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第1話「黒狼、吼える」(2/5)


「母さん母さん、ちょっと」

「あら、どうしました?」

「速報入った。統合軍勝ったぞ」

「あら、良かったですねえ。あ、お茶持って来ますね」

「ん、頼む」


とある地方都市に暮らす夫婦が、テレビを見ながら昼を過ごしている。

テレビから流れるのは、専門家やタレントをコメンテーターに招いたよくあるワイドショー番組だ。


『……ええ、そういうわけで統合軍がIOXの撃退に成功したと速報が入ったわけですが……そもそもIOXとは何なのでしょうか? 軍事評論家の六車先生』

『はい。IOXとは“Invader of X”の略でして、つまりは全く未知からの侵略者なわけであります。分かっていることといえば、あ、フリップ出してください』


『はい、こちらですね。まず二十メートル級の人型兵器であるということ。それから突然現れ突然消える神出鬼没性。そして、鉱石や石油、石炭など、資源が豊富な土地に集結してそれを奪うということですね』

『何故現れたのでしょう?』

『それはまだ分かっておりません。そもそも全ての始まりは四年前、アメリカのテキサス州に五体のIOXが現われ、周辺の破壊と略奪を開始しました』

『当時のことはよく覚えてますよ、すぐに世界中に現れて大騒ぎでしたから。宇宙人が地球侵略に来たんじゃないか、なんて騒ぎ立てる人達もいましたが』

『ええ、ですが先程も申しました通り、正体は全くの不明なのです。宇宙人なのか地底人なのか、はたまた未来人なのか』


『そしてそれから一年後。全世界に先駆けて、アメリカ軍がついに対IOX兵器の開発に成功しました。それこそが、人型特殊戦闘車両……“ウォーキングヴィークル”です。WVと略される事もありますね』

