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人魚リュウコ

作者: やまいも

漫画の原作なのでところどころ台本形式だったりします

港町の建物があちこち崩壊している。

ぼろぼろの道を大きな体躯の海人が闊歩し、売り出している食品を金も払わず鷲づかみ。自動販売機は壊して中の缶をわしづかみ。

老人や子供たちは怯えて家の中で縮こまる。

若い女は攫われ、男は奴隷にされる。逆らう者は虫けらのように殺される。

これが海人に支配された町の現実。だがかつての平穏な日々を諦めきれない人々もいる。


闊歩していた海人の頬に、銃弾が当たる。


「ん? いってーなぁっ」


頬は軽く血が流れているだけ。致命傷には程遠い。

海人が睨んだ先には、銃を構えている軍人。


「けっ、カスが。まだ力の差が分からないのかっ」

「町から出て行け! 海の化け物め!」


血走った目で軍人へと駆ける海人。自動車のような速度。対して軍人は、後方へ駆けながら銃弾を放つ。

そして数瞬後。ぐちゃっ。踏み潰される軍人。悲鳴がこだまする。


リン「レイ! 玉木がやられた!」

レイ「何だと! 何故速まった!」

リン「でも、私だって! 玉木の復讐をさせてよ!」

レイ「ダメだ。待つんだ。今のままじゃ、嫌がらせにしかならない。やるなら戦争だ。勝つための、準備を」

リン「準備準備って、そう言っているうちに皆死んじゃったらどうするのよ! あいつらの数は、減るどころかどんどん増えてるってのに!」

レイ「待て! リン!」


静止も聞かず、感情が高ぶって、レイの下から走って去っていくリン。レイは壁に拳を打ち付ける。


「クソッ! クソッ!」




その頃、とある港。海の家。

周りのほぼ全域はボロボロなのに、なぜかその海の家だけ、無傷。どころか、非常に繁盛していた。

客に海人と人間が混ざっている。しかも、両者ともに仲良し。


ちょうどその時、海から新しい海人がやってくる。


「ぐははははは! 戦士の国オクトからチート戦士の転生だ! ひれ伏せ! 雑魚人間ど…も…」


人間を見つけ、勢いよく叫ぶ海人。だが、店の周りに割と強そうな海人がいた。しかも、チート海人を睨んでいる。


「チート戦士が、なんだって?」

「あっ、いや、おかしいなあ。あははっ…」


そんなチート戦士を見て、人間の子供が笑う。


「あはははははっ。ダッセーのっ!」


対して、チート戦士はぶち切れる。


「ああんっ! お、お前みたいな雑魚が、俺を笑ってんじゃねえよ!」


殴りかかるチート戦士。だがその拳は、1人の女によって止められる。

人間としてはやや大きめの体躯でも、海人にとっては小柄。にも関わらず、完全にピタリと止まっている。


「うん? 手加減しすぎたか?」


チート戦士はもう一回殴ろうとする。だがその顔に、女の足がめり込む。


「人の店の前で、暴れてんじゃない!」


ハイキック一発。チート戦士は大の字で気絶。顔の骨はふざけたように曲がっている。


「うぉおおおおお! かっけえええええええ!」

「やっぱすげえなあ! 姉ちゃんは!」


小さな男子達がきゃっきゃと叫ぶ。若い男は指笛。おじさんおばさんも笑顔。

いつ見ても気持ちのいい、見慣れた光景だ。


この海の家が、繁盛している理由。それは、ここにいる人間の女が、とても強いから。(本当はハーフなのだが、周りの目には、人間に写っている)

