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第8話「流るる血は紅く」(7/7)


「ば、爆発……!?」


司令室にいた青肌の男から告げられた、衝撃的な言葉。

彼が言うには、もうじきこの《ドネスロン基地》は爆発してしまうという。

しかし、2人が辺りを見回してもそれらしい兆候は見られない。


「……はったりかい?」

「はったりなもんか! これを見てみろ!」


男は立ち上がり、自分が背にしていたデスクを指差した。

痛ましく刻まれた無数の弾痕の向こうに、途切れ途切れながら何やら文字が見える。


『○鎖式自○術式発○』

『1番○から10○機準備○了』

『○動ま○0:05:29』


「……自爆術式!? それも10機を連結させてだって!?」


その文字列を見たエイディは、顔色を変えた。

魔導鉄騎の動力炉を過剰稼働(オーバーロード)させ、周囲諸共自機を焼き尽くす最後の手段……自爆術式。

機体に残る燃料の全てを燃焼させ、兵士の多くがその恐怖から使用を躊躇(ためら)う、文字通り最後の手段である。

しかもそれを、10機もの鉄騎を連結させて実行すれば……。


「……確かに。燃料の量によっては、この基地を吹き飛ばすくらいはわけないかもね……」

「そんなっ! それなら早く逃げないと……」

「無駄だよ、無駄! 見てみろよ、この時間をよ!」


男は声を荒げ、2人が覗き込むデスクをバンバンと叩いた。

自爆術式が起動するまでの時間は、既に5分を切っている。

今から全速力で駆け出したところで、《ドネスロン基地》の敷地外へ出ることは不可能だろう。


「……ここから遠隔操作で自爆を止めることは、どうも不可能そうだね」

「そんなこと出来たら、とっくに俺がやっている!」

「えっ、あなたが準備(スタンバイ)していたのでは? 私達と差し違える覚悟で……」

「そんなわけあるか! 取り残されたんだよ、俺達は!」

「と、取り残された!? どういうことですか!?」

「俺達が知るか! 辺りが妙に静かだと思って、怪我を押して様子を見に来てみればこのザマだ!」

「ふむ……」

「くそっ、あの基地司令め! 俺達よりも煙草の方が大事だってのか!」

「わっ! ちょ、ちょっと落ち着いて下さいよ!」


男は話す内に、次第に語気を強めて取り乱し始めた。

ついにはデスクに横から蹴りを入れ、上に乗った灰皿を掴んで思い切り床に叩きつける始末だ。

トロフェは慌ててそれを宥めようとするが、男の怒りが鎮まる様子はない。

それとは対照的にエイディは、落ち着いた様子で口を開く。


「……この自爆術式を準備しているのは、もしかして地下の格納庫かい?」

「……ああ、第3格納庫だよ。それがどうかしたのかよ」

「なら、僕らの仲間が辿り着いているかもしれない。それも、とびっきり鉄騎の構造や知識に長けた……ね」

「……そいつなら自爆を解除出来るかもしれない、と? 随分と都合のいい妄想だな……」

「彼女の腕は本物です! もしかしたら、もう気付いて解除にあたってるかも……」

「可能性はあるね。直接本人に聞いてみようか」


エイディは懐から通信機を取り出し、ウェンへ向けて呼びかけた。


『聞こえるかい、ウェン? こちらエイディ』

『……っ、何よ? 今こっち忙しいんだけど?』


通信越しに、ウェンの声が聴こえてくる。

何処となく苛立っているような、低くドスの効いた声だ。


『手短に話す。地下格納庫で自爆術式の準備が……』

『知ってるわ。今解除(バラ)してる最中だもの』

『流石。術式の起動まではあと4分を切っているけれど……』

『充分。……っていうか、もうあと一息ね』

『本当かい? それはまた早いね』

『ここまで結構手こずったけどね。はい、これで……っと!』


ウェンの掛け声と共に、大きな機械音と続けて電子音が数度聞こえてきた。

そしてその直後に、ウェンが安堵するようにゆっくりと息を吐く音と、満足げに鼻を鳴らす音。


『ふぅ……ふふん、終わったわ』

『お疲れ様、助かったよ。一度こちらで落ち合おうか。司令室まで来られそうかな?』

『ええ、問題ないわ。それじゃ』


ウェンから解除成功の報せを受けたエイディは、トロフェと男へ向けて片目を瞑り微笑んでみせた。

その姿を見てトロフェは胸を撫で下ろし、男は訳が分からないといった様子で2人を見比べる。


「……ま、まさか……」

「そう、そのまさかさ。僕達も君も、一命を取り留めたってわけ」

「……そう、か……助かったのか……」


男はそう呟くと、デスクに背を預けてその場に力なく座り込んだ。

軽く俯いたその顔には、一見しただけでは読み取りがたい複雑な色が浮かんでいる。

そのまま糸の切れた人形のように止まってしまった彼を前に、エイディとトロフェは顔を見合わせた。


「……どうしたんでしょう?」

「察するに……命が助かった喜びと見捨てられた怒り、ついでに僕らを巻き添えに出来なかった無力感……といったところかな、多分ね」

「…………」

「おっと、いけない。新とノノにも司令室まで来てもらおう。連絡を入れてくるから、その間彼を頼んだよ」

「あっ、はい……」


エイディはそう言うと通信機を持ったまま歩き出し、司令室の内部をゆっくりと周りはじめた。

時折、各座席に設けられた文字盤を叩いてモニターを覗き込み、まだ起動するものを探しつつ、朗らかな様子で通話を続けている。

その様子を眺めていたトロフェは、ふと隣に座る男へと目をやった。

男はただ俯いたまま、何も喋ろうとはしない。


「……えーっと、その……」

「…………」

「……いえ、何でもないです……」


何か言おうと口を開くが、結局何を言うでもなくそのまま口を閉ざす。

そも、自分達が攻め落とした基地の職員に向かって、何を言えばいいというのか。

(あざけ)りか、それとも(あわ)れみか。

恐らくは、そのどちらも誤り。

黙っていること、彼を1人にしてやることこそが、きっと、今この場における模範解答(ベター)だろう。

トロフェはそう結論づけ、ゆっくりと数歩後ずさる。

そして壁にもたれながら、男の背中をじっと見つめていた。

見つめていると胸の内に湧き上がる、なんとも形容し難くもやもやとした感情を抱きながら。


To be continued...


────


キャラ・メカ・用語


○用語


自爆術式

《アレミック》軍の大半の魔導鉄騎に標準搭載されている機能。

燃料の残量に応じて爆発の勢いや範囲が減少していく為、常に燃料が減ってゆく戦場においては目眩しとしての意味合いが強い。

また脱出のタイミングを誤れば自身も爆発に巻き込まれてしまうので、実際に使用する兵士はあまり多くない。

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