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最終話 アリーナ、光を掴む

「あの二人のことを考えているのか?」


 領館の執務室で、手元の書類から視線を()らしてぼーっと窓の外を眺めていたアリーナに、ルークが声をかけた。


 全てにけりを付けてから、(はや)ひと月……


 伝え聞く噂では、元聖女のミザリーは自分が移した後、取り返しのつかないほどに進行した病気を泣きながら回収し、元勇者のエイトは抵抗する犯罪者達を支配して恨みを集め、徐々に精神を壊していっているという。


「うん……エイト(英斗)は、前世での結婚前はそれなりに大切にしてくれていたなって……こんなことになってしまったのは、私のせいもあるかもしれない。私がもっと頑張っていたら、違う結末があったかもしれない。って、どうしても考えてしまって……」


 アリーナがそう、伏目がちに答える。

 

 エイトに復讐を果たした後も、アリーナの心は囚われたままだった。

 そんなアリーナの姿に、ルークは唇をグッと噛み締める。


アリーナ様(望美)は悪くない。モラハラも不倫も、一線を超えてしまうかどうかは本人の問題だ。こうなってしまったのは、他でもない、エイト(あいつ)自身のせいだ」


 ルークの言葉にアリーナは一瞬、「そうだよね……」と、フッと表情を和らげるものの、相変わらず心の中の霧は晴れない。


 色々と逡巡(しゅんじゅん)しているようなそぶりを見せつつも、アリーナはまた外の景色の方を見る。


 そのアリーナの視線を、不意にルークが(さえぎ)った。

 目の前のルークに、アリーナの焦点が定まる。


「……もう、前を見ないか?」


 ルークはそう言うと、アリーナの前で膝をついて、そっとアリーナの手をとった。

 真剣な表情で見つめてくるルークの瞳に、思わず吸い込まれそうになる。


「……傍にいたときは、その光に気付かず、むしろ当たり前だとすら思っていた」


 突然向けられた目線に戸惑いつつも、握られたルークの手の温かさに、アリーナの瞳の奥が揺らめく。


「……無くした後も心の空洞に気付かず、それが自分なのだとずっと思っていた。でも、違った。何度、()()()()()()()()()()()と後悔したことか……」

 

 そう言って眉間を寄せ、少し俯くルークの表情には、後悔の色が浮かんでいるようだった。

 耳から入ってくるルークの、アリーナに向けられる低く艶のある声に、頬が徐々に火照(ほて)ってくる。


「光が消えたと知った時にようやく自分の気持ちに気付き、また光を見つけた時には、もう、自分の気持ちを抑えることができなくなった……」


 窓からの日差しを受けて、ルークの体は淡く輝いていた。広がってくるミルクのような甘いルークの香りに、頭がクラクラしてくる。


アリーナ様(望美)を、俺の都合に巻き込んでしまい、本当に申し訳ない……」


 まるで懺悔(ざんげ)するかのように、ルークは握りしめるアリーナの両手を自身の額に当てた。

 手の甲から伝わるルークの体温に、五感で伝わるルークの存在感に、アリーナの胸の鼓動が高鳴ってくる。


「……俺のこのギフト(献身)は、これから、アリーナ様(望美)、君を守るためだけに使うと誓う……」


 アリーナの顔を見上げるルークの瞳に、熱がこもっているのが見えた。

 その熱に呼応するかのように、アリーナの目から涙が一筋、溢れてくる。


「だから……これからずっと側で、君を守らせてくれないか」


 ……


 ……


 ……これがずっと、ずっと、私が待ち望んでいた言葉だったんだ。

 

 溢れる涙の量が増え、胸が熱く、満たされていく感覚がする。


「……はい」


 アリーナの返事に、ルークは立ち上がり、力強くアリーナを抱きしめた。

 

 お互いにたくさん遠回りをしてきた。

 それが無駄だったとも思わない。

 

 けれど、初めて掴んだこの()を、もう二度と、離しはしない……


 そう思いながら、アリーナは自分を抱きしめるルークの体と、自分を見つめてくる熱を帯びた瞳に、素直に身も心も預けていった。

 完結しました。

 ここまでお読みいただき、誠にありがとうございました!


 "アリーナ"も"ルーク"も光という意味があります。望美も、希望の光ということで、本作品のテーマは"光"でした。


 ★⭐︎★忌憚(きたん)ない、評価・レビュー・感想をお願いします!★⭐︎★


 また、今後は、番外編として二人の甘々な生活を含めた『後日談』と、前世で望美の死後、どうして4人が異世界転生する事になったかという『はじまりの物語』を追加していく予定です。

 そちらも、良ければお付き合いください。


【2024年1月10日追記】

悪役令嬢物?の新連載を始めました。もしよければ、こちらもご覧ください。

『氷の令嬢と呼ばれた侯爵令嬢は、追放された公爵令嬢を拾う』

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