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第7話「ドネスロン、鈍に沈む」(7/8)


「……っ、すげぇ音したな……?」

「3人の反応は健在、無事みたいですけど……何したんでしょう……?」


その頃、6機もの敵を単独で相手取る新とトロフェ。

彼らの駆る“イシュローラ”はブレードやマシンガン、斧槍を武器に、相対する敵の数を既に3機にまで減らしていた。

残る3機の敵が立て続けにビーム砲による攻撃を行うも、障壁魔術がその(ことごと)くを阻む。

ならばと手斧を振りかざして近接戦を挑めば、その巧みな足捌きに(かわ)される。

そうしている間にまた振り下ろされる、ブレードによる一撃。

また1機が物言わぬ残骸(なきがら)と化し、残るは2機。

いつからか鈍色の雲が吐き出し始めた雨が、鋼の機体に打ち付ける。


「ま、なんだっていいさ。なんにせよ俺達ゃこいつらを狩り尽くすだけだ」

「……問題は、あの“重装”ですね」


トロフェはごくりと唾を飲み込み、前方に立つ1機の敵へ目を向ける。

全身に武装を満載した、重装型の“ティッドナーヴ”タイプ。

手斧、大剣、機関銃、短槍、丸盾に身を包んだその姿は、異形と呼ぶに相応しい。

その“ティッドナーヴ”を駆るのは、ゴダードン・エイド。

3日前に“イシュローラ”と交戦し、大敗を喫しながらも生き延びた青年である。

彼はその時死んだ弟の仇を討つ、その一心で今ここに立っていた。


「死ねぇっ、“蒼黒”!」


ゴダードンは咆哮を上げ、握りしめた短槍を“イシュローラ”目掛けて投げつけた。

素早く横へ跳んでそれを避けた“イシュローラ”だが、そこへ目掛けてもう1機の“ティッドナーヴ”が襲いかかる。

手斧による一撃を盾で受け止め、そのまま盾を振り回して殴り飛ばす。

尻餅をつく“ティッドナーヴ”を尻目に、“イシュローラ”はマシンガンを構えて“重装”へ迫った。

照準を合わせて引き金を引くが、“重装”はまたしても小刻みな足取りでそれを全て回避してみせる。

まるで、“イシュローラ”がどこを狙うか、(あらかじ)め知っているかのように。


「チッ! しぶとい!」


操縦桿を強く握りしめながら、新は大きく舌を打ち鳴らした。

先程から何度も狙っているが、“重装”相手にこちらの攻撃が当たったためしが無い。

これでは、いたずらに弾丸を消耗するだけだ。

いっそ、トロフェの障壁魔術に守りを任せて正面から突っ込んでみるか。

ブレードを引き抜こうと手を掛けた、その時。


『……聴こえるか、“蒼黒の鉄騎”の操縦者!』

「っ!?」

「国際回線での通信……!? 発信は……目の前の重装型からです!」


新は思わず硬直した。

戦場のど真ん中で、まさか敵から呼び掛けられるとは。

……いや、以前にもセンダム・エケイプという女が話しかけてきたか。

見れば、もう1機の“ティッドナーヴ”もその行動に当惑しているようで、立ち上がったまま固まってしまっている。

何なんだ、どいつもこいつも。

新は顔をしかめ、ブレードに手を掛けたまま“重装”を睨みつける。


『貴様だけは絶対に許さんぞ“蒼黒”! 俺がこの手で討つ!』

「“蒼黒”ってのは……“イシュローラ”のことっぽいな」

「凄い剣幕ですけど……何者なんでしょうか……」

『貴様は俺のことなど覚えてもいないだろう! 故に! 今ここで名乗らせてもらう!』


『俺の名はゴダードン・エイド7級兵! 3日前の戦いで貴様に敗れた者だ!』


大剣を地面に突き立て、親指で自らを指し、ゴダードンは高らかに名乗ってみせた。


「……あん時のか」

「確かにいましたね、“ティッドナーヴ”タイプが2機……」


2人はゴダードンが言う3日前の戦い……“イシュローラ”の初陣となった戦いのことを思い出した。

両腕に鉄球を搭載した新型機と戦う前に軽く蹴散らしてみせた、2機の“ティッドナーヴ”。

そのどちらかに乗っていた男が、今目の前に立ちはだかっているということか。

それならば、予知のように新の攻撃を避け続けたことにも一応の納得がいく。

何せ一度戦った相手なのだ、新の癖を見抜くなり何なりしていても不思議ではない。


『貴様は俺の、命と同じ程に大切なものを奪った! そんな貴様を許してはおけない!』

「あん?」

「大切なもの……?」


『弟だ! たった1人血を分けた我が弟、ヌイーザ・エイド! 貴様はその刃を、無情にもヌイーザの胸に深々と突き刺して殺したんだ!』


喉を潰してしまいそうなほどに声を荒げ、ゴダードンは“イシュローラ”へ指を突きつける。


『こんなことを貴様に教える義理など無い! 無いが、言ってやらないと俺の気が済まないんだ!』

「…………」

『弟の復讐だ! 貴様の首を、弟への手向けにしてやる!』

「…………あれ、新さん?」


ゴダードンの主張をただ黙って聞いていたトロフェだが、ふと視線を落とすとあるものが目に映った。

新の手が、いや体全体が震えている。

それどころか、敵を見据えることもなく俯いているのだ。

普段の彼なら、こんな長話をさせるまでもなく引き金を引いていてもおかしくないのに。


「……けんな……」

「えっ?」


「……ふざっ、けんなぁあ!!」


新は突然激昂して操縦桿をめいっぱいに倒し、目の前の“重装”目掛けて突撃していった。


「新さん!?」


「来るか、“蒼黒”ゥ!」


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