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ヤンキー、悪役令嬢になる  作者: 山口三
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リンとゴードンの婚約



「今は乗馬どころじゃありませんわ! ジュリエット様」つかつかとやって来たミナがあたしの腕を掴んだ。

「あらミナ。私がここに居るってよく分かったわね」

「公爵令嬢が弓術に長けていると噂になってますもの。それよりダンスの練習の事をお忘れではないですか?」


 あっちゃ~確かに忘れてたわ。やっぱ人間て嫌な事は忘れる動物なのね。


「ええっと、そうでした、わ」

「ジュリエット様をお借りします。ライオネル様失礼致します」


 あたしはミナに引きずられるようにしてダンスレッスンの教室に連れて行かれた。後ろでライオネルが「模擬戦上位3人か」と呟いている声が耳に入った。あたしが振り返るとライオネルは面白い物でも見るような顔をして笑いながら手を振っていた。



「ジュリエット様が弓術を嗜まれているなんて知りませんでしたわ」

「どう? 見直したでしょ」


「ですが貴族令嬢に大切なのは弓術ではなくダンスの方ですわ」

「今日はもう授業は終わったじゃない」

「ダンスの講師が特別に補講をされるそうです。希望者が多いのですわ。令嬢たちは皆ダンスの発表会に力を入れてますもの」


 生徒が一堂に会するダンスの発表会は自分をアピールする絶好の場所だそうだ。そこで美しく目立てば今後の良縁に繋がるらしい。この世界の令嬢たちの幸せは嫁ぎ先で全てが決まるそうなのだ。


 まるで江戸時代の姫様ね。女性は政治の道具としてしか見られてないんだわ。



 ミナと一緒にダンスの教室に入ると中に居た女子生徒の視線が一斉に集まってくるのを感じた。

 ジュリエットってばさすが悪役令嬢だけあって、いつでもどこでも何かしらの注目を浴びているのを感じていたが、今日のそれはどうもいつもと感じが違う。


 広い教室で生徒同士が組みになってレッスンが始まった。あたしもミナと組んで踊り始めたが、そうしてやっとその違和感の原因がはっきりした。


 あたしのダンスは相変わらずぎこちない。すると順番待ちの生徒の陰口が聞こえてきた。


「どれだけ頑張ってもレッスンは無駄になるでしょうにね」

「クスッ。そうよね、きっと今年も王子様方が優勝されるでしょうけど、もうあの方が選ばれることはないんですもの」


「ねぇねぇ、それってどういう事ですの?」

「あなたはまだご存知じゃなかったのね。ゴードン様とリン様の婚約が発表されましたのよ、先ほど」


「まあ! でもこんな時期に?」

「こんな時期だからですわ。ダンスの発表会の前だからこそ・・」

「ああ! じゃあ指名されるのはもう決まったも同然なんですわね」


 なるほどね。とうとうゴードンとリンの婚約が決まったのね。でも小説では当日にゴードンがリンを指名して大騒ぎになり、その直後に婚約が発表されてたと思ったけど。


 ま、いっか。ダンス発表会の前の方が周囲の衝撃も多少抑えられるだろうしね。よしよし、いい方向に向かってるじゃない!


「あっ!」ミナが足元を見て顔をしかめた。


 おっと、考え事しててミナの足を踏んじゃったわ。「ごめんね、ミナ」


 これを見ていた令嬢たちがまたクスクスと笑い出した。あ~~もうイライラする。どうしてああいう人達って陰でコソコソすんのかしら。あたしはまたブチ切れた。


「てめぇら、うるせぇぞ! 言いたい事があるなら後で全部聞いてやるから少し静かにしろ!」


 シ~~~~~~~ン


 ダンスの教室は水を打った様に静まり返った。講師の女性も驚いて目が飛び出しそうになっている。


「ゴホン、ミナ足、大丈夫? ちょっと休憩にしようか?」

「あ・・ええ、そうですわね」


 控えの椅子に座るとミナが心配そうにあたしに話しかけてきた。「ジュリエット様、令嬢たちの話が聞こえてしまったのですね」


「まあそうね。でも気にしないわ、遅かれ早かれ耳に入る事なんだから」


 ミナはどうやらゴードンとリンの婚約発表にあたしがショックを受けてあんな風に怒りを爆発させたと思ってるようだった。


 

「さ、さあ最初の組みに戻って、もう一度ワルツ2番で行きますよ」ハッと我に返った講師が手を叩いた。


 はあ~出番だわ。発表会の時に指名される事は無くなったんだからもう練習しなくても・・発表会に出なくてもいいんじゃないかしら?


「クレイ嬢、もっと優雅さを意識して!」


 優雅さって何ですか? 食べたら優雅になれるお菓子とかないのかしら!


『なんて安直な! もう見ていられませんわ!』

 

「はぁ?」安直で悪かったわね。


 ミナが驚いた。「どうかされましたか?」


「ミナ、今何か言った?」

「いえ、私は何も」


『ミナではありません。わたくしはジュリエットです』


「えっ!?」

「・・ジュリエット様?」不安そうな顔をしてミナがあたしを見ている。とうとうあたしは立ち止まってしまった。


 この声…まさかあたしの頭の中から聞こえてる??


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