君がいて幸せ
雪積もる久しい道を歩く。
ざくざくと音を立て、白さ際立つ冬の花が舞う中。
ここはこんなに寒かっただろうかと、鼻を赤くした俺はスマホを耳に当てていた。
「あ、ねぇ。そっちでもクリスマスソングが流れてるんだね。こっちの定番と変わらないね?」
聞こえる声は弾んでいて、その後ろからお湯の沸く音が微かに届く。
俺は「そうだね」と返して、気にも留めなかったスーパーのBGMを確かめた。有名な洋楽で、小さくホッとした。
「こっちはね、今日も雪が降ってるよ。ホワイトクリスマスなの」
カップが出され、わずかな間を置いてお湯が注がれる。紅茶好きな彼女だから、きっと紅茶だろう。
会話の外から聞こえる音で、俺は彼女の様子を思い描く。
「寒いから、もこもこは欠かせないわ。去年のクリスマスに貰った部屋着セット、愛用してるよ」
紅茶を入れる彼女は、ボア素材のセットアップを着用中らしい。
フード付きパーカーにショートパンツ、太ももまですっぽり覆うレッグウォーマーは落ち着いたダスティピンク色。色白の彼女に似合うと思って、贈ったんだっけ。
「ふー、あちち。そっちも寒い?」
淹れた紅茶を飲むのは、彼女の部屋にあるひとり掛けソファだ。
両手でカップを持って、冷えた手を温めながらふぅふぅと冷ます。猫舌だから、ちびちびとしか飲めない。
俺は「今は寒いよ」と返事をして、そろそろかなと足を止めて腕時計を見た。
ちょうどそのタイミングで、スマホ越しに呼びベルが鳴る。
「誰か来た。ちょっと待っててね」
彼女の素足で歩く音が遠ざかる。
小さく聞こえるやりとりはほんの数秒で、扉が閉められた。
戻ってきた足音は、わかりやすく小走りだった。
「ねぇねぇ。今年も送ってくれたの? 送料かかるし、いいって言ったのに」
咎めつつ、嬉しそうに箱を手にしているんだろう。
ふわふわと頬を緩める彼女の顔は、こんなにも俺の記憶に焼きついている。
海外転勤になって三年目、彼女と離れて三年目。
年に数回しか会えなくなってしまったのに、彼女のすべてが俺の中で息づいている。
薄れることのない彼女への想いが、彼女の些細な仕草さえも忘れさせようとしない。
「別にね、気にしなくていいんだよ? イベントで会えなくたって、距離があって仕方ないんだから……」
箱を開けながら俺を許してくれる彼女は、中身を取り出して言葉を止めた。
俺は止めていた足をまた動かし、ざくざくと雪道を歩く。
困惑しているらしい彼女は、それを受け取ってくれるだろうか。
「これ、……これって」
「うん」
「これは、そういうこと?」
「そういうこと」
また呼びベルが鳴る。
彼女の足音が玄関へと向かう。
扉を開ける音がスマホと目の前からの二重に聞こえたら、想像通りの彼女の姿に俺は愛しさが溢れる。
「結婚してくれる?」
そんなに真っ赤な顔で、丸くした目で見つめてくるから。
すっかり冷たくなってしまった体で、想像よりも熱くなった彼女を抱きしめた。
くぐもった涙声が「結婚するぅ」と可愛い答えを聞かせてくれたから、俺はちょっとだけ笑って。
あぁ、幸せだなってあたたかくなった。