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第5話「降臨、蒼黒の異界騎士」(2/7)


「……さて、早速ですが天道さん。……いえ天道。それからドーリィクスも前に」

「へっ? え、あ、はい」

「……はい」


突然呼び捨てにされ、新は戸惑いつつ姿勢を正す。

見ればグデルの表情はキッと引き締まり、先程までの柔らかい表情が嘘のようだ。

隣に並んだウェンの顔を横目に見れば、彼女の方も少しばかり目を丸くしている。

どうやら、このグデルの変貌は新にとっても騎士団にとっても新鮮なものらしい。


「異世界よりの客人とはいえ、これからは騎士団の一員と同様に接させてもらいます。いいですね、天道?」

「あー……なるほど。承知しました、団長代行」

「よろしい。さて、早速ではありますが、2人には現在構想中の特殊遊撃部隊に参加してもらいます」

「特殊遊撃部隊……?」

「はい。こちらを」


そう言うとグデルは机上のモニターを操作し、ある画像を表示させた。

《エグナーツ》の地図を表したその画像に彼が指先で触れると、《神聖帝国》の位置を中心に赤青2色の点が広がっていく。

どうやら、騎士団と連合国家軍の動きを表現しているらしい。

赤い点が《神聖帝国》に近付いては青い点によって退けられ、それが幾度となく繰り返されている。


「そもそも、我々は今まで山岳に囲まれた地の利を活かして防衛戦を続けてきたわけですが……これでは決定打を与えられず、お互い消耗戦を繰り返してきました」

「まあ……鉱山がすぐそばだからって、限度はありますよね」

「ええ。そこで考案したのが、少数精鋭による特殊遊撃部隊を用いた電撃作戦です」


グデルが再度モニターに触れると、新たに青い点が1つ地図上に灯る。

そしてその青い点が地図上を駆け回り、立ち止まった先々で次々に爆発を表す記号が浮き上がっては消えていった。


「これを用いて各地に点在する連合国家の前線基地を急襲、こちらが一気に攻勢に出る準備を進めます」

「なるほどね、了解しました。天道新、謹んで特殊遊撃部隊へ参加させていただきます」

「団長代行。新は分かるのですが、私もその特殊遊撃部隊へ参加するのですか?」


新が右手を左胸にあてる騎士団式の敬礼をしながら指令を復唱する隣で、ウェンが尋ねる。

彼女は本来、魔導鉄騎の整備を担当する工士隊の所属。

そんな自分が遊撃部隊に抜擢されたことが、(いささ)か気になったようだ。


「はい。ドーリィクスには特殊遊撃部隊の主任整備員を任せたいと思っています」

「はぁ、主任ですか……正直に言って経験に見合わぬ大役かとは思いますが、まあ承知しました」


ウェンは軽く肩をすくめた後、敬礼して答えた。


「特殊遊撃部隊は、3機の魔導鉄騎と小型輸送機で構成します。その為、3機には並外れた性能を求められますので、工士隊きってのやり手と名高いあなたに頼んだわけです」

「そういうことならお任せ下さい。改修案で生まれ変わるこの子は、理論上は現状最強の魔導鉄騎になるはずですから」

「頼もしいことです。……さて、天道」

「は、はいっ」


呼び捨てされることに未だ慣れない新は、やや上ずった声で返事をした。

その姿が滑稽だったようで、トロフェとウェンはクスクスと押し殺したような笑い声を漏らす。


「あなたを騎士団の一員と同様に扱う以上、これからは訓練にも出席していただきます」

「あー、訓練ですか。そりゃもちろん出ますよ」

「大きく分けて基礎体力訓練、座学、白兵戦訓練、操縦訓練の4つがあります。基本的には、どの訓練を取るかは個人に任せています」


選択科目ってわけか、大学みたいだな。

そう言いかけて、咄嗟にそれを飲み込んだ。

こちらの世界に大学というシステムがあるかどうかは知らないが、知らない場合説明する手間が増えかねない。

何より、グデルの説明に割り込むほどのことではないだろう。


「ただ、私としてはまず座学をお勧めします。天道はまだこちらに来て数日、勝手が分からない部分も多いでしょう」

「まあ、それは確かに」

「あ、それなら私案内しますよ。私、これから座学入れてるので」

「では、天道の案内はレウェージュに頼みます。3人とも、よろしくお願いしますね」

「はいっ」

「お任せください」

「では、失礼します」


トロフェを先頭に、3人は次々にグデルの執務室を後にしていく。

最後尾の新がノブに手を掛け、扉を閉めようとする。

その時にふと顔を上げると、先程とは打って変わってにこやかな笑みでこちらに小さく手を振るグデルの姿があった。


「……なあ、あの人厳しい態度取るのめっちゃ苦手なタイプだろ。最後めっちゃ笑顔だったぞ」

「ああ……まあ、そうですね。部下に注意するとかならともかく、怒鳴ったりしてるのは見たことありませんし……」

「でも、最近は団長らしさが出てきたと思うわ。あんたを呼び捨てにした時は驚いちゃったもの」

「へえ……そういや、あの人って団長じゃなくて代行なんだよな。本来の団長さんはどこにいるんだ?」

「…………」


新がふと口にした疑問に、2人は答えない。

ただ靴音だけを鳴らして、黙々と歩を進めていく。

聞こえなかったのだろうかと思い、新はトロフェにもう一度声を掛けた。


「なあ……」

「あっ、はいっ? あー、えーっと、団長の事ですよね。ごめんなさい、どこから話したものかと思いまして……」

「……よく分かんねえけど、込み入った事情があるってことか?」

「まあ、そんなところね。いずれちゃんと話すから、今は勘弁してあげて」


顔だけわずかにこちらへ向け、2人はなんとも曖昧な返事を返してきた。

はぐらかされている。

トロフェとウェンの態度から、なんとなくそう感じた。

決定的なのはウェンの「今は勘弁してあげて」という言葉。

これから、トロフェにとって話しにくい事情が隠されていることは想像に難くない。

なんとなく察することも出来そうだが……。


「分かった。それとは別に気になったんだが、特殊遊撃部隊は3機って話だったが、残りはどんな奴が来るんだ?」


それとなく話題を逸らした。

触れられたくないであろう話題に、わざわざこちらから触れる道理は無い。

すると、トロフェがくるりとこちらへ向き直って立ち止まった。


「ああ、それならエイディとノノですね。ほら、昨日一緒だった金髪と赤髪の」

「ああ、アイツらか」

「2人とも腕は確かですよ。訓練生上がりの初陣でいきなり鉄騎を撃破したんですから」

「それに、あの2人にも専用機が与えられるそうよ。まあ、量産機のカスタム機くらいのものだけどね」

「へえ、そりゃ楽しみだ」


トロフェもウェンも、心なしか少しばかり声が弾んでいるように聞こえる。

どうやら話の方向転換には成功したらしい。

それからしばらく、トロフェやウェンのこと、ここにいないエイディやノノのことなどを聞きながら長い廊下を歩いていく。

やがて大きな階段の前に差し掛かったところで、ウェンが足を止めた。


「じゃ、私はここから下だから」

「おう、そうか。じゃあな」

「私達の鉄騎、お願いしますね、ウェン」

「ええ、任せといて」


トロフェの言葉に小さく微笑んでみせ、ウェンは右手をひらひら振って階段を降りていった。

その姿が見えなくなると、トロフェが新へと向き直る。


「それじゃあ、私達も行きましょう」

「ああ、案内頼んだぜ」

「はい、こっちですよ。このまま行くと訓練棟への連絡通路があって……」


2人は階段の前を横切り、廊下の奥へと姿を消していった。


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