第11話 アリーナ、最高の舞台を始める
エイトとミザリーに復讐すると改めて決意して以降、アリーナはルークと共に復讐の計画を進めていった。
それらは、これまで通りの普段の護衛中においてだったりと、さり気ない日常の中で行われ、考えられた計画は、徐々に、不自然でない程度に、日常へ組み込まれていった。
次第に季節は移り替わり、あの、千里眼で見た景色に近づいていく……
そしてついに、アリーナとルークはこの日を迎えた。
――グランドル領祭・紙婚式。
毎年、グランドル辺境伯領の領主夫妻の結婚記念日を祝うこのお祭りは、領主一族の末永い繁栄と、領地および領民の安寧を祈る祝祭であり、エイトとアリーナの結婚一周年にあたる今日、このグランドル辺境伯領の各地で行われていた。
今年、夫妻の滞在に選ばれた街は、国内で最も魔王城に近く、魔の森に接する国境の街・ディーリンガム。
勇者が、魔王討伐前の最後に立ち寄り、魔王討伐後、その知らせが最初にもたらされた街として知られ、その勇者を領主に戴くこの領にとって、領主夫妻の記念すべき結婚一周年を祝う舞台として、ここ以上に相応しい街はなかった。
しかし、街中が紙で作られた花束で溢れ、住人たちの賑やかな声が響く今日この日、領主である勇者の姿はこの街にはなかった。
あるのは、住人達も今日は立ち寄らない、街の外れにある一番の高台から、魔の森を静かに見つめるアリーナの姿だけだった。
「あいつらは、首尾よくカチオンの街に出かけて行ったのか?」
ただ静かに、魔の森を見つめるアリーナに、街の巡回を終えたルークが話しかける。
「……ええ、あの二人の結婚式はもうすぐだもの。私より、聖女のミザリー様を大切にした方がいい。ディーリンガムから最も遠いカチオンの街で、二人でゆっくり温泉にでも浸かってくればいい。と唆したら、すぐに食いついたわ」
アリーナはルークの問いかけに、視線を変えることなくそう答える。
あの日、千里眼で見たのはこの日の光景だった。
魔物の群れに呑み込まれる街に、逃げ惑う人々、そして方々に散る紙で出来た花々。
今、どんなに魔の森に向かって千里眼を使ってみても、何も見えなかった。
今この時が、運命の分かれ道なのだと感じる。
「……来た」
魔の森を見つめるアリーナが、小さくそう呟いた。
魔の森から、土煙を上げながらこちらに向かう数千、数万に上る魔物達の姿がアリーナの瞳に映る。
「さあ、始めようか」
ルークの言葉にアリーナは小さく頷き、振り向いて、差し出されていた手を掴んだ。
アリーナの前世と今世をかけた最高の舞台が、今、始まった。