ここだと、人間がいても、安全だからだ。

そこに、海から別の海人が上がっていく。彼は手持ちの網に、わかめこんぶなどの海草と、カニや魚を捕まえている。

漁師の海人だ。


「よっせっと。大量大量!」


女店員が魚に寄っていく。


「おっ、なかなかいいのが揃ってるねー」

「そんじゃ、米と交換頼むよー」


軽く言う漁師。女店員は不満顔。


「いつも言ってるけど、うちは市場やスーパーじゃないんだよ」

「でもしょうがないじゃないか。皆ここで取引してるんだから」


漁師の海人の言葉と同時に、どわっと人間が寄ってくる。彼等は商売人。

自分の店では安全に商売できないので、この海の店で待ち構えているのだ。

やれやれ、という顔をする女。


そこに、別の女から悲鳴が上がる。


シオ「離して! 離してよ!」

カイト「よすんだ。そんなことでは何も解決しない!」


見ると、先ほど女店員が倒したチート海人を、人間の女がナイフで刺そうとしていた。

それを、別の人間が止めていた。若く、鍛え上げられている男だ。イケメンでもある。


シオ「でもカイト! こいつらのせいで、私のお父さんは!」

カイト「辛いのは僕も同じだ。僕も両親を失っている。だが、憎しみだけでは!」

シオ「だけど…。ううっ」


泣き崩れるシオ。カイトはやさしく背中をさする。

その時、チート海人が目を覚ます。


「あれ? 俺は一体…ひっ」


周りを見渡し、海人や店員の女を見つけるチート海人。そして思い出して恐怖に固まる。

しばらく後、カイトの誘導でチート海人は役所へと歩く。役所の場所は、海の家のすぐ近く。

ここの役所の主な仕事は、入国する海人にこの国のルールを説明すること。

時には説明に不満を抱いた海人が暴れることもある。ゆえに、この海の家の近くの方が都合がいいのだ。店員もいるし、比較的温厚な海人も多くいるためだ。


カイト「海からの移住希望者の方は、C地区の仮住まいに一度移住していただき、職業訓練を受けていただくことになります。

それから、いくつかの試験を受けていただき、合格していただければ、我々のB地区への移住も許可されます」

チート海人「そ、そっすか」

カイト「何か分からないことはありますか?」

チート海人「えーっと…。ああすみません。話ほとんど聞いてませんでした。あなたは誰でしたっけ」

カイト「私は岸本カイト。役人です。この京の国に移住を希望する海人の方にC地区までの案内をするのが仕事です」

チート海人「そっ、そっすか」


恐怖にのまれたチート海人は、素直にC地区へと移動した。

夕方、帰ってきたカイトが、シオと会話する。場所は、例の海の家。


カイト「あの人は、従ってくれたよ。この国のルールにのっとって」

シオ「すごいね。カイトくんは。我慢強いし、海人相手にも、物怖じしないし」

カイト「本当は恐くないわけじゃないさ。強がっているだけ」

シオ「ううん。強がれるだけでもすごいよ。私じゃあ取り乱しちゃって、説明なんてできない。きっとあの人とも、衝突することしかできなかった」

カイト「そんなことはないさ。君だって…」

シオ「カイトくん…」

リン「つーかさあ。そいつは本当に仕事するわけ?」

シオ「え」

カイト「リン…」


いつの間にかシオの隣に座っていたリン。


リン「だってさ。今回はあいつにビビッて従っただけでしょ? 人間のほとんどが弱いって分かったら、すぐに仕事なんてやめて、暴れるんじゃないの?」

カイト「それは…」

シオ「ダメだよリン! そんな暗いことばかり言ったら!」

リン「暗いとかじゃなくて、現実の話をしてるの!」

カイト「リン、もしかしてまだ君は戦って…」

リン「当たり前でしょ! 諦めるわけないじゃない!」

カイト「だけど君のやり方じゃあ、未来が…」

リン「バカにするな! 弱虫が!」


リン、感情が高ぶり、カイトに殴りかかる。だが、その腕を、例の店員の女が止める。


リン「リュウコ! あんたねえ!」

リュウコ「何か? 店の中で暴れるなら、出て行ってもらいたんだが」

リン「何かじゃないわよ! あなたはどうして、それほどの力がありながら、何もしないのよ!」


リュウコ、イラついてリンを胸元をつかんで持ち上げる。


リュウコ「あん? 私が何もしてないって?」

リン「そうよ! 戦いなさいよ! みんなのために!」

カイト「よすんだリン! リュウコは彼女なりに!」

リュウコ「いい、カイト。負け犬には言わせておけば」

