第7話「ドネスロン、鈍に沈む」(4/8)
“イシュローラ”へ迫る、異様なまでの重武装を施された“ティッドナーヴ”。
「誰だか知らねえが、いい度胸じゃねえか!」
それへ向けて、新は不敵な笑みと共にマシンガンの引き金を引いた。
しかし、それを予期していたかのように敵は素早く横へ跳び、銃撃を難なく回避してみせた。
「チッ! 避けたか!」
「よし! コイツの銃撃の癖は覚えた! いける!」
“ティッドナーヴ”の操縦席の中で、ゴダードンは歓喜の雄叫びを上げた。
あの日敗走してから今日までの3日間、彼はただ医務室で寝ているばかりではなかった。
むしろ医務室にいる時間の方が短く、1日の大半を訓練か記録映像の閲覧に充てていたのだ。
その結果、新が銃撃の直前に見せる微妙な癖を見抜いた彼は今、絶対的な自信をその胸に抱いていた。
弟の仇を討つ、その為だけに心血を注いできたのだ。
如何に強大であろうと、絶対に討たねばならない。
目の前に立ちはだかる、蒼黒の敵を。
ゴダードンは短槍を構え、渾身の力でそれを“イシュローラ”へ向けて投げつける。
錐揉み回転しながら飛ぶ短槍は、しかし“イシュローラ”に容易く避けられて地面へ突き刺さった。
着地してマシンガンを構え直そうとした“イシュローラ”だが、その眼前に。
「っ……! ……っぶねぇ……」
短槍による投擲の二射目が、咄嗟に身を捻った“イシュローラ”の鼻先を掠めて飛んで行く。
「ご、ごめんなさい! 私が早くに気付いていれば……」
「責任の奪い合いなんざ後だ! 今はコイツ倒すことだけ考えろ!」
新は叫んでブレードを引き抜いて構える。
すると、相手も同じく背から大剣を引き抜いて同じように構えてきた。
ほんの一瞬だけ静止した後、先に動いたのは“イシュローラ”だ。
一気に加速して距離を詰め、高く掲げたブレードを一気に振り下ろす。
しかし、その刃が“ティッドナーヴ”を捉えることはなかった。
“イシュローラ”の攻撃を見越したかのように飛び退いて大剣を手放し、いつの間にか手にした機関銃を今まさに放たんとしていたのだ。
「なっ……」
「【阻め閃光】!」
咄嗟にトロフェが障壁魔術を展開したことで、直接の被弾は避けることが出来た。
新は小さく息を吐いて呼吸を整えると、改めて眼前の敵を注視した。
過剰なまでの重装備ぶり以外は、他の量産機と大差ないように見える。
しかし、それにしては動きが機敏すぎる。
いや、機敏という言葉で片付けられる範疇だろうか。
まるで、こちらが次にどう動くか分かっているかのようだ。
乗っているのは、相当な手練れだろうか。
それとも、未来視だか予知だかの魔術が使える相手だろうか。
どちらにせよ、苦戦は免れないだろう。
しかも……悪いこととは重なるものなのか、敵の一部がゆっくりと“イシュローラ”を包囲し始めていた。
その数は、眼前の重装“ティッドナーヴ”を含めて7機。
残存する戦力16機の内、4割近くを“イシュローラ”1機に割いてきたのだ。
「チッ、嬉しくねえモテ方だぜ」
「そんな、さっきまでバラバラだったのに……!」
レーダーに目を落とし、トロフェは驚愕の声を上げた。
重装“ティッドナーヴ”を除く6機は現在、綺麗な正六角形を描くようにこちらを包囲している。
先程までの崩れ切った陣形が、まるで嘘のようだ。
障壁が消えるのを待つかのように武器を構えて沈黙を保つ敵を見渡していると、そこへエイディから通信が入った。
『どうやら、君達がヤツに引きつけられている間に冷静さを取り戻したようだね』
『落ち着いてる場合かよ。どうすんだコレ』
『僕とノノ、ウェンで基地を強襲する。拠点が陥落すれば彼らだって降参せざるを得ないはずだ』
『つまり、それまでは私達だけでなんとか凌ぐ……と?』
『“イシュローラ”の性能と、何より君達の技量を考えてのことさ』
『へっ、買い被ってくれんじゃねえか。だったら!』
新は短く笑うと操縦桿をぐっと引き、機体を大きく旋回させた。
踵を返して南東側に立つ敵へ向き直り、一気に加速して向かっていく。
「トロフェ、任せた!」
「はいっ! 次はこれで! 【薙げ閃光】!」
加速しながら翼を変形させ、砲身から斧槍状の光を2本高速で撃ち出す。
斧槍は敵の左腕を斬り落とし、胸に深く突き刺さり、程なく光の粒子となって消えた。
敵の残骸を足蹴にしながら、右手でブレード、左手でマシンガンを構え、その翼を大きく開く。
まるで敵を威嚇しているかのような姿を取り、その中で新は叫んだ。
『遠慮せず行ってこい、エイディ! コイツら全員、お前らが戻ってくるまでに狩り尽くしてやる!』
『頼もしいね。ノノ、先陣は任せた!』
『りょーかいっ! ノノ・グラッチ、敵基地目掛けて吶喊しまーすっ!』
ノノ、エイディ、ウェンは敵陣の中央を突っ切り、《ドネスロン基地》へと向けて突撃していく。
“イシュローラ”を囲っていなかった9機の敵がそれを追いかけて行き、敵はエイディ達を追う者と“イシュローラ”と対峙する者に分断された。
新は左右に展開する敵を睨みつけ、不敵な笑みを浮かべた。
右の3機は例の重装“ティッドナーヴ”に加えてあって一筋縄ではいかないだろう。
ならば……。
「さて、さっさと蹴散らすぜ!」
「了解です!」
“イシュローラ”が足元の残骸を蹴飛ばし、左側の敵へ飛びかかった。
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