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第4話「灰と消ゆ情景」(1/5)


『……なるほど、《セリトペー》軍はそのまま敗走したのですね?』

『はい。また、騎士団側の被害も少なからず出ている模様です』

『そうですか、それは願ったり叶ったりですね』


《ラミーナ》首相官邸の一室。

首相レウルク・セスラッグはモニターに映る男からの報告を受け、静かに微笑んだ。

連合の主導権を虎視眈々と狙う《セリトペー》と、敵である《神聖帝国ユースティル・クォッド》。

……もっとも、独立を認めていないこちらからすればただの《工業特区ユースティル》なのだが。

ともかく、面倒な相手が双方ともに疲弊してくれたのは非常に都合が良い。

この好機を逃す手は無いだろう。

レウルクは目を細め、男に問いかけた。


『それで軍務大臣、こちらの準備は?』

『陽動の中型砲艦3隻と輸送艦1隻が現在北端の《ドネスロン基地》にて待機中、また“エルパーグ”他2機とノイザップ殿を乗せた小型高速艇が同基地へと移動中です。到着予定は翌日の正午となっておりまして、そこで一旦補給と乗組員の休息を……』

『……はぁ……』


軍務大臣の報告を、不意にレウルクの溜息が遮った。

見れば、彼女は眉間に(しわ)を寄せ、あからさまに不機嫌そうな顔をしている。

報告の中に何か至らぬ点があったのだろうか、軍務大臣は冷や汗を浮かべながら恐る恐る口を開いた。


『……ど、どうかされましたか、首相?』

『いえ、お気になさらず。《セリトペー》と同じような陽動戦術を使わねばならないかと思うと、少々不快なだけです』

『は、はぁ……しかし、“エルパーグ”の最大の特徴は単騎での突撃性能にありまして、それを充分に発揮するにはどうしても……』

『分かっています、そこにケチをつけるつもりはありません。あくまで本官の個人的な好悪(こうお)ですので』


そこでレウルクは言葉を切り、湯気の立つマグを手に取ってそれに数回息をふきかける。

そして少しだけ傾け、中に満たされた黒い液体を口内に注ぎ込んだ。

すると、彼女の表情はまるで別人のように和らぎ、微笑みを浮かべながら画面に向き直った。


『勝てさえすれば手段は問いません。頼みましたよ』

『はっ! ……ああ、それから余談ではあるのですが』

『なんです?』

『騎士団の中に、《ウィノロック》の鉄騎に酷似した機体がいたそうです。取るに足らぬ情報かとは思いましたが、念の為に』

『《ウィノロック》の……? 数は?』

『確認できたのは1機だけとのことです』

『そうですか、分かりました。作戦準備を急いでください』

『承知しました。では、失礼いたします』


通信は遮断され、暗転した画面にはレウルクの顔が反射されて映っている。

その口元が、ふと醜く吊り上がった。

計画は順調、むしろ想定以上と言っていい程に上手く事が運ばれている。

本来なら《ユースティル》の騎士団相手に苦戦する《セリトペー》に物資支援等で助け舟を出し、恩を着せる予定であった。

もし《セリトペー》が騎士団を撃ち破った場合も、経済的な圧力を仕掛ける準備は出来ていた。

それが、なんと両者痛み分けと来た。

この好機につけ込み、一気に騎士団を打倒してこの戦争を終わらせる。

そして終戦をもたらした功績を以って、連合国家内での《ラミーナ》の地位を不動のものとする。

その為に用意した新型機、そしてあの男なのだ、是非ともここで役立ってもらわねば。

そこまで考えたところで、軍務大臣の言葉が気にかかった。


「……《ウィノロック》、ですか……」


資源獲得の為に侵略を開始した、《ウィノロック》と仮称する異世界。

そこの対抗勢力が運用する機体によく似た何かが、騎士団の中に1機紛れていたという。

察するに、こちらの軍が転移魔術で撤退する際に巻き込まれた、といったところか。

確かに、彼らが操るそれには幾度となく苦戦を強いられている。

だが、報告によればその数もたったの1機。

たかだか1機増えたところで、一体何が出来ようか。

仮にこちらの新型機とそれが衝突しようとも、こちらが敗れる道理は無いのだ。

レウルクは頭を軽く左右に振り、マグの中の液体をまた少し飲んで卓上に置こうとした。

しかし、その時指が滑り、マグを取り落としてしまう。

宙に放り出されたマグは瞬く間に床に叩きつけられ、その身を中身諸共粉々にぶちまけてしまった。


「……チッ!」


レウルクは怒りに表情を歪めながら舌打ちし、マグの破片を蹴飛ばした。

そして壁際の青いボタンを押し、床に対し八つ当たりするような力強い足取りで部屋を後にしていく。

少し間を置いて壁に取り付けられた小さな扉が開き、小型の機械が這い出してきた。

機械は左右に取り付けられたブラシを回転させ、マグの破片を起用に拾い集めていく。

誰もいなくなった室内には、機械の微細な起動音だけが響いていた。


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