リン「何ですって!」


リュウコ、リンを店の外へと投げ飛ばす。


リュウコ「何度も言ってるが、私は人と海人のハーフなんだ。人間だから助けるとか海人だから敵だとか、そんなしょうもない考えは持ち合わせていないんだよ!」

リン「ぐっ。だけど、どう見ても悪いのは海人でしょ!」

リュウコ「その言い方が、気に入らないって言ってるんだ! 種族とかじゃなくて、個人を見な!」

リン「くっ。くそっ。くっそおおおおおおお」


リン、涙を流しながら去っていく。


カイト「待つんだ。リン」


しばらく後

月夜の廃屋で銃を片手にたそがれるリン。そこにカイトが現れる。


「やあ」

「何よ」

「リュウコの海の店。昔は今にも潰れそうだったって知ってたかい?」

「どういうことよ」

「あそこ、海に近いし目立つでしょ。だから海人に狙われやすい。昔は危ないからって、ほとんど誰もあの店に行かなかったんだ」

「あっ…」


10年前


男子達「ボロ布のリュウコ。野生のゴリラにはお似合いか」

リュウコ「なんですってぇ!」

ケンカでボコボコにされる男子

男子A「くそー。なんでこの人数で勝てないんだ」

男子B「ありゃあゴリラだわ。人間じゃない」

カイト「リベンジしないとな。男が女に負けるなんて許せない」

男子C「え? まだやるの?」

カイト「当たり前だろ。とりあえずやつの家を調査だ。きっと秘密の特訓をしているはず」

男子D「え? そうなのか? ずっりーぞ!」

男子達「ずっりーぞゴリラめ!」わいわい


カイト家にて

カイト母「ダメよカイト。あの子の家に近づいたら」

カイト「海の近くは危ないから?」

カイト母「その通り」


だが、少年とは行くなと言われたら行きたくなるもの。こっそり海の家に入るカイト。そこで見たのは空腹で死にそうな海人。その海人にタダで飯を奢るリュウコの母親。

「ありがてぇ。ありがてぇ」

「いいんですよ。辛い時はお互い様ですから」

「うぉおおおおおおおん」

客は近所のおじいさん、おばあさんとその海人のみ。自分が貧乏なのに他人を思いやる。これがどれだけ難しいことか。

「お、おばさん。僕もドリンク、いいかな」

「あっ、カイトくん。お母さんは?」

「僕、一人で来たんだ」

「え? 大丈夫なのかしら…」


 リュウコがドリンクを運んでくる。その目には怒りが浮かんでいる。


「どうぞ」

「嫌なら手伝わなかったらいいのに」

「…っ。黙れ! 手伝いが嫌なわけじゃない!」


カイトはリュウコが何故怒っているのか分からなかった。

4年後。海人が町に頻繁に侵入し暴れるようになった。小学校高学年となり、すっかり身長が伸びたリュウコ。この頃には異常な強さを手に入れていた。そして、町でヒーロー活動をするようになった。海の店をよろしくお願いしますと言って。かわいいヒーローリュウコは人気となり、徐々に海の家に客が増えるようになった。

だが、ある日。その海の家が海人に襲われる。ヒーローリュウコに負けた海人の復讐。それ以来、リュウコはヒーロー活動をやめてしまった。


リン「そんな…。じゃあリュウコは、復讐を恐れて戦わないの?」

カイト「戦わないってわけじゃないさ。身の丈にあったことをするって言うのかな。自分の手の届く範囲で、自分が守りたいものを、守るべきだと気付いたんだと思う」

リン「何よそれ。言ってることは正しいかもしれないけどね…。じゃあ、私達は見捨てられたって言うの?」

カイト「そういうわけじゃないさ。彼女は彼女なりに、海人と人間の融和という形で…」

リン「くぅうっ。も、もういい! 分かったわよ! あいつにはもう、頼まないわよ!」

カイト「リン…」


翌日。とぼとぼと歩くリン。


「あいつに謝らなくっちゃ。でも…」


謝る言葉が見つからない。はあとため息をつくリン。


高官「ちょっといいかな、お嬢さん」

「えっ…」


そこでリンは男に話しかけられる。表面上人がよさそうだがいやらしい感じの笑い方。だが重要なのはそれではない。彼は立派な服を着て、多くの軍人を連れていた。リンの顔がパッと明るくなる。


「あっ! あっ!」

「道を尋ねたいんだが」

「中央の軍が! 援軍に来てくれたんですね!」


海人に支配されて数年。何度応援を求めても「こっちも手一杯」などと言って援軍をよこさなかった中央。この町は見捨てられたのだと思っていた。だが、積年の思いが、ようやく叶ったのか。リンは満面の笑みでぴょんぴょん跳ねた。


