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第2話「迫る翠刃」(3/4)


翌日の朝、《神聖帝国》内のとある施設。

新はトロフェに案内され、ある一室へと足を踏み入れた。

中で待っていたグデルはその姿を見て、にこやかに微笑む。


「お待ちしていました、天道さん。どうぞ、お掛け下さい」

「はい」

「……さて、それでは我々の現状を簡単に説明させていただきます」


グデルは指し棒をどこからか取り出し、目の前の壁をトントンと叩く。

すると壁面の色が変わり、大きな地図がそこに表示された。

そして、グデルが指し棒で触れたところに文字が表示されていく。

どうやらモニターのようなものらしい、これも魔術で動いているのだろうか。


「ここが、私達の暮らす《神聖帝国ユースティル・クォッド》です。5年ほど前までは《ラミーナ》という国の一部で、鉱物資源採掘の為に設けられた工業特区でした」

「工業特区……それがなんでまた帝国なんて名乗ってるんです?」

「有り体な言い方をすれば、中央からの圧政に堪えかねて……ですね」

「圧政? 特区と言うからには特例措置やら何やらがあったんじゃ?」

「特区とは名ばかり、力が弱く技術力は確かな我々の種族を閉じ込め扱き使う為の方便だったのです」

「……ひでぇ話だ」

「度重なる陳情も突き返された我々はやがて独立を宣言し、《ラミーナ》からの鎮圧部隊を迎撃したことを皮切りとして、それを筆頭とする連合国家である《アレミック》と開戦しました」


そこで言葉を切ったグデルは地図の6ヶ所を指し棒で次々と差していく。

差された地点には国名らしき文字が浮かび、その傍には各国の街並を写したらしい写真も表示された。


「《ラミーナ》。科学技術が非常に発達しており、人口も最多。この世界で最も栄えている国と言って良いでしょう」

「《ドリブ》。高い山に居を構え、高地特有の作物や家畜を育て暮らしているようです。国民ほぼ全員が飛行魔術に長けています」

「《ニンバー》。かつては未開の荒野でしたが、近年になって文明レベルが急上昇しました。国民性なのでしょうか、とにかく好戦的ですね」

「《エールト》。魔術の研究に関しては、彼らの右に出る者はそういないでしょう。価値観が独特で、美しさが何よりの価値だとか」

「《セリトペー》。鬱蒼とした森林に囲まれた国です。伝統と文化を何より重んじ、兵士の士気は6ヶ国でも最高かと」

「《シフ》。海底に眠る資源を採掘する為に建造された、海上産業国家です。地理的な難もあって潜入が難しく、詳しいことは未だ分かっていません」


「6対1……ですか。普通に考えりゃ、まあすぐ制圧されて終わりですね」

「ええ。ですが、幸い我々には地の利という勝算がありました」


言ってグデルは地図上の《神聖帝国》を2度つつく。

すると、《神聖帝国》の部分を拡大した画像が表示された。

周囲を高く険しい山に囲まれた、まるで天然の要塞といった雰囲気だ。

唯一山脈の壁が途切れている北端には海が広がり、ここからの侵入も難しそうである。

各所に細い山道が走っているものの、これを“零式”のような巨体が通るのは少し厳しそうだ。

それに、グデルの話では《神聖帝国》は元々鉱物資源採掘の為の特区だったという。

そこを掘れば、当面は兵器造りの資源には困らない、というわけか。


「なるほどね」

「しかし、彼らもそこに関しては見越していたようでして……転移魔術の研究に着手したのです」

「転移魔術?」

「簡単に言えば、異なる2ヶ所を繋ぐ道を生み出す魔術です。使い手も少なく、とうの昔に失われたはずなのですが……」

「それを、どういうわけか復元してしまった……と」

「ええ。本来はこちらに直接乗り込んで戦争を短期に終結させようとしたようなのですが……まだ解析が不完全だったようですね。全く異なる世界に繋がる座標が算出されたのです」

