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ヤンキー、悪役令嬢になる  作者: 山口三


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ライオネルの弁論


 廷内のどよめきが収まらぬうちに弁護側の弁論が始まった。


 ライオネルが廷内に進み出てジュリエットの無罪を主張した。そして一人目の証人として、先ほど証人席に立ったばかりの雑貨屋の主人アル・クリークを指名した。


 クリークはたった今証言を終えてほっとしている所にまた指名を受け、驚きで椅子から飛び上がりそうになっていた。一度証言すればそれで終わりではなかったのか?! 約束が違う、と不快感を露わにしながら証言台にクリークは立った。


「アル・クリークさん、被告人があの小瓶を買った日にちを覚えていますか?」

「日にちですか。えーっと〇月9日だったと思います」


「ありがとうございます。では次にマギー・オットーさんを証人として喚問します」


 ライオネルはもうクリークに見向きもせず、そう宣言した。クリークは拍子抜けした体でまた自分の席に戻って行った。続いてマギーが証言台に立った。


「あなたはリン・パラディ嬢の侍女をされていますね?」

「はい、そうです」

「では〇月9日のあなたの行動を話してくれますか?」


「はい。私はその日、さるお方のご命令でミナ・ロバーツ様の行動を追っておりました。この日、ミナ様はアカデミーの途中でジュリエット様と中退し、一緒にロバーツ家の馬車に乗りました。馬車はクリーク雑貨店の前に止まり、()()()()雑貨店に入って行かれました」


 そこで傍聴席の前方に座っていたミナが突然立ち上がり抗議を始めた。


「私はジュリエット様に頼まれて、雑貨屋に薬を取りに行っただけですわ!」


 すかさず裁判長がミナに注意を入れた。「傍聴人に発言権はありません。座りなさい」


 ミナはしぶしぶ席についた。それを見たライオネルはジュリエットに向かって質問した。


「今、彼女は被告人に頼まれたと言いましたが本当ですか?」


「いえ、頼んでいません。わたくし、その日は風邪気味で具合が悪く、アカデミーは中退する事にしました。そして屋敷まで送ってくれるというミナから渡された風邪薬を飲んで、馬車の中で眠ってしまいました。目が覚めた時は自分の屋敷の前でしたわ」


「ではマギー・オットーさん。その後何があったかを話してくれますか?」


「雑貨店の小窓から中を伺っていると、ミナ様がクリーク氏と話をしていました。小窓は開いていましたから声も聞こえました。ミナ様は小瓶に入った毒物を購入して、それを買ったのはジュリエット様だと証言して欲しいとクリーク氏に持ち掛けていました。『これに金貨が200枚入っているわ。これでどうかしら?』とミナ様が言うと『こんな危険な毒物を買って行く人の頼み事じゃあ、この倍は頂かないと。なにせ相手は公爵家の令嬢でございましょう?』とクリーク氏が返しました。するとミナ様は『強欲な商人ね』と言い、同じ袋をもうひとつ差し出して『これ以上は無理よ。取引成立ね』と言い、店を出て馬車に乗り込み、馬車はクレイ公爵家に向かいました」


 今や廷内の視線は、顔面蒼白になって座るミナに注がれていた。そこへ王立騎士団の制服を着た男が二人入って来て証拠品だという貴重品入れの木箱を裁判員の前に置いた。


「裁判長、これはクリーク氏の貴重品入れです。これを氏に開けていただきたいのですが?」


 裁判長は頷いた。アル・クリークは小刻みに震えながら前に出て来て、首からぶら下げた小さな鍵でその箱を開けた。裁判員の一人が中を確認すると金貨の入った袋が、確かにふたつ出て来た。


「今ここで何枚あるか数えてもいいですが‥アル・クリークさん、先ほどの証言を撤回する機会を差し上げましょう」


 鍵をぎゅっと握りしめたままでクリークは裁判長の顔を見上げた。そして震える声で言った。


「さ、先ほどのしょ、しょ、証言は嘘でございました。薬の小瓶を買って行かれたのはそちらの令嬢様でございました」


 クリークはゆっくり振り返ってミナを見た。廷内は騒然となり、裁判長はガベルを4回も叩かなくてはならなかった。


 廷内がようやく静まりかけた時、ライオネルはまた一人、証人の名を告げた。


「次にゴードン・プロボスト王太子殿下を証人として召喚します」


 廷内はまたもやざわついた。当の本人も一瞬目を丸くしてライオネルを見たが、黙って証言台に立った。


「殿下、殿下はクレイ公爵令嬢がパラディ嬢に毒を盛ったと知った時、なんと思われましたか?」

「・・それはこの裁判とどういう関係があるのだ?」


「あるのです。ここは法廷ですから正直に思われた事をお話下さい」


「私はジュリエットがリンに‥パラディ嬢に悪感情を抱いていて、アカデミーでも嫌がらせをしていた事を知っていた。だからこうなる事を予測して防げなかった事が、パラディ嬢を守れなかった事が非常に悔しかった」


「では殿下は被告の仕業だとすぐ納得されたのですね?」

「ああ。パラディ嬢への嫌がらせの他にも、高慢で意地悪な人物だという噂を聞いていたからな」


「それはどなたから聞いたのですか? 具体的にはどんな事を?」

「側近のカイエン・ロバ‥ロバーツからだ」


 ゴードンは側近の名を告げながら徐々に表情が曇って行った。カイエンは確か伯爵家の3男だったな。自分は3男だから当主の座が回ってくる事はないし、出世にも縁がないと笑っていたが・・。


「例えば、茶会で間違えてジュリエットにお茶をこぼしてしまった夫人に対して暴言を吐き、法外なドレスの賠償金を迫った上に、お茶を掛けて火傷を負わせたと聞いた」


「ありがとうございます。では次に殿下の側近のカイエン・ロバーツ氏を召還します」


 ゴードンの後方席に控えていたカイエン・ロバーツの肩がわずかに上がった。証言台に立った彼は緊張のせいか顔色が優れなかった。


「ロバーツさん、先ほどゴードン殿下が証言された内容に間違いはありませんか?」

「は、はい。間違いありません」


 そこで原告側から抗議が入った。「弁護人の意図が分かりません。これは今回の審議には関係ないことと思われます」


 裁判長も同じように感じていたのかライオネルに説明を求めた。


「これは被告の人間性についての論証です。被告が本当にこんな非道な犯行をする人物なのかを、皆様に検証して頂くのです」


 裁判長は他の裁判員と一言二言、言葉を交わすとライオネルに弁論を続けていいと許可した。


「では次にソフィア・ピケット伯爵夫人を証人として召喚します」


 ライオネルはゴードンが証言したお茶会での出来事について、伯爵夫人にその真偽を尋ねた。


「結論から申し上げますと、ロバーツさんのお話は全て間違っております」




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