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 暗い夜の森の中を青年は重い体を引きずりながら懸命に進む。

 彼は少しでも早く場所を移動し、何処かで体を休めなくてはならなかった。

 切りつけられた腕を庇いながら、痛みと疲労に顔に汗を浮かべて歩く。

 時折吹く強い風は木々を揺らしながら体を冷やし、鈍く光る月は森を明るく照らしてはくれない。

 一人、焦りと憤りを感じながら黙々と前へ進む。目的地はないが、兎に角森を進み、自分が見つかることがないように祈ることしかできない。

 彼はついこの間まで都の役人だった。

 代々続く役人の家の跡取り息子。

 その役割通り彼は役人となり、そして上の不正を見つけた。

 それが運のツキだった。

 不正は時の権力者、左大臣、(ミン) 雄山(ユウサン)が主導だった。

 彼は不正の証拠を手に入れ、そして都を追われた。

 刺客に襲われ森に飛び込んだが、その際左腕を切られてしまった。

 なんとか刺客を撒いたものの、浅くはない傷口からは今も血が流れ続け、熱に浮かされながら宛もなく歩く。

 周囲を警戒しながら進むことは今の彼には大きな負担だった。進みながら何処か休めるところを探した彼は前方に小さな洞穴を見つけた。

 重い足を引きずりなんとかそこまでたどり着く。

 彼は洞穴に入り込むと深く重いため息をつき、体を横たえた。

 とにかく眠りたかった。

 疲れきった体は休息を必要としていたし、焦りと不安で精神は消耗していた。


 彼はすとんと、眠りに落ちた。

 次に目を開けた時、彼の視界には艶やかな黒が映ることになる。







 

 鮮やかな緑の葉が生い茂る森の中に五つの村がある。

 その中の一つに吏村(りそん)と呼ばれる村がある。

 五つの村はこの吏村を中心に纏まり、一つの県を作っている。


 可国(かこく)と呼ばれるこの国において、ここは役人のいないただ一つの県。

 都の住人からすればあるかどうかも定かではない、怪しい県だ。

 

 この県を治めるのは() 恵丹(ケイタン)という40過ぎの男だ。

 この男は吏村の村長であると同時にこの県の長でもある。

 この県を「窮鼠(きゅうそ)」という。

 朝廷が認めていないこの県は窮鼠という盗賊集団でもある。


 そして今、都から逃げ込んだ役人のいる洞穴の前で止まっている少女がいる。

 彼女は() 藍蘭(アイラン)、窮鼠の頭領である李 恵丹の一人娘だ。

 藍蘭は毎朝の日課の散歩の途中であった。

 

 「……ええー…?!」


 (なんでこんなとこにいるの?!この人、絶対訳ありよね…?)

 ここは深い森の中だ。その森の洞穴で明らかに怪我をして倒れている男性。

 これが訳ありでない筈がない。

 心底嫌そうに顔をしかめるものの、見つけた以上放置もできない。

 盗賊集団の頭領の娘、且つ自身も盗賊の一員ではあるのだが、藍蘭は生来善良な娘でもある。

 ここでこの人物を見なかったことにできるような盗賊として大人の対応は、藍蘭にはまだ難しい。

 藍蘭は恐る恐る近づき、この人物が怪我をして深く寝入っていることを確認すると、青い空を見上げた。


 「白烏(ハクウ)


 決して大きな声ではないのに、空から1羽の白いカラスが現れる。

 白烏という名のこのカラスは一声鳴くと藍蘭の肩へと止まった。

読んで頂いてありがとうございます!少しでも楽しんで貰えたら幸いです。

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