俺のことをストーカーする女子に「俺のこと好きなの?」って聞いてみたら「え?いや違います」って言われたんだけど!恥ずいわ!
「……」
学校帰り。背後から人の気配がして、後ろを振り向く。すると、電柱の影に誰かがサッと隠れた。
…また、いる。
少し前から、何故か俺の後をついてくる女がいる。すぐに隠れるからどんな女か分からんが、チラッと見えた制服…あれは、俺の通う高校のすぐそばにある女子校の制服だ。
それにしても、何故女子校の女に付きまとわれてるのかわからん。そこの女子校と接点なんてまるでないし。別に俺はイケメンとかでもないし。つーか、生まれてこのかた、彼女なんていたことの無い、ちょっと目付きの悪いフツメンだし。
何でこんな俺にストーカー?するのか、意味がわからない。
もしかして…俺に一目惚れした…とか?なわけねーか。
とかなんとか、内心でひとりそう思いながら、でも、もしかしたらそうなのかもしれないと、どこかで期待する俺もいて。
♧
そんなある日の放課後。俺が一人で下校してると、また後ろから誰かの気配を感じて。後ろを振り向くと、やはりいつもの女がついてきているようだ。
女は結構素早く、不意に振り向いてもささっとすぐに物陰に隠れてしまう。なので、顔を見たことがない。
さて、どうすっかな…
そう心の中で独り言を言い、俺は急に早足で歩き出す。女も急いで歩いているのか、俺の後ろからローファーが地面を踏む音がよく聞こえる。
俺はいつもとは違う道にサッと曲がり、曲がり角であの女が曲がってくるのを待つ。
そして。
「キャッ!!?」
予想通り、女は慌てて曲がり角を曲がってきて、曲がり角を曲がったすぐのところにいた俺にビックリして、小さな悲鳴を上げた。
初めて見た、俺の後をついてくる女の顔。何て言うか─…え?!めっちゃ可愛いんだけど?!この女が毎日俺の後をつけてたのか!?ウソだろ!?
亜麻色の腰まである、ゆるふわにうねる髪。ぱっちりとした大きな瞳。華奢で小柄なのに、存在感のある大きめの胸。何より…顔が可愛い。というか、あんまり見たこと無いくらいの美少女だ。
女は目をキョロキョロとさせ、小さな声で「どうしよう…どうしよう…」とぶつぶつ言う。曲がり角のところで急に俺と出会ったから、相当動揺しているようだ。
俺はその女を見下ろしながら言う。
「えーっと…あんたさ、ちょっと前から俺の後をついてきてた…よな?」
俺がそう聞くと。
「あ、えと…はい、すみません…」
そう言って、女は深々と頭を下げた。
「何で、俺のことストーカーするみたいなことしてたの?何か言いたいことでもあるの?」
「その…」
女はもじもじしながら、視線を地面に落とした。俺は。
「あのさぁ…もしかしてあんた、俺のこと好きなのか?」
少し胸をドキドキさせながら、俺はその女に聞いてみた。すると。
「え?いや違います」
女は、きょとんとした顔でそう言った。
「えって…え?俺のことそういう…恋的な意味で好きだから、ストーカーしてたんじゃないのか?」
「あ、いえ。恋愛的な好意は無いです。ただ…その、あなたの顔が、去年亡くなった奏翔に似てて…それで何だか気になっちゃって」
女は少し涙目になりながらそう言った。
…なるほど、亡くなった元カレか片想いしていたヤツに俺が似てて、そいつの姿と俺を重ねてた…的な感じか。
「でもほんと、近くで見ると奏翔に目がよく似てる。目付きが悪い子だったけど、そこが可愛いかったんだよね。いつも私のこと見るとちぎれそうなくらい尻尾を振って…すごく大好きだったなぁ…」
そう言いながら、女は涙目から涙を溢しはじめた。
…ん?尻尾?
「そのカナトってやつ、元カレとかじゃないのか?」
「え?ううん、奏翔は私が飼ってた犬だよ」
…………
「いや、犬かよ!!!」
間をあけて、俺は思わず大声でツッコんだ。そんな俺のツッコみをスルーし、女は声を震わせ本格的に泣きはじめた。
「ふう…うううっ…かなとぉ~…」
「お、おいおい…俺の前でマジ泣きはじめるなよ」
俺の目の前で涙をボロボロと溢しながら泣く女。すると、俺たちの横を通りすぎる人たちがぼそぼそと「やだ、女の子泣かしてる、サイテー」「カツアゲ?警察呼ぶ?」とかなんとか、とんでもないことが聞こえてきた。おいおお、勘弁してくれよ。
「はぁ~…」
俺はため息を吐き、そして。
「…そんなにそいつのこと、可愛くて大好きだったんだな。俺も昔犬…飼ってたからさ、悲しいのはわかるけどでも、あんまり泣くなよ。そんなに泣いたら、その犬天国でずっとお前のこと心配しっぱなしだぞ」
気づいたら俺は、その女の頭をぽんぽんと撫でながら、そんなことを言っていた。
「うん…そうだね。奏翔ちゃんに心配ばっかかけさせちゃダメだよね。ごめんね…奏翔」
「おう…いや、俺を見ながら言うな。俺はカナトじゃねぇよ」
涙を手の甲で拭いながら、俺に笑いかけるその女が…すごく可愛くてキレイで、ドキッとする。
─────いつか、犬に似てる俺じゃなく「俺は俺」として見てくれるようになったら、俺はまたこの女に…この人に告白したいな、って思った。
それから約一年後。
俺はストーカー?だった女に─…奈留に告白して付き合いはじめるけど、それはまだ先の話。