第5話「降臨、蒼黒の異界騎士」(6/7)
「っ、新手来ます! 新型です!」
「アレか!」
2人が急接近する“エルパーグ”を視認すると同時に、“エルパーグ”は胸に据え付けられたビーム砲を乱射してきた。
飛び退いて最初の数発は回避したが、着地点を狙って放たれたもう1発までは回避が出来ない。
「チッ!」
「【阻め閃光】!」
しかしその時、トロフェの叫びと共に“イシュローラ”の周囲に光の膜のようなものが展開された。
光の膜は放たれたビームを受け止め、そのまま飲み込むように掻き消してしまう。
「チィッ! 障壁魔術の使い手が乗っていたか!」
「障壁魔術。多少の攻撃なら、これで受け切れます!」
「助かる! ついでにこのまま頼むぜ、トロフェ!」
「はい! 【疾れ閃光】!」
トロフェが叫んで操縦桿を引くと、“イシュローラ”の翼が2門の大砲へと姿を変える。
そして“イシュ”の腕をそのまま流用したその大砲から、青白い閃光を吐き出した。
2筋の閃光は真っ直ぐに飛んで“エルパーグ”に襲いかかるが、“エルパーグ”は素早く横に跳んでそれを回避する。
「外した!?」
「上等! そもワンパンで済むなんて思ってねえよ!」
吐き捨てて新は操縦桿を振り回し、跳んだ“エルパーグ”を視界に捉えた。
そしてそこへ向けてマシンガンの銃口を向け、引き金を引く。
放たれたマシンガンの弾丸は“エルパーグ”の足下に次々と飛び込み、その足を止めた。
それを好機と見た新はブレードを引き抜いて振りかざし、“エルパーグ”へ飛びかかる。
「でりゃあっ!」
“エルパーグ”の脳天へ振り下ろされたブレードはその拳によって阻まれ、両断することはかなわなかった。
小さく舌打ちしながら飛び退き、“エルパーグ”を睨みつける。
着地してすぐさま銃口を向け、引き金を引いた。
“エルパーグ”はそれを飛び跳ねてかわそうとするが、回避しきれずに数発が肘に被弾してしまう。
「チィッ、小癪なぁ!」
ノイザップは食いしばって振り向き、頭部の機関砲と胸部のビーム砲で反撃を試みる。
“イシュローラ”を視線で追いかけながら機関砲とビーム砲を放つも、空へ飛び上がった“イシュローラ”には掠りもしない。
空中から降り注ぐマシンガンの弾丸を、交差させた両腕で防いだ。
“エルパーグ”の巨大な両腕は見た目以上に頑丈なようで、弾丸を1発残らず弾き返してしまった。
新は着地して周囲を旋回し、時折マシンガンで牽制しながらその姿を観察する。
「チッ、あの腕が厄介だな……」
「センダムの時みたいに、脆い部分を突けないでしょうか?」
「狙い目は……ま、フツーに考えりゃ関節か。狙うのは楽じゃねえな」
「なんとか隙を作らないと、ですね……次は私が仕掛けてみます! 【疾れ閃光】!」
トロフェの詠唱と共に翼は再び大砲へ姿を変え、2筋の光を“エルパーグ”へと吐き出した。
“エルパーグ”はそれを見て咄嗟に屈み、直撃を免れる。
しかし、掠めただけのはずの閃光はその装甲を焦がし、勢いのまま上体を仰け反らせるほどの威力を見せた。
「ぐおっ……!? なんて力だ、継ぎ接ぎのくせに!」
「今ならっ!」
「ああ、いける!」
仰け反った隙を逃すことなく、“イシュローラ”はブレードを構えて“エルパーグ”の懐目掛けて一直線に突っ込む。
ブレードの先端を、その関節に突き立てる様をイメージしながら。
「させるかぁっ! 【伸びろ鋼鉄】!!」
「んぐっ!?」
「うっ……!」
しかし、その刃が“エルパーグ”を貫くことはなかった。
“エルパーグ”の鉄球状の両拳が突然高速で打ち出され、その片方が“イシュローラ”に直撃したのだ。
鉄球を蹴飛ばし何事かと目を見張ると、“エルパーグ”の手首から太い鉄線のようなものが伸び、鉄球まで繋がっているではないか。
特筆すべきは、その長さ。
どう見ても“エルパーグ”本体の2倍3倍では済まないほどに伸びる鉄線は、明らかに腕の中に収まる量を超過している。
