃の彼女との思い出が一気に蘇ってきた。
両親が同じく会社を経営しているということと、たまたま家が隣だったということもあり、物心つく頃から幼馴染として、家族ぐるみでよく一緒に遊ぶ仲だった。
平凡な顔立ちではあるものの、優しい性格と、温かく穏やかな笑顔が好きだった。
待ち合わせして一緒に登校し、日々の他愛無い話を共有し合い、時に喧嘩をしながらも、お互いの生活に最早なくてはならない存在だった。
それが突然、望美のご両親が事故で亡くなって、祖父母の元で生活するために遠くへ引っ越しして行ってしまった。
そこは小学生の子どもには遥か遠くに感じるほどの場所で、彼女の記憶と思い出は、徐々に輪郭がぼやけ淡く儚くなっていった。
薄れゆく彼女への気持ちはいつしか意識の底に沈み、その後、中・高・大と順当に進学した俺は、勤めていた父の会社を離れて自分の会社を興し、がむしゃらに仕事に邁進していた。
そんな日々の中で、唐突に出会った。
――黒澤栄斗。
数年前に結婚して”黒澤”の姓を名乗ることになったという彼は、自分と同じく一代で会社を興していた。
年も近く、何よりも、聞き覚えのある苗字に興味を持って近づいてみた。
そして、それとなく聞いた彼の妻の名前・望美に、心の奥底にあった何かが顔を出した。
しかし、その何かを、俺は意識してまた底に沈めた。
勢いに乗る彼の会社の業績や、彼自身の自信あふれる雰囲気に、かつての幼馴染は良き配偶者を得たのだと、その時はそう信じていたんだ。
……それがどうだ。
望美の死の知らせを聞いて、改めて彼の会社や彼自身について調べてみると、よくない噂がたくさん出てきた。
噂を掘れば掘るほど、信じられないような話が出てくるばかりだった。
支配的なワンマン経営、パワハラ、モラハラ、女遊び、不倫……果てには、そもそも望美には愛がなく、ただ、彼女の家柄目的の結婚だったとは……
どうして、もっと早く知ることができなかったのか。
事実と、そこに至るための噂は、こんなにも身近にあったというのに……
どうして、もっと早く気付くことができなかったのか。
苦しんでいた望美に気付き、救い出すことができていれば、彼女は死なずに済んだのに……
最初、たまたま彼と出会い挨拶を交わした時の、男らしく頼もしいと感じた印象は歪み、望美の死に、自信家で傲慢そうな黒澤栄斗の高笑いが聞こえてくるようだった。
……そんなの、許せるわけがない……
黒澤栄斗との出会いで一度顔を出し、沈めたはずの何かが、抑えを失って一気に噴き出した。
俺は滾る感情を胸に、黒澤栄斗と、その不倫相手の秘書・紅村美咲について、さらに徹底的に調べることにした。




