8・令嬢の本気
お手本はメリーアンお義姉様(予定)?
いい天気。
馬車から眺めるお城は今日も大きい。
お城の門をくぐる。
母様の隣で背筋を伸ばす。
さあ、今から俺は公爵令嬢。
手の中で、扇子が揺れた。
馬車の扉が開く。
ドアマントーマスの手が伸び馬車から降ろされる。
「ありがとう。トーマス。」
「名前を憶えていただいているなど、光栄です。クラレンス公爵令嬢。
すっかり大きくなられて、もう立派な王子殿下の婚約者様でいらっいますね。」
立派な婚約者って褒められても嬉しくはないな。
母様といつか来たあの庭に繋がるサロンに案内された。
初めての主催で、緊張気味のメリーアン王女が王妃様と並んで出迎えてくれる。
いや、緊張してるかどうかは本当は分からない。
きっと緊張してるよねぇ~って思っただけ。
俺が6歳に近いから、あれからほぼ3年たっている。
11歳だった王女は、13か14。
花の蕾が少し開きかけた儚い一瞬だけの美しさ。
って、俺詩人かも。
いや、相変わらずの美少女。年齢分増してきてる色気が。
益々好みのタイプに。
いや、ロリコンじゃないから。
俺、子供だし!しかも女子!
「クラレンス公爵夫人、クリスティーナ様。今日はようこそ。」
「メリーアン様、今日はお招きありがとうございます。」
「メリーアン様、ごきげんよう。今日はありがとうございます。」
貴族の挨拶をやってみる。
「まぁ、普通にしゃべってるわ!ごじゃいましゅじゃない!」
そんなにいつまでも赤ちゃん言葉でしゃべってたまるか。
小声ですが、感嘆符付いてる時点で普通に聞こえてます。
王妃様に、扇子で脚ピシってされてますね。
相変わらず、綺麗で高慢で少しおバカのまま。
矯正されておりませんね。
婚約者は、確か隣国の王太子だと聞いておりますが大丈夫?
この美少女、他国に嫁ぐのは無理なのでは?
こんな俺に心配されるってどうよ。
席に案内されて、テーブルに着く。
席には名前を書かれた洒落たカードが飾られている。
1枚1枚書かれた名前は、メリーアン様の手書きのようだ。
初めて自分で主催するお茶会、気合入ってる。
裏には、一言メッセージが添えられているようだ。
席に着いたご婦人方が微笑ましく、読まれている。
令嬢たちも王女様からの、直々のメッセージカードが嬉しくない訳がない。
ワイワイ、きゃぴきゃぴ笑顔が零れている。
お母様も席に着くとカードを読まれる。
「うふふ、可愛いわね。」
可愛いのはお母様です。
お母様の【うふふ】我が家の特別です!
お父様もお気に入りです。
お父様は、《セレナをうふふと笑わせ隊》を作って努力中。
「『美しい所作にあこがれています。』ですってよ。
クリスのカードは何が書いてあるのかしら?
読んであげましょうか?」
メリーアンお姉様からの初めてカード。自分で読みます!
パサリ。
!!!!!!!
これは、見せられない。
お城の侍女や王妃様が確認したはず、何でこれを見逃した!
チラッと、王女を見るとお客様が途絶えたところでこっちを見てた。
にやりと笑ったよ。
入れ替えたパターンですか。
確信犯。
『イアンは、渡さない!』ってナニコレ。
『イアンは要りません!』って言いたい。いつか言ってやる!
ブラコンポンコツ王女様。
可愛いなぁ~。
こっちは、一度は就職して、親と涙の別れまで済ませた人生経験がある。
喧嘩を売られてるけど、ほのぼのしちゃった。
メリーアン様の軽い挨拶で始まるお茶会。
俺さえ絡まなければ、完璧淑女のメリーアン様。
淑女の仮面の被り方見習います。
大人と子供になんとなく分かれてのおしゃべりタイム。
子供も、10歳以上~と以下に分かれてお遊びやおしゃべり。
私は初心者。会話をリサーチ中。
現在。
主人公が活躍するテンプレやフラグは無い。
暴漢が現れたり誰かに絡まれたりしない。
お城の庭だから当然。
お子様には、もれなくメイド付き。
でもここで
「きゃー!」
「わーっ!」
「危ない!逃げて下さい!」
悲鳴とともに、白馬の王子が現れた。
正確には、白馬の首にしがみつくイアン王子。
馬に乗ったお付きが追いかけて来るけど追いつけない。
しかも、周りには、貴族の御夫人とお嬢様がいる。
思わず駆けた。
乗馬は得意。だてに身体を鍛えてない。
お茶席のテーブルを足場にして、イアンの後ろに飛び乗って
手綱を掴む。
人のいない方に馬を向け走る。
少し走ると馬が落ち着いた。
馬の首をトントン叩いて向きをお城の方に向ける。
お付きの騎士が追いついてきた。
王子も落ち着いてきた。
騎士が手綱を取ってくれる。王子を降ろす。
私は、自分で飛び降りる。
パンパン、ドレスを叩く。
馬を見上げて、大丈夫って笑って見せる。
馬は悪くない。
きっと何か驚くような事があったんだろう。
「殿下お怪我は?大丈夫でございますか?」
「なんともない!」
「お嬢様は?大丈夫ですか?」
「私、乗馬は得意なのよ。
クラレンス公爵の長女クリスティーナです。よろしくね。」
「自分で何とか出来たんだ!助けてなんて頼んでない!」
おや、イアン王子逆切れですか・・・。
そんなだと、令嬢スキル発動しますよ。
「まぁ、婚約者の危機ですもの。助けるのが当然ですわ。
殿下の為でしたら、わたくし助けに参上いたしますわ。
いつでもお呼び下さい。おーほっほほ。」
「う、う、うるさ~い。」
走って去った王子を追いかけてお付きの騎士が走っていく。
残ったのは、俺と2頭のお馬さん。
王子の馬に乗るのは不敬かな?
で、もう1頭に乗り白馬の手綱を取り、パカパカ帰る。
歩くのはなかなかの距離を走ってた。
お城は広い。
イアン王子走って帰ったけど大丈夫だったかな?
お母様の所に帰って、お馬を返した。
勿論、すごく心配されてたけど。
「クリスだものね。素敵だったわ。」
「でも、令嬢としては失格ね。」
って言われました。
キラキラした眼が俺を見ているような気がしたけど
イアン王子を泣かせたから、一歩前進だと思う。
やっぱり、令嬢のお手本はお母様と王妃様。