第7話「ドネスロン、鈍に沈む」(3/8)
「トロフェっ!」
「はい! 【疾れ閃光】!」
“イシュローラ”の両翼が変形した砲門から伸びた閃光が、敵機の両腕を吹き飛ばす。
勢いでのけぞった隙を見逃さず、踏み込んでその脳天へブレードを振り下ろした。
左右へ両断された機体を蹴飛ばして飛び退き、距離を取りつつマシンガンを構える。
その姿を見た敵が警戒して足を止めた瞬間、“イシュローラ”の後方から臙脂色の影が躍り出た。
「どっりゃぁあー!!」
両肩の盾を前方に展開したノノ機がそこへ飛び込んできた。
ビーム砲や機関銃による攻撃をことごとくその盾で弾き、そのまま加速していく。
その猛烈な突進で1機の敵を押し倒し、盾の裏から引き抜いた剣で敵の胸元を真一文字に斬りつけた。
ノノ専用“イフシック”最大の特徴、それこそが両肩に取り付けられた大型の長方盾だ。
これに加えて増加された装甲のお陰で、生半可な攻撃では傷1つつかない頑丈さを持つ。
更には増設された背面の噴射装置、盾の裏に1本ずつ仕込まれた予備の長剣と、ノノの癖に合わせた突撃性能の高い機体となっている。
『やるじゃねえかノノ。とんだイノシシっぷりだぜ』
『イノシシって何? まーいーや、ありがとっ!』
『新、ノノ。気をつけてくれ、どうやら向こうに援軍が来ているようだ』
少し離れた小高い丘の上から、エイディが2人へ向けて通信を飛ばす。
彼専用にカスタマイズされた“イフシック”は、広範囲かつ長射程のレーダーを搭載している。
このレーダーにより得られた情報を整理し、味方へ的確な指示を飛ばす指揮官仕様だ。
そして、その高性能レーダーを活かした装備がもう1つ。
『数は7。まあ、僕の方で何機か減らしておくよ』
そう言うとエイディはクロスボウを構え、先端に何やら部品を取り付けた。
部品は細長い筒の下に、小さな円盤のようなものが取り付けられた形状をしている。
それを先端に取り付けたクロスボウは、さながら狙撃用長銃のような姿になった。
そのクロスボウの先端を、接近してくる敵へと向ける。
「狙撃形態、展開」
エイディの操作に伴い、“イフシック”の顔面を覆っていたバイザーがずり下がり、その奥の双眸が露になった。
そして、右目にレンズの付いた円筒形の部品が装着される。
その姿はまるで、片眼鏡をかけて口髭をたくわえた老紳士のようだ。
普段の眼鏡でなくゴーグルを装着したエイディは迫り来る7機の敵を冷静に品定めし、やがて右端の敵に照準を合わせた。
画面の中で細かく揺れ動く十字を、これまた細かい動作で敵の姿に重ね直していく。
そしてその十字が敵の中心にぴったりと重なった、その瞬間。
「そこっ!」
引き金と共に放たれた矢は、ギンと鋭い音を伴って空気を切り裂き飛んでゆく。
直後には、胸に深く矢が突き刺さって仰向けに倒れる敵の姿が目に映った。
他の敵が慌てて停止したところを、すかさずもう一射。
左端の敵も同じ運命を辿ったところで、敵の一部がエイディのいる丘へと接近してきた。
「ふむ、流石にこれだけやれば見つかるか」
エイディは落ち着き払った様子で狙撃器を取り外すと、盾と長槍を持って丘を一気に駆け降りた。
それをいち早く視界に捉えた敵の1機が、エイディ機に向けて銃を構える。
エイディは素早く盾を構えたが、その時何かが猛烈な勢いで敵の横面目掛けて飛来し、そして爆発した。
敵は致命傷こそ負わないものの大きくふらつき、そのまま転倒してしまった。
飛来してきた方向を見ると、“アフサーブ”の先頭車両が凄まじい速度でこちらへ接近してくるのが見えた。
『エイディ、無事?』
『おかげさまで。いい誘導弾捌きだったよ、ウェン』
『なら良かったわ。じゃ、援軍は私とあんたで引き受け……って、あら?』
援軍は私とあんたで引き受けるから、向こうは新達に任せましょうか。
そう言いかけたウェンだったが、思わず素っ頓狂な声を上げた。
敵の援軍7機、その内中央の1機だけがこちらには目もくれずに新達の方へと全速力で駆け出していったのだ。
……より正確に言うと、“新達”ではなく、“イシュローラ”の方へ。
『……あいつらの熱狂的な追っかけかしらね』
『それで済めばいいけど。新、トロフェ! そっちに南南西から1機行くよ、気をつけて!』
エイディからの通信を受けて新がそちらの方角を見ると、1機の“ティッドナーヴ”タイプがこちらに迫ってきていた。
その手に持った武器は標準装備の手斧。
それに加えて、背には両手持ちの大剣。
さらに腰には機関銃と投擲用の短槍を数本提げ、両腕には小さな円盾を1枚ずつ装備している。
いかに汎用性が売りの“ティッドナーヴ”とはいえ、ここまでの重装備はなかなかお目にかかれるものではない。
その姿から感じ取れるのは、並々ならぬ闘志。
「見つけたぞ“蒼黒”! 弟の仇、討たせてもらう!」
……そして、尽きることのない憎悪。
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