第7話「ドネスロン、鈍に沈む」(6/8)
突如として3人を襲った、砲艦による砲撃。
その爆炎が消え去ると、そこには長槍を杖代わりに立ち上がるエイディ機の姿があった。
『くっ……2人とも無事かい!?』
『私は平気よ、あんた達よりは距離も遠かったし』
『こっちも大丈夫!』
エイディの言葉に、ウェンとノノが相次いで答える。
直撃こそ免れたものの、着弾の衝撃と爆炎は3機を吹き飛ばしてよろめかせるには充分すぎるほどだ。
衝撃で三方へ散れたエイディ達は、その場に留まったまま通信を交わす。
『……奴らが立ち止まったのは巻き添えを食らわない為だったんだね。僕としたことが、迂闊だったよ……!』
エイディは悔しさを噛み締め、操縦席の壁を殴りつけた。
敵の不自然な動きを見れば、何かしらの策を講じていることは容易に想像できたはずだ。
それなのに、部隊の指揮を担う自分の不注意で、味方を窮地に陥れてしまった。
不甲斐なさで、拳にさらに力がこもる。
『なーに言ってんの! 直撃もらってなきゃ結果オーライ!』
『ええ、現にあんたが叫んでくれたおかげで避けられたわけだしね』
『…………ふふ、ありがとう。君達の現金思考にはよく助けられるね』
『一言多いわよ。で? あの砲艦はどう攻略するのかしら』
『そうだね……ん?』
2人からの励ましを受けて平静を取り戻したエイディは、笑みを浮かべながらレーダーへ再び目を落とす。
すると、すぐにある違和感に気付いた。
3隻の砲艦が並んでいながら、主砲を発射したのは正面の1隻のみ。
顔を上げてみれば、残りの2隻は高熱源反応どころか、主砲を動かす様子すら見られない。
更に、基地の規模に対して明らかに少ない敵の数……。
このことから、エイディは1つの仮説を導き出した。
『まさか……人が乗っているのは中央の1隻だけか?』
『えっ? そんなことある?』
『あり得るわね。鉄騎の数も少ないし、案外人手不足かも』
すると、傍観を決め込んでいた敵が突然動き出した。
主砲に巻き込まれまいと距離を置いていた彼らが、いきなり武器を構えこちらに突進してきたのだ。
それをクロスボウや機関砲で攻撃しながら、エイディは上機嫌で話を続ける。
『ほらね。主砲の連射斉射が出来ないことを知っているから、こうやっていきなり突撃して来られるんだ』
『なるほどね! つまりこいつらが退いたらまた主砲が飛んでくる合図ってことだ!』
『そう、そして……2人とも、北へ向けて全速前進!』
エイディの号令で、3機は一斉に敵の集団へと突っ込む。
突然のことに動揺した敵は思わず道を退き、エイディ達が自分達の中央へ割り込むのを許してしまう。
あっという間に刃と刃で斬り結び、銃弾や光線が飛び交う大混戦と化した。
長槍を振り回しながら、エイディは得意げにゴーグルを指で押し上げる。
『この混戦の中なら、向こうも迂闊に主砲を撃っては来られないというわけさ』
『流石エイディ! よっ、天才!』
『あとはこのどさくさに紛れて主砲の砲座を破壊すれば……』
『なら、それは私とこの子に任せてもらうわ』
そう言ってウェンは操縦桿をいっぱいに切る。
唸りを上げて動き出した“アフサーブ”の巨体は敵の1機を撥ね飛ばし、混戦の只中から少し離れた位置で停止した。
撥ねられた敵は打ちどころが悪かったのか、大の字になって倒れたまま動く気配はない。
それを見て、ウェンはこれ幸いとばかりに操縦席の操作を進めていく。
彼女の操作に伴い、“アフサーブ”の機体に徐々に変化が現れ始めた。
機体下部からせり出してきた大型の杭が地面に埋め込まれ、“アフサーブ”の機体をそこへ固定する。
続いて、操縦席の覗き窓に重厚なシャッターが降りる。
最後に、機体上部から長大な大砲が顔を覗かせた。
その大きさたるや、鉄騎1機の腕にも余るほどである。
『ちょっ、ウェン! それってまさか……』
『そ。新に試射を頼んだ、試作型対艦砲……その改良型よ』
操縦席からせり出した照準器を愛おしそうに撫で、ウェンはそれを覗く。
照準器越しに見据えるのは、前方に佇む砲艦。
1機離れた“アフサーブ”に狙いを定め、今一度砲撃を放とうとしている、その主砲の根本。
『気をつけてウェン、また高熱源反応だ!』
『急かさないで。……照準、装填、加速器、対閃光防御、対衝撃姿勢、排熱、全てよし。射線上に味方機無し。……完璧!』
『対艦砲、発射ッ!!』
引き金を引くと同時に、対艦砲が砲弾を勢いよく吐き出した。
発射された砲弾はぐんぐんと速度を上げながら飛び続け、砲艦へと迫る。
そして、砲艦も同じく主砲を発射しようとした、その瞬間。
鈍い音と共に、砲弾が主砲の根本へとめり込んでいった。
主砲はその勢いで大きく歪み、自らの足元へ向けて砲弾を吐き出してしまう。
砲弾は地面に着弾し、その爆風で砲艦の巨体は大きく揺るがせた。
砲艦はそのまま地響きを立てて横倒しになり、辺り一帯に大津波のような勢いの土煙が舞う。
瞬く間に炎に包まれた鉄塊と成り果てた砲艦の無残な姿に、敵もエイディ達も思わず立ち尽くした。
『……すっごい……』
『予想以上だね…………さて、それはともかく!』
エイディは不意打ち気味にクロスボウの引き金を引く。
その矢は真っ直ぐ右へ飛び、呆気にとられていた敵のこめかみを撃ち抜いた。
その敵が倒れるのを皮切りに、残りの敵はまるで弾かれたように飛び退いて武器を構える。
『あーあ、もう少しボーッとしてて良かったのに』
『面倒よね』
『なに、浮き足立った相手なんて恐るるに足らないさ』
エイディは余裕のある態度を崩さずに、クロスボウへ矢を装填する。
そのまま横目でレーダーを見ると、ふんと小さく鼻を鳴らした。
『今のところ後続が出てくる様子はない。さっさと片付けてしまおうか!』
『りょーかいっ!』
『任せて!』
エイディの言葉に2人が応えると同時に、敵が動き出した。
刃を振りかざし、引き金を引き、光線を放つ彼らに、エイディ達は全く慌てる様子が無い。
冷静に敵を見据え、武器を構え、敵の波へと飛び込んでいった。
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