第7話「ドネスロン、鈍に沈む」(2/8)
同じ頃、当の《ドネスロン基地》では。
「おい、修理終わったヤツはバンバン出してけ!」
「って言っても、相手は4機なんだろ!?」
「バカ野郎! ついこの間1機にしてやられただろうが!」
「おい、出撃させられる奴はいないのか!?」
「無茶言わないで下さい! ここにいるのは皆怪我人です!」
「い、いるのかよ……? 例の、“蒼黒”……?」
「やるしかねえだろ、いようがいまいが……」
「お、おれ、まだ死にたくねえよお……母ちゃぁん……」
兎にも角にも、上へ下への大騒ぎとなっていた。
それもそのはず、開戦以来数年に渡って防戦を続けていた《ユースティル》が、初めてこちらへ攻め込んできたのだ。
開戦当時こそ防衛設備がそれなりに充実していた《ドネスロン基地》だったが、維持費を食うだけの無用の長物と化したそれの寿命は短かった。
解体され、鉄騎や砲艦の部品にされたり、都市部で建築資材や家電製品に生まれ変わったり……。
しかし、ここに来てその行いが仇となってしまった。
司令室へ向かう基地司令の足取りは、極めて重い。
丸裸同然の《ドネスロン基地》は、現在砲艦や輸送艦を前面に並べて防壁代わりとしている。
が、これも所詮はその場凌ぎ。
迫り来る敵を討ち倒さねば、この防壁もいずれは崩されて一気に基地内まで突入されかねない。
敗走して消耗した今の戦力で、どこまでやれるだろうか……。
無論、本部に報告はしたが、距離を考えると応援が間に合う可能性は低い。
どうにかしてそれまで時間を稼ぐ必要があるが、もしそれすら出来ないのならば……。
考えたくはないが、“あの手”を使うしか無い。
やがて司令室に辿り着いた基地司令は、頭を掻きむしりながら椅子に身を放り投げた。
「司令!」
「状況は?」
「良くないです。衝突早々1機が大破し、現在なんとか進軍を食い止めていますが……」
「時間の問題、か」
「はい……先頭の鉄騎、アレは恐らく先日ノイザップ殿を破った……」
「“蒼黒の鉄騎”か……面倒なヤツが来たもんだ……」
基地司令が口にした“蒼黒の鉄騎”。
それこそが、今現在この基地を大恐慌状態に陥れている原因。
鳴り物入りで投入された新型機をいとも容易く撃破した、蒼と黒の装甲に包まれた謎の機体……“イシュローラ”のことである。
その“蒼黒”が、仲間を引き連れて襲いかかってきているのだ。
彼らの士気を下げるには充分すぎるほどであった。
……ある1人を除いて。
「……司令、第1格納庫より入電。ゴダードン7級兵率いる第4陣が準備完了したとのことです」
「ゴダードンか……アイツならもしかしたら“蒼黒”も……よし、出撃させろ!」
「了解! 第4陣、大至急出撃せよ!」
「それから……例の準備も進めておくよう、整備班に伝えておけ」
「了……はっ!?」
「聞こえなかったのか? 急がせろ」
「は……ははっ! 第3格納庫、応答せよ!」
司令室から発せられた命令に従い、新たに7機の魔導鉄騎が格納庫から飛び出した。
7機はそれまでとは打って変わって綺麗な隊列を組み、武器を構えて敵へと向かっていく。
その先陣を切る機体の操縦席で、1人の漢が身を震わせていた。
「ついに……ついにこの時が来た! 待ってやがれよ“蒼黒”! 弟の仇は俺が討つ!」
恐怖ではなく、怒りと興奮で。
ゴダードン・エイドは操縦桿を強く握りしめ、未だ見えぬ仇敵へ向けて雄叫びを上げた。
今の彼を突き動かすのは、復讐心ただ1つ。
胸に、瞳に、復讐の炎を燃やしながら彼は走る。
最愛の弟の命を奪った、“イシュローラ”。
憎き仇の胸元に、鋭い刃を突き立てる己の姿を思い描いて。
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