「ふむ、援軍。まあそれもあるが…」

「わぁー! うれしい!」

「今は海の家に案内してくれないか。強い娘がいるらしいじゃあないか」

「あっ、はい。海の家ですね。ちょうど私も行こうとしていたところです」

「ほう、それはちょうどいい」


はしゃぐリン。高官が悪い笑みを浮かべたことに気付かない。


「リュウコ、負け犬は酷いんじゃないの? きついいい方かもしれないけど、皆いっぱいいっぱいなんだから」

「うるさい。私だって反省はしている」

「謝った方が…」

「だからそれを今…」

「おおーい! リュウコ!」


母親と軽く口論になるリュウコ。その時、リンが現れる。満面の笑みで。多くの軍人を従えるようにして。何かと思うリュウコ。


「うげっ。魚臭い店だ」


だが、軍人はいきなり海人の客に対して失礼な態度を取った。リュウコの警戒心が上がる。


「今すぐ駆除したいところだが、貴様ら運がよかったな。今日は別件がある」


高官がリュウコにいやらしい笑みを向ける。そして、何やら紙を取り出す。


「対海人特殊攻略部隊。増え続ける海人被害に対し、大貴族である竜咲様直々に、軍、貴族、民間を問わず戦える人員を募集することになった。ここに、君も入ってもらいたい」

「えっ…」


固まるリュウコ。


「もちろんタダでとは言わないさ。食事も、住む場所も用意するし、給与はベテランのエリート軍人並みだ。家族一緒に移住も可能! 何より! この部隊に入れば、最高貴族であらせられる竜咲様の配下となることができる! これほど名誉なことはないぞぉ!」


一人盛り上がる高官。だがリュウコの熱は完全に冷め切っている。


「申し訳ないですが、受けられません」

「ん? 聞き違いか? もちろん、受けるよな?」

「いいえ、受けません」

「ぬぁっ! ちゅ、中央政府からの指令だぞ! こんな辺鄙で海人に支配された終わった町ではなく、安全で繁栄している都に住めるのだぞ!」

「特殊部隊で危険な海人と戦うのだから、安全なんてありえないのでは?」

「部外者は黙らっしゃい!」

「私はこの子の母です! 子どもの身の安全を考える責任があります!」

「……。あっ、お母様でしたか。これは失礼を致しました」


急に態度を変える高官。これには周りの軍人も苦笑い。


「どうですお母様も。都に住んでみませんか? 豊かでいいところですよ」

「いいえ。私は小さな頃からこの町で育ちました。それに、この店も。色んな思い出が詰まっています。離れたくありません」

「……君も、同じ考えなのかね」


高官、リュウコを見る。


「はい、その通り。この店を離れる気はないです」


びきびきびき、怒りで高官の血管が浮き出る。急に暗い雰囲気になり、すごみを出す高官。


「ちっ。下手に出ていれば、下々の分際でこの俺を舐めやがって。おい、プランBだ」

「はっ」


高官の声に、軍人が銃を取り出す。その銃口を、店の客。海人や人間の子どもに向けている。母親にもだ。


「なっ! 貴様等! 何のつもりだ!」

「国の存亡の瀬戸際に。小娘のしょうもない願いなんて聞いていられないのだよ。貴様がうんと言わないなら、無理矢理にでも従わせるまでだ」

「破廉恥なっ」

「ふん、何とでも言え。だが、従ってくれるよな? この店を、血に染めたくないのならば」

その言葉に、店の海人がとてつもない殺気を出す。本当に戦えば、皆殺しになるのは軍人の方だろう。だが、店には子どももいる。銃弾すべてから子どもを守り切るのは至難の業。少なくない数が、犠牲となるだろう。


