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第5話「降臨、蒼黒の異界騎士」(4/7)


その日の夕方、《ラミーナ》領北部に広がる草原地帯。

そこに堂々と腰を据える、高く堅牢な防壁に囲まれた前線基地、その名は《ドネスロン》。

4隻の陸上艦が発進準備を整える中、基地の司令塔からそれを見下ろす人影があった。


「中型砲艦3隻、輸送艦1隻及び魔導鉄騎10機。陽動部隊の出撃準備は整っております、ノイザップ殿」

「ならば今すぐ出撃だ! なるべく派手にしでかして騎士団の連中を引きつけるんだぞ!」

「はっ。……各艦、《ユースティル》へ向けて出撃せよ!」


馬のような耳を頭から生やした男がマイクに向けて指示を出すと、4隻の陸上艦は次々に動き出していく。

その姿が地平線の彼方へと向かっていくのを見届け、馬耳の男は後ろに立つ男へ声をかけた。


「予定では、翌々日の正午に《ユースティル》を射程圏内に捉えます。ですが……」

「ふん、騎士団とてそうなるまで気付かんほど愚かではないだろう。2時間、いや3時間以内には察知されて迎撃されるに違いない」

「流石はノイザップ殿、見事な観察眼で……」

「お世辞よりも、俺達が乗る小型高速艇の準備は出来ているんだろうな?」


手揉みする馬耳の男の言葉を遮り、雄牛のような立派な角を生やした男は彼を睨みつける。

馬耳の男はたじろぎながら手揉みを止め、慌てて頭を下げた。


「は、はい。準備は万全、いつでも出られます」

「そうか。首相から賜った撹乱装置は?」

「無論そちらも問題なく。ご覧になられますか?」


そう言って馬耳の男は眼前の機器を操作し、モニターを切り替える。

格納庫に鎮座する小型の陸上艦の周囲に、大小様々な数字が表示されていく。

馬耳の男がマイクに向けて、撹乱装置起動、と囁いて数秒。

それらの数字が一瞬にして全て0へと書き換わった。


「ほう、見事なものだ」

「ええ。魔力感知、熱量感知、電波感知、その他一切がこの撹乱装置の前には無力でございます」

「魔術科学者共も、少しは仕事をするようだな。鉄騎2機分の積載を潰すだけの価値はある」

「あらゆる索敵から身を隠します故、一度起動すれば目視以外で見つけ出すことは不可能でございます」

「しかしてコイツの素早さならば目視で確認出来たところで、向こうの迎撃準備が整う前に一気に接近して鉄騎の展開が可能……フン、完璧ではないか!」


角の男が満足げに鼻を鳴らすと、ここぞとばかりに馬耳の男が姿勢を低くしながら歩み寄ってきた。


「ええ、ええ! 更にはノイザップ殿が直接操られる新型鉄騎、その名も“エルパーグ796”! 此度こそはさしもの騎士団とておしまいでございましょう!」

「フフン、そうだろうそうだろうとも! よし、3時間後に高速艇も出撃するぞ! クルー共にも伝えておけ!」

「はい、お任せ下さい!」

「進路は西だ! 奴らが陽動部隊とカチ合ってる間にその脇を通って《ユースティル》を直接叩くぞ! ガッハッハッハ!」


角の男が上機嫌で部屋を後にし、馬耳の男はただただ低姿勢でそれを見送る。

が、角の男の姿が見えなくなると、彼は突然手近な椅子を蹴飛ばして出口の扉を睨みつけた。


「ふん、単細胞めが。首相の側近だか何だか知らんが、基地司令である俺様にデカい口を叩きやがって……」


基地司令と名乗った馬耳の男は蹴飛ばしたのとは別の椅子にふんぞり返り、懐から取り出した煙草に火をつけた。

先端から(くゆ)る煙が、壁に張り出された『室内禁煙』の注意書きの前を横切る。

司令室には現在彼が1人だけ、誰もその行いを咎める者はいない。

重度の愛煙家である基地司令にとっては、規則を破ってでも今すぐ気持ちを落ち着かせたいところであった。

あの角の男……ノイザップ・ムラの傍若無人な振る舞いは、彼にとってそれほどに許容できないものなのだ。


ノイザップ・ムラ。

《ラミーナ》首相レウルク・セスラッグの側近を務める男。

その筋骨隆々な外見に違わず勇敢かつ豪胆で力も強い。

更には魔導鉄騎の操縦も堪能、おまけに多少だが魔術の心得まであるという。

欠点を挙げるならば、まずは知能が少しばかり低いこと。

そして、若くして首相側近に選ばれたことに起因する傲慢さ、といったところか。

先程のように、他者に対して威張り散らすことも珍しくない。

その為に彼を憎む者も少なくはないのだが、そこは腐っても首相側近。

彼の機嫌を損ねれば、首相へとあらぬ告げ口を捏造されかねない。

それを避ける為には、先程の基地司令のようにゴマをする他無いわけだ。


通路を歩くノイザップの背中へ、兵士達から嫌悪の視線が投げられる。

それに気付いていないのか、それとも気付いてなお首相という後ろ盾に慢心しているのか。

ノイザップは構うことなく、胸を張って通路をズカズカと突き進んでいく。

すれ違う兵士達は少しだけ顔をしかめ、すぐに作り笑顔で彼に会釈し、そのまま早足で去っていった。


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