『統合軍が結成されたのも、それと同じく三年前ですね』

『ええ。各国の軍がそれまでのしがらみを取り払い、手を取り合い結成したのが統合軍です。恐らく有史以来、人類がここまで団結した事は無いのではないでしょうか』

『そうですね、一刻も早い終戦を願うばかりです。えー、IOX撃退については詳細わかり次第改めてお伝えします。さて、続いて先日不倫が発覚した俳優の……』


────


統合軍極東支部関東部署。

IOXの脅威から人々を守る砦の内一つだ。

主戦力としてWVだけでなく、その戦闘をアシストする為の戦車や航空機、艦船なども保有している。

施設内のあちこちを、ライトグレーの制服に身を包んだ兵士達が行き交う。

壮年の男性や中年の男性、更には妙齢の女性やうら若き少女など、その容姿は様々だ。


基地内の中央に位置する、作戦司令室。

部屋の奥に立つ中年の男性こそが、この関東部署の指揮を執る司令官だ。

現在司令室には司令官の他、男女合わせて五人の兵士が立っている。


「第四分隊の諸君、今回もご苦労さん」

「いえ、仕事ですから」

「はい! 特に天道は自機を損傷させてまで奮闘してくれました!」

「倉松整備長もカンカンだったッスねえ」

「……河野、佐間。お前ら後で覚えてろ」

「俺は事実を述べたまでだ! お前の奮闘ぶりを司令に伝えるべく……」

「いいから。そういうのマジでいいから」


隣に立つ男女にからかわれ、薄藤色の髪を持った青年……天道新は二人を睨みつけた。

茶髪の青年……河野と桃髪の少女……佐間は、それを意にも介さない様子でこちらを見ている。


新はあの後、東端の敵を打ち倒す事に成功はした。

更に、その後ほぼ同時に襲いかかってきた三体の敵を、見事に全員撃破してみせたのだ。

ただし、自機も損傷がひどく、ほぼ相討ちに近い状況ではあったが。


三人の様子を見かねた緑髪の女性……山崎が後ろに回り、新から順に軽く小突いていく。

彼女はこの第四分隊の隊長であり、一癖も二癖もある四人をまとめる役目を負っている。


「もう、やめなさいよアンタ達。司令の前でみっともない」

「いやいや、楽しそうでいいじゃないか。お前達第四分隊のそういうところ、俺は好きだぞ山崎」

「は、はあ……」

「……ところで司令、質問なのですが」

「うん、どうした堀田?」

「天道の“狼羅”は修理に時間がかかりそうだ、と倉松整備長が言っていたのですが……次の作戦、天道には代替機が?」


黒髪の青年……堀田が口にした“狼羅”というのは、新達が乗るWVの機種名である。

アメリカ軍の主力である元祖WV“ジョージ”を参考に日本で開発された“狼羅”は、“ジョージ”以上の性能と汎用性を誇る傑作機として名高い。

そんな新の“狼羅”が大破したとて、敵は待ってくれるはずもない。

早急に別の“狼羅”を用意する必要がある。


「そうだな。……といっても、今は東北部署に支援を送ったばかりで余分な“狼羅”が無いんだ。天道には悪いが、“零式”を使ってもらおう」

「“零式”……? それって、確か試作機ですよね?」

「“狼羅”のデータを取得後お役御免になった、と伺っていますが!」

「いやあ、俺が貧乏性でな。いつかどこかで使うかもと思って取っとくよう指示を出しておいたんだ」


彼らが口々に話す、“零式”。

正式名称を“狼羅・零式”といい、“狼羅”ロールアウト前にデータ収集を目的として造られた試作機である。

無論、制式採用の“狼羅”と比べて性能は若干劣るが、決して戦えないほどではない。


「勿論、出す前にお前のクセに合わせた調整はさせる。頼むぞ、天道」

「……まあ、言ってみりゃ自機ブッ壊れたのは自分の過失ですし……“狼羅・零式”、謹んで拝領します」

「うむ。それでは下がってよし。四日後の作戦に備えてゆっくり英気を養ってくれ」

「了解しました。では、第四分隊、失礼いたします」


山崎が先頭に立って敬礼し、五人は順に司令室を後にした。

基地内の廊下を歩いていると、隣を歩く河野と佐間がまたも新に絡んでくる。


「それにしても、やったな天道! 隊長の山崎を差し置いて専用機だぞ!」

「専用機っつっても型落ちの試作機だろ? 特別嬉しいとかはねえよ」

「でも、アニメとかだと試作機が実は強い! ってのは定番ッスよ? 危険すぎて制式機には搭載出来なかったすっごい武器やシステムが搭載されたままだったり、あっ! もしかしたらピンチの際には鳥型サポートメカと合体して真の姿に……」

「んなもんあってたまるか。相変わらず趣味の話になると早口だなお前は」

「まあまあ、司令なりに天道を信頼してるんじゃないかしら? 試作機でも問題なく戦えるだろうって」

「僕もそう思う。でなきゃ東北から一機送り返してもらって、それが届くまで天道には留守番とかさせるんじゃないかな」

「……ま、奴らを狩れるんなら得物にこだわるつもりは無えけどな」


試作機をあてがわれた事を内心少しだけ気にしていた新だが、山崎と堀田のフォローで気を持ち直した。

恐らくは、河野と佐間も彼らなりのフォローのつもりなのだろう。

……多少なり不器用ではあるが。


「不慣れな機体だからといって心配するな! その分、俺達が敵を倒してやろう!」

「ほー、そりゃ頼もしい。せいぜい楽させてもらおうかね」

「いや、楽するなし。全員で頑張らなきゃダメだからね?」

「分かってるって山崎。軽い冗談だよ」


歳が比較的近いことも手伝ってか、隊長と隊員という関係ではあるものの、歩きながら談笑する五人の姿はまるで学校のクラスメイトのようにも見える。

軽口を叩きあいながら、五人はそれぞれの部屋へ戻っていく。

後に待つ、熾烈な作戦に備えて。


────

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