「何だありゃ……あれも魔術か?」
「恐らくは。物の質量を増大させる魔術は、使い手がかなり限られるはずですけど……」
「目の前にいるのがその限られた奴ってわけか。まずはあの鉄球をなんとかしねえとなっ!」
巻き取られていく鉄線に向けてブレードを振り下ろすが、鉄線が傷つく様子は全くない。
見た目以上に頑丈な素材が用いられているようだ。
やがて鉄線は完全に巻き取られ、鉄球は元通り“エルパーグ”の手元へと戻った。
「ほう、思ったより頑丈なやつだな。まあ、そうでなくては“エルパーグ”の真価も発揮できんというものよ!」
ノイザップは笑みを浮かべ、機関砲とビーム砲をさらに乱れ撃つ。
それを回避し、時に障壁で防ぎつつ、新は歯噛みした。
機関砲とビーム砲自体はさほど脅威ではなく、障壁任せで強引に突発することもできなくはない。
だが、問題は鉄球だ。
高速で発射される2つのそれを完全に回避するのは困難であり、どうにか無力化させたいところだが……。
「鉄球本体も鉄線も根元も頑丈で壊せねえときたか……さて、どうすっか……」
「……私、出せるかもしれません。あの鉄線を斬れるもの」
「マジか」
「恐らく。初めて思い描く形なので、自信はありませんが……」
「……ここはお前に賭けるしか無さそうだな、頼むぜ」
「分かりました。危険ですけど、もう一度あいつが鉄球を発射するよう仕向けてくれませんか?」
「任せろっ!」
トロフェに向けて笑顔を見せ、操縦桿を勢いよく倒して前方へ突っ込む。
「破れかぶれか、愚かな! 【伸びろ鋼鉄】!!」
ノイザップは嘲り、真っ直ぐ伸ばした両腕から同時に鉄球を発射した。
高速で飛来する鉄球に対して、“イシュローラ”は臆することなく突進していく。
その姿にノイザップはほくそ笑み、勝利を確信した。
が、その時。
「っしゃぁっ!」
“イシュローラ”は地面を強く蹴って跳び上がり、迫る2つの鉄球を紙一重で回避して見せたのだ。
「トロフェ!」
「……はい! 長く、重く、鋭く……! 【薙げ閃光】!」
トロフェの操作に伴い、“イシュローラ”の左の翼が変形していく。
腰近くに添えられ、まるで刀の鞘のような形になった翼の先から、光の棒が真っ直ぐに伸びる。
それを掴んで引き抜くと、光の棒はみるみる姿を変えてゆき、長い柄を持った斧槍の形になった。
「で、出来たっ……!」
「上出来だ! せいっ!」
引き抜いた勢いのまま体を回転させ、斧槍を素早く振り回す。
振り回された斧槍は、ブレードの一撃をものともしなかった鉄線をいとも容易く斬り裂いていく。
回転の勢いに任せ、さらに2度3度。
まるで茹でた麺を切っていくかのように、鉄線を細かく斬り刻む。
その姿は、ノイザップを驚愕させるには充分すぎるほどであった。
「ばっ、馬鹿な!?」
彼が驚いた一瞬の隙を、新は見逃さなかった。
“エルパーグ”の眼前に降り立ち、光り輝く斧槍を振り上げる。
狙う先は、その左腕の付け根。
ノイザップは驚きつつも咄嗟に操縦桿を引いて回避しようとしたが、その瞬間に“エルパーグ”の機体がガクンと揺らいだ。
“エルパーグ”の爪先を“イシュローラ”が踏みつけ、逃げられないようにしていたのだ。
その為に“エルパーグ”はバランスを崩し、防御も回避もままならない無様な姿を晒してしまった。
「でぇりゃあぁっ!!」
そして、そこへ勢いよく振り下ろされる斧槍。
鋭利な一撃は“エルパーグ”の左腕を見事に断ち斬り、その断面から火花を血飛沫の如く迸らせた。
おまけとばかりにその胸へハイキックを見舞い、ビーム砲をへし折りながら転倒させる。
“エルパーグ”はなすすべなく打ち倒され、土煙を上げながら地面へ仰向けに倒れ込んだ。
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