第10話 アリーナ、二人と向き合う
二人にきちんと向き合うと言っても、第二夫人を迎えると告げられた以降、関わらなくても問題なく生活できる程度にアリーナとエイトの関係は希薄だった。
仕事をアリーナにすべて押し付けて、方々で遊びまわっているという二人をどうやって捕まえようか……と考えていると、そう言えば一つ、二人が必ずそろって姿を現すタイミングがあるなと思い至る。
やはり気乗りはしないものの、ルークとの約束を思い出し、アリーナは覚悟を決めて久しぶりに戻ってきた屋敷の夜を早々に終えた。
「おい、どうしてお前がここで食事をしている」
花々が鮮やかに咲き乱れる爽やかな朝、アリーナはいつもエイトとミザリーがイチャイチャしながら食事をしていた東屋で、先に食事をとっていた。
「あら、私はこの屋敷の女主人ですから、どこで食事をいただいても良いはずですが……」
女主人という言葉に、エイトと腕を組んでいたミザリーの眉毛が、ピクリと不快そうに動く。
アリーナはそのミザリーの変化を確認すると、ミザリーの方に視線を送りながら立ちあがり、優雅にお辞儀をした。
「聖女のミザリー様ですね。ご挨拶が遅れてしまい、申し訳ございません。私、そちらのエイト辺境伯の妻で、アリーナと申します」
「……ミザリーだなんて、気安く呼ばないでくれる? 私がエイト様の本当の妻、そして、この屋敷の本当の女主人になるのだから」
礼儀として行った挨拶に返ってきたのは、宣戦布告ともとれる発言だった。ミザリーは鼻をフンと鳴らし、自身の横にいるエイトをねっとり見つめ、さらに言葉を続ける。
「ただの辺境伯の娘と聖女、どちらが価値が高いかなんて考えなくても分かるでしょう?」
そう言うと、ミザリーは完全にアリーナのことを見下したような目線を向けてきた。
アリーナを小馬鹿にしたような下卑た笑い方をしてくるミザリーに、アリーナの後ろに控える侍女たちが怒りに震えだし、エイトとミザリーの周りを取り囲む執事や従者たちが顔を青くして目線を泳がせる。
エイトはミザリーを止めることもなく、共に、ニヤニヤした表情をこちらに向けていた。
……ダメだ。
前世と変わらないどころか、やっぱり、前世以上に調子に乗っているみたい。
アリーナの中で、最後の最後まで残っていた何かが、プツンと切れた感覚がした。
嫌だ嫌だと避けていた、この二人と関わることが、一気に馬鹿らしく思えてくる。
この二人は何も変わっていない。
私を縛り、傷付け、容易に踏みつけてくる。
でも、この二人はそれでいい……これで心置きなく復讐できる。
アリーナはそう思い直すと、フッと少し口元を緩ませ、殺気立つ侍女たちを引き連れて東屋を後にした。
エイトとミザリーの二人は鼻で笑うようにして、アリーナが座っていたソファーに座り、二人の世界に入りだしたが、その他の残された者たちは不穏なアリーナの雰囲気に、ただ、去っていくアリーナの後ろ姿を見送ることしかできなかった。