「っ……! それは、まさか……」

「ええ、天道さん達が暮らす世界です。恐らくは、転移先から資源を奪う方針に切り替えたのではないでしょうか」


その言葉に、新は息を呑んだ。

同時に、握り拳が怒りで震えた。

つまり、自分達の世界がIOX……いや《アレミック》に襲われたのは、言ってしまえば完全なとばっちりだったというわけだ。

怒りに任せてグデルを殴りつけたい衝動にかられたが、なんとか抑える。

彼らだって、戦争相手が突然異世界に殴り込むなんて事態は想定外だったはず。

ここで彼を殴ったとて、それこそ彼らにとってのとばっちりだろう。

深呼吸して気を落ち着かせると、それを察したらしいトロフェが小声で話しかけてきた。


「ごめんなさい、私達の問題なのに巻き込んでしまって……」

「いや、大丈夫だ。俺こそ悪かったな、脅かしたみたいで」

「い、いえ……」

「……《アレミック》に潜入させた者達が持ち帰った情報によりますと、彼らは便宜上こちら側を《エグナーツ》、あちら側を《ウィノロック》と呼び分けているそうです」

「なるほど、トロフェが俺のことを『《ウィノロック》のテッキノリ』って呼んだのはそういう……テッキノリ?」

「魔導鉄騎。我々と《アレミック》の主力である、人型兵器の総称です」


グデルが地図の端をつつくと、地図に代わって人型の兵器が2つ並べられた画像が表示された。

片方は、新とよく見慣れた“三角耳”だ。

もう片方はまるで西洋の甲冑のような姿で、翠色の装甲に身を包み、騎士らしい剣と盾で武装している。


「左が我々の主力量産機“イフシック”、そして右が《アレミック》の主力量産機“ティッドナーヴ339”です」

「右側はよーく知ってますよ。向こうで何匹も狩りましたから」

「そうでしたか。そう言えば、あなたの鉄騎の整備を任された者達が驚いていましたよ。なんでも、異世界の機体のはずなのに内部構造が非常によく似ているとか」

「ああ、そりゃあそうでしょうね。何せ奴らの機体を必死こいて倒して鹵獲して、それを解析して造ったのが俺達の機体……WVウォーキングヴィークルの元祖って話ですから」

「ほう、それは興味深い。ちょっと、詳しくお聞かせいただいても……」

「あの、団長代行。そろそろ新さんの処遇についてのお話を……」

「……こほん、つい脱線してしまいましたね。申し訳ない」


グデルは少し気まずそうに咳払いし、指し棒を畳んで頭を下げた。


「今回の件は、元を正せば我々の責任であると言えます。申し訳ありません、天道さん」

「……いえ、そちらとしてもこんな事態は想定出来なかったでしょうし」

「我々が独立を勝ち取った暁には、転移魔術の技術提供を要求いたします。そうすれば、天道さんを元の世界へ帰すことが出来るはずです」

「はい。私達が頑張りますから、新さんは少しだけ待っていて下さい」

「……ありがとう、ございます」


グデルとトロフェの言葉に、新は少し間を置いて感謝の言葉を述べた。

2人は、要するにこれ以上別世界の人間である新を巻き込みたくないのだろう。

正直に言えば、今までそうしてきたように、自分も“零式”を駆って《アレミック》と戦いたい。

だが、2人の気持ちを無下にするのも少々気が引ける。


「騎士団員が寝泊まりする宿舎に幾つか空き部屋がありますので、これからそちらに案内を……」


その時、甲高い鈴のような音がグデルの言葉を遮るように鳴り響いた。

驚いた新が思わず身構えると、グデルは懐から端末を取り出して、失礼、と一言新へ断りを入れてそれの操作を始めた。

なるほど、電話のようなものか。

気の抜けた新をよそに、グデルは端末に向けて話しかけ続けている。

やがて通話を終えたらしいグデルは端末を仕舞い、新とトロフェの方へと向き直った。


「すみませんが、席を外さなくてはならなくなりました。レウェージュ、君には追って内容を伝えますので、先に天道さんを宿舎へご案内して下さい」

「はっ、はい。分かりました。えーと……男子宿舎3番棟の307室ですよね」

「ええ、頼みましたよ。……忙しなくて申し訳ありません、天道さん」

「いえ、こちらこそすみません。お時間を取らせてしまって……」

「いえいえ。どうか、ゆっくりとお過ごし下さい。では……」


足早に部屋を去っていくグデルの背中を、新とトロフェは少しの間見つめていた。

代行といえ団長は団長、流石に忙しそうだ。


「それじゃ案内頼むぜ、トロフェ」

「はい、お任せください!」


2人は席を立ち、部屋を後にした。

トロフェの後を追い廊下を進んでいくと、やがて建物の外へと出る。

階段を下りていくと、眼前には石造りの街並みが広がり、そこを多くの人々が行き交う。

大荷物を抱えた男性や馬車に似た乗り物とすれ違いながら、2人は宿舎に向けて足を運んでいった。


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