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第6話「臙脂の盾、山吹の槍」(6/6)


その日の夕方、男子宿舎の廊下。

新は、迎えに来たエイディと2人並んで歩いていた。


「……しかし、《零式》に私服を積んでこなかったのは災難だったねえ」

「無茶言うな。元々こっちにお泊まりの予定なんか無かったんだからよ」


苦笑しながら話すエイディに、新はぶっきらぼうに返事する。

隣を歩く彼は、紫檀(したん)色の上着と墨色のパンツを見事に着こなしていた。

胸元が大きく開いた紫檀色の上着と翼を模した首飾り、更に耳に挟み込み式のアクセサリーまでぶら下げたその姿に、新は一種の既視感を覚えた。


「……チャラ男……」

「ん? 何だいそれ? 《ウィノロック》の言葉かい?」

「……まあ、そんなとこだ」

「ふむ。……にしても、服装が変わり映えしないのは良くないね」


そんな派手なエイディに対して、新は薄墨色に赤いラインが走る、いつもと同じ統合軍の制服……の2着目。

作戦中にこちらへ放り込まれた彼が、私服など持ってきているわけがなかった。

その為、新は今2着ある制服を着回して日々を過ごしている状態だ。


「いーんだよ、オシャレとか興味ねえし」

「興味なくとも、自分で着たいと思った服を着るのは大事さ。服装が変われば気分も変わるからね」

「ふうん……そういや、昔クラスの女子が似たようなこと言ってたような……」

「そうだ! 次の休みにでも、僕と買い物に行かないか? 君の私服選びの助けになりたいんだが……」

「あ? あー……まあ別にいっか。じゃあ頼むぜ」


2人でそんな会話を交わしながら階段を降りて宿舎を出ると、そこには見知った少女が3人、見慣れぬ服装に身を包んで立っていた。


「おっ、来た来た!」

「こっちは準備出来てますよ」

「……この際、服装には何も言わないわ」


ノノは動きやすそうな半袖の黒い上着と、健康的な太ももを隠しもしない紺色のショートパンツ。

トロフェは胸元にフリルがあしらわれた可愛らしい純白の上着と、膝丈ほどの赤いコルセットスカート。

ウェンは空色のワンピースの上から羽織った、丈の短い狐色のジャケット。

三者三様の服装で、彼女達は2人を出迎えた。

当たり前だが、普段の制服や作業着とは全く違った印象を受ける格好だ。

その姿に、新はしばし目を奪われて立ち尽くす。


「やあ、早いね3人とも」

「ふふ、楽しみだったので準備も張り切っちゃったんですよ」

「だって楽しみじゃん、みんなでご飯!」

「ノノらしいね。……ん?」

「…………」


ふと、エイディが新へ視線を向ける。

先程から一言も発しないことに気付いたようだ。

当の新は相変わらず、3人をまじまじと見つめ続けている。

やがて、ウェンが少し苛立った様子で口を開いた。


「……何よ、こっちジーッと見て」

「ああいや、なんか新鮮だなって」

「気持ちはわかるよ、3人とも可憐だからね」

「新鮮なのは当たり前ですよ、新さんに私服見せるの初めてじゃないですか」

「まあ、そりゃそうだ」


エイディの軽口を聞き流し、トロフェが口元に手を当てて笑いながら答える。

手袋に覆われた黒い指が、彼女の小ぶりな唇をそっと押し上げた。

よく見ると、その唇は微かに艶を帯びて煌めいている。

こちらでのグロスにあたる物でも塗っているのだろうか。

化粧に関する知識が乏しい新でも、それくらいのことはなんとなく予想できた。


「さて、そろそろ行きましょう。早くしないと席埋まっちゃうわよ」

「そだね、行こ行こ!」


5人は歩き出し、市街へと延びる長い階段を下っていく。

山間に沈んでゆく夕陽に照らされ、5人の長い影が階段へ映し出される。

その長い影を従者のように従えながら、彼らはいつしか雑談に興じていた。


「そういや、どこ行くんだ?」

「東街のナルァツェル食堂です。あそこなら大抵の物は食べられますからね」

「……着いてのお楽しみじゃなかったの?」

「あっ!」

「んふふ、トロフェってばおドジ〜」

「い、いやぁ、楽しみでつい……」


「そういえば、新は何か好物とかあるのかい?」

「んー、強いて言いや甘いモンかな。あとはよっぽど辛かったり苦かったりしなきゃ」

「あら、それじゃトロフェと真逆ね」

「そうなのか?」

「はい。私、もう辛いものが大好きで大好きで!」

「アタシ、美味しかったら何でも好きー!」


「んで、今から行くその……ナル、何とか食堂ってどんなとこなんだ?」

「ナルァツェル食堂。手頃な価格帯とメニューの豊富さで、特に家族連れに人気のお店ね」

「ふーん、ファミレスみたいなもんか」

「代金は僕らで持つよ。君はこちらの貨幣を持っていないだろう?」

「騎士団としての収入も、まだのはずですし……」

「お、悪いな。その内返すぜ」


日が傾き、星がぽつぽつと見え始める空の下。

他愛無い、取り止めのない、何ということのない雑談を交わす5人。

大小の笑い声を交え、目的の食堂へと足を進めていく。

人波をくぐり、見知った者に会えば2〜3の言葉を交わして、進み続ける。

そしてそれは新たな雑談の材料となって、再び話に花が咲く。

その姿はさながら、雑談を行進曲にして行進していく軍楽隊のようにも見えた。


To be continued...


────


キャラ・メカ・用語


○キャラ


名前:ゴダードン・エイド

性別:男

年齢:19

《ラミーナ》軍の若き兵士で、ガゼルに似た種族の青年。

双子の弟ヌイーザと共に将来を有望視されている。

階級はヌイーザと揃って7級同志。


○用語


クルマ

広い格納庫内を迅速に移動する為の小型車両の通称。

操縦は容易であり、1日も触っていれば15に満たない子供でも操縦法をひと通り習得できる。


脱出装置

《アレミック》各機に標準搭載されている、転移魔術を応用した装置。

操縦席ブロックだけを予め定めた輸送艦や基地などに転送することで脱出を可能にしている。


ナルァツェル食堂

《神聖帝国》東街にある大衆食堂。

休日には家族連れでごった返している。

オーナーは小太りの中年男性フェチ・ナルァツェル。

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