「リュウコ、ごめんだけどここは一回下がってもらって…」

「でも、私がいなくなった途端に店に攻撃を始めるんじゃ…」

「我々だって人の子を撃ちたくはない。君が従ってくれるのなら、素直に引くさ」

「もし、引かなければ…」

「引かせるさ。だが、君の母親には付いてきてもらうぞ。まあなんだ、人質だな」

「何が家族も一緒に住める、だ。もともとそのつもりだったのか」

「いずれにせよ、君の返答次第ということだよ」


このようなやり取りがあり、リュウコは高官に従うことに。だが、その顔は怒りに燃え上がっていた。


「ちょっ、ちょっと待ってください! この店は、町は、その子が守ってくれるから成り立っているのです! 連れて行かれたら!」


急いでやってきたカイトが高官を呼び止める。近くにはリン。


「何を言っているのかね。ここは、終わった町だ。守るものなんて、何もないではないか」


リンが激怒する。


「裏切ったのね! 援軍に来てくれるって!」


リンが高官に飛びつきそうになる。それをカイトが止める。


「はて、そんなことを言ったかな」

「卑怯な!」

「海人に与する裏切りの町などに言われたくないな!」

「何ですって!」

「落ち着くんだ。リン」

「なんだ? 今すぐ死にたいのか? それか若い女なら、売り物にしてやってもいいが。はははっ」

「下種な…っ」


リン、カイトは怒りのあまり黙り込む。そして、何かが吹っ切れる。覚悟が決まった。戦うための覚悟が。軍人達は母娘を連れて去っていく。


「おい。俺は、あの母親と娘が気に入ってたからここを守ってやってたんだ。いないなら、守る気はないぞ」


そこで、海人の客の一人がリンとカイトに話しかける。別の海人が、先に発言した海人の前に出る。


「よせ、野暮ってもんだろう。取り返すぞ、あの母娘を。お前達も協力しろよな」

「もっちろん、あなた達がいなくてもやるつもりよ」

「ダメだよリン。ちゃんと協力しないと。作戦に私情は禁物だ」

「何その言い方。誰目線よ」

「ごめん…」


その頃、この母娘を連れた軍人達はこの町の外れまで移動していた。そこで、町の大部分を支配する悪い海人に囲まれてしまった。


「ぐへへへへ。あの生意気な小娘が一人でこんなところに来るとはな」

「海人の護衛がいなければ、俺達が負けるはずがないのだ!」


そして、海人達が襲いかかる。軍人達は抗うが、なすすべなし。


「おい、貴様も戦え!」


高官がリュウコに命じるが、あまり真面目に戦わない。避けるのみ。


「おい! 真面目に戦わないなら母親がどうなるか分かっているのか!」


高官が叫びながら、近くの母親に銃を突きつける。ムッと眉を吊り上げるリュウコ。だが、不意に高官の姿が消える。


「うぎゃああああああああああ」


見ると、高官は海人の巨大な手にすっぽりと掴み込まれていた。顔だけひょこっと出ている。


「なんだ? こいつの母親もいるのか? どこだ?」

「おっ、人質チャンスか?」

「さっさと言えよ。言わないとぉ」

「ひいいっ。言う! 言うから待ってくれ! あそこだ! あそこにいる女がこいつの母親だ! ぴぎゃっ」


海人が母親を認識すると同時に、高官は握りつぶされる。即死だった。


「くへへへっ。人質もーらいっ。あれ?」


母親に接近し、掴もうとする海人。だが、思ったよりすばしっこく、かわされる。この母親、実はそこそこ戦えるのだ。そうでなければ、あの海岸で、この年齢まで生き残っていない。

その間に、軍人は大勢死に、生き残った者も逃げていく。


「何やってやがる! さっさとしろ!」

「そうは言っても、殺さないように加減して捕まえるってのは」


その時、ひときわ大きな銃声が響く。母親を捕まえようとする海人の、目に銃弾が飛び込む。


「んぎゃああああああああああああああっ」

「何者だ!」


悪い海人達が、銃声の方を見る。そこには、銃を構えたリン、カイト。そして海の家の海人や人間達。


「出て行けよ! この町から!」


全員で威圧をかける。人間と海人。

悪い海人は怒り、殴りかかる。


「貴様等ぁ! 海人の癖に、雑魚人間と馴れ合いやがってぇ!」


対して、味方の海人はかわして反撃。


「なにっ」

「ぐはっ」

「俺達は、この人間の国でスローライフを満喫するために、あの地獄から抜け出してきたんだ。ここを、オクトと同じような地獄に変えてんじゃねえ!」


血を拭う悪い海人。


「ふざんけんな! 俺達にとっちゃあここは天国だ! 俺は奴隷ハーレムで内政チートをしているんだ! なろうアニメくらい知ってるだろ!」

「ふざけんなはこっちの台詞だ! お前みたいなクズがいるから、なろうアニメが誤解されてしまう!」


とかなんとか。人と海人入り乱れてしばらく戦う。その後、悪い海人は分が悪いと悟り引いていった。


「くっそー! 覚えてやがれよ!」

「俺達の勝利だ!」


勝利の宴を始める海人と人間。そこでリンが不安そうに言う。


「でも、大丈夫なのかな。国の中央と、こんな敵対するようなことをしてしまって」

レイ「それについては俺に考えがある」

リン「えっ。レイ! 今までどこに!」

レイ「人と海人が共に暮らすことができる、行政特区を発案したんだ。中央政府に許可を頼みに行っていた。まさか入れ違いでこんなことになっていたとはな」

リン「行政特区? 何それ」

レイ「C地区への移住、人と同じ職業訓練は、敷居が高すぎる。海人には政治参加の権利もないしな。これでは人の国のために戦ってくれと言っても戦ってくれるものではない。そうではなく、人と海人が互いの文化を尊重し、政治参加できる新しい自治体。言うなれば新しい国を、あの海の家とその周辺に、作るんだ」

リン「新しい、国……」


最後、楽しそうに笑うリュウコとシオの姿。その周りには海人。おしまい。

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