第5話「降臨、蒼黒の異界騎士」(1/7)
「……今、何と……?」
新がトロフェを救い、センダム・エケイプと交戦したその翌日。
新はトロフェとウェンの案内で、騎士団長代行グデル・ウォンクの執務室を訪れていた。
グデルは席に着いたまま、呆然と目を見開いて新を見つめている。
トロフェやウェンに後ろから見守られる中、新はゆっくりと口を開いた。
「何度だって言いますよ。お願いします、グデルさん。俺にも戦わせて下さい」
真っ直ぐグデルを見つめながらそう言い放ち、頭を下げる。
その姿に、グデルはただ当惑した。
そも、彼は事故でこの世界へ飛ばされた被害者。
故に、我々騎士団の手で護らなくてはならない。
そう思っていた矢先の、この申し出だ。
彼が戸惑うのも無理はない。
頭を数度軽く振り、力なく声を振り絞る。
「……ドーリィクスから報告は受けていました。『天道さんの“零式”を使って“イシュ”を修復したい、本人達の許可は得ている』と……」
「ええ、確かに使えと言いました」
「私はてっきり、機体だけ提供して下さるものだとばかり……天道さんを巻き込むと知っていれば、許可など出さなかった……」
「お言葉ですが、団長代行」
グデルが弱々しく連ねる言葉を、ウェンが前に出つつ遮る。
そして端末を取り出して操作し、それを彼へと突き付けた。
画面には、“零式”と“イシュ”のパーツの図面が所狭しと並んでいる。
「この“イシュ”改修案は、元より新とトロフェが2人で操縦する複座式構造を前提としています。“零式”と“イシュ”、双方の特性を十全に活かす為に」
「しかし……」
「元より2年近い戦歴がある彼の腕前を見込んで組んだ改修案です。現に彼はセンダム・エケイプを打倒したと聞きます」
「……天道さんは、それで良いのですか……? こんな災いに巻き込まれ、なおも戦うなどと……」
「元々、他人任せってあんま好きじゃないんで」
淡々と言い放つ新に、グデルは言葉を失う。
しばし彼を呆然と見つめ、また頭を振る。
そんなグデルの姿を見兼ねてか、新は頭を軽く掻きながら1歩前に出て口を開いた。
「あー……何つうか、気持ちは嬉しかったですよ。俺を保護してくれるって」
「天道さん……」
「ただ、それでもね。俺にやれることがあるんなら、それをやりたいんですよ」
「…………」
新の言葉を、グデルはただ黙って聞いている。
その脳裏に、かつて体験した光景が過った。
『俺にやれることがあるなら、それをやりたい。ただそれだけだ!』
紺色の長い髪を後ろで束ね、白い歯を剥き出しにして豪快に笑う大柄な男性の影。
短髪で歳も若く、どちらかと言えば細身の新とは似ても似つかぬ姿だ。
しかしグデルは、確かにその男の面影を新に感じていた。
「それが奴らを狩ることだってんなら、殊更ね」
「……ご決断は、揺らがないようですね……その頑固さは、少しあの人を思い出しますよ」
「あの人?」
「いえ、こちらの話です。お気になさらず」
グデルは新の疑問には答えずに苦笑し、椅子から立ち上がって彼の目前へと歩み寄った。
そして柔和な笑顔を浮かべつつ、そっと手を差し出す。
「天道さん。《神聖帝国》騎士団が長……その代行としてあなたに依頼します。《連合国家アレミック》を打倒すべく、我々にお力添え下さい」
「……ええ、喜んで」
その手をしっかりと握り返し、2人は固い握手を交わした。
その様子を見て、顔を見合わせ微笑むトロフェとウェン。
それを横目に見ながら、新も僅かに口元を緩めた。
これから、自分の新しい戦いが始まる。
新しい仲間と共に、この新しい世界で。
グデルと握手する手にも自然と力がこもり、その瞳を一層輝かせた。
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