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第5話「降臨、蒼黒の異界騎士」(7/7)


「……勝ちました、かね?」

「向こうがまだ手を残してねえ限りはな。……不安ならトドメ刺しとくか?」

「うーん……捕獲出来ませんかね? 新型機を任されるほどのパイロットなら、何か向こう側の情報を持ってる指揮官かも」

「了解。なら逃げられねえように脚も斬っとくか」


2人はそんな会話を交わしながら、倒れた“エルパーグ”を見つめる。


その“エルパーグ”の中で、ノイザップも同じく“イシュローラ”を睨みつけていた。


「クソッ、クソォオオッ! まさか……まさかこのオレがぁあっ!!」


敗北した悔しさ、目の前の敵への怒り、レウルクから賜った任をこなせなかった無念。

それらのこもった拳をモニターに叩きつけ、ノイザップは叫んだ。

しかし、絶叫と共に全てを吐き出した彼は、同時に冷静さを取り戻していた。

確かに虎の子の“エルパーグ”は最早使い物にならない。

鉄球は鉄線を斬り刻まれ、片腕を斬り落とされ、挙げ句にビーム砲も潰された。

生きている武器は頭部の機関砲だけ、最早戦闘継続は不可能だろう。

だが、肝心の自分はまだ生きている。

ここはヤツのデータを無事に持ち帰り、次の戦いに活かすことこそが最優先事項。

そうと決まれば、いつまでもこんなところで転がっているわけにはいかない。


ノイザップが視線を向けたのは操縦席左端の、透明なカバーで覆われた赤いボタン。

そこへ向けて勢いよく拳を振り下ろし、カバーごとボタンを叩き割る。

すると、操縦席内にけたたましい警報音が鳴り響き、目の前のモニターには10という数字が表示された。


『自己爆破、起動待機。搭乗者は退去を急いで下さい』


操縦席内に、電子音声が鳴り響く。

時とともに1ずつ減っていくその数字を見つめながら、更に右足元のレバーを引く。

すると、操縦席全体が眩い輝きに包まれ出した。

輝きの中で腕組みをし、武器を手に近寄ってくる“イシュローラ”をモニター越しに睨みつけ……。


「覚えていやがれ、継ぎ接ぎ野郎! この次こそはオレがお前を倒す! 必ずだ!!」


直後、“エルパーグ”の機体は節々から炎を噴き出しながら爆音を放ち、大爆発を起こした。

もうもうと立ち込める煙が晴れると、そこには無傷の“イシュローラ”が障壁を纏いながら立っていた。

その足元には、ほんの数秒前まで“エルパーグ”だった鉄塊が転がっている。

ゆっくり歩み寄って、鉄塊の1つを拾い上げる。

中心付近に転がっていたそれは、形状や大きさからして操縦席近辺の残骸のようだ。


「まさか自爆するとはな……お前が気付いて障壁張ってくんなきゃヤバかったな、助かったぜ」

「いえ。……お礼を言いたいのは、こちらの方です」

「ん?」

「新さんのお陰で、この“イシュ”は生まれ変わって、こうして戦えたんですから」

「そりゃ改造したウェンのお陰だろ。俺は別に何も……」

「新さんが操縦してくれたから、こうして無事に立っていられるんですよ?」

「操縦したのはお前もだろ」

「そ、そうですけど……もう! 人の好意くらい素直に受け取って下さいよ!」

「はは、悪い悪い。……高速艇の方は、逃げ出したか」


周囲を見渡すと、先ほどまでいた高速艇の姿がどこにも見当たらない。

恐らくは、虎の子の“エルパーグ”がやられてしまったのを見て逃げ出したのだろう。


「ここはもう安全そうですね。南の方は大丈夫でしょうか?」


トロフェは操縦席脇の機械を操作し、通信を開いた。

通信機に向けていくつかの言葉を交わす彼女を背に、新は握りしめた鉄塊に視線を下ろす。


トロフェは確かに言っていた。

「新型機を任されるほどのパイロットなら、何か向こう側の情報を持ってる指揮官かも」と。

それが本当ならば、新は早速敵の指揮官を討ち取ったということになる。

新の脳内を、ある仮説がよぎった。

その可能性は極めて低い、低いのだが……。

もしも、もしも今討った敵こそが奴らの……《アレミック》の親玉であったなら……。


まさかな。

新は自嘲気味に笑いながら、自らの考えを否定した。

敵の本拠地に事故ながら乗り込めたとはいえ、そう都合よく“仇”が討てれば苦労はしない。

鉄塊を放り投げ、爪先で軽く踏みつける。

爆発による高温の熱風に曝されたせいか、鉄塊はいとも容易く粉々に砕け散ってしまう。


「新さん。……新さん?」

「……えっ? あ、ああ悪い、ボーッとしてた」


いつの間にか通信を終えたトロフェから繰り返し呼びかけられていたことに、今更ながら気付いた。

慌てて返事をすると、トロフェは少し呆れたように肩をすくめてみせる。


「もう……。あちらも終わったようです。味方の損害は軽微、砲艦2隻撃沈の大戦果だそうですよ」

「おう、そうか。なら俺らも帰るか」

「そうですね。一応、本部に帰還報告をしておきますね」

「頼んだ」


踵のローラーを回して大地を蹴り、《神聖帝国》への帰路につく“イシュローラ”。


「……うっ、ううっ……ヌイーザ……ヌイーザぁ……! クソッ……クソッタレめ……! よくも、よくもヌイーザを……!!」


その背中に、怨嗟の眼差しが向けられていることも知らずに。


To be continued...


キャラ・メカ・用語


○メカ


名前:イシュローラ

分類:分類不可

武装:ヘヴィマシンガン×1、高速振動ブレード×1、シールド×1、光線魔術、斧槍魔術、障壁魔術

新の《零式》とトロフェの《イシュ》を繋ぎ合わせて建造された、魔導鉄騎でもありWVでもある機体。

2種の原動機を搭載したことにより高いパワー、スピードを発揮し、短時間の低空飛行も可能。

基本操縦を新、魔術制御をトロフェが担当する。


名前:エルパーグ796

分類:魔導鉄騎

武装:機関砲×2、ビーム砲×1、鉄球×2、伸縮魔術

《ラミーナ》軍の最新鋭機。

高い加速力を活かした突撃戦法を得意とする。

ノイザップの魔術により、鉄球を繋ぎ止める鉄線を長く伸ばして振り回すことも可能。


○用語


ドネスロン

《ラミーナ》軍前線基地の1つ。

《神聖帝国》に最も近い基地であり、頻繁に物資や鉄騎、兵士が出入りしている。

反面、戦争が始まって以来攻め込まれた経験が無い為に防衛設備にはあまり重きを置かれていない。

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