第3話「墜つる蒼衣」(6/6)
爆炎と煙に包まれて姿を消した、センダム・エケイプと“ノーナック・壊天”。
その光景をしばし呆然と見つめていた新だったが、やがてマシンガンを構えながらゆっくりとそれに近寄っていく。
燃え上がる残骸はバラバラに散れており、動き出すような様子は見えない。
「……目標沈黙を確認。周囲に敵影……は、無しか」
レーダーに映る機影は3つ。
トロフェが乗る“イシュ”と、2機の“イフシック”だ。
2機いた敵も、無事に撃破出来たらしい。
それを確認して安堵の息を吐くと、地面に突き刺さったブレードを回収して“イシュ”へと歩み寄る。
『待たせたな、トロフェ』
『あ、ありがとうございます……』
『動けそうか、その機体?』
『ちょっと待って下さい。……うーん……あっ……はぁ……』
やがて通信機越しに、トロフェの落胆した声が聞こえてきた。
どうやら、結果は聞くまでもないらしい。
『ダメっぽいな。それなら引っ張ってってやるよ』
『すみません、ありがとうございます』
『僕も肩を貸そう。1機では堪えるだろう?』
『そーそー。それに、キミが抱えてきたコレも持って帰らなきゃね』
そこへ、2機の“イフシック”が近寄ってきた。
後方の1機は、“零式”が輸送機の撃墜に使用した大砲を引きずっている。
先頭の1機が“イシュ”の右手に回ってその肩を担ぐと、新もそれに倣って左肩を担いだ。
『助かるぜ、えーっと……』
『アタシはノノ! ノノ・グラッチだよ! そんでこっちはエイディ・スイネーグ!』
『よろしく。……それはさておき、君は一体何故こんなところにいるのかな?』
『あっ、そうですよ! 大体その鉄騎どうしたんですか? 騎士団の格納庫で保管してたはずなのに!』
『あー……その辺の話は、まあ後でな? 本人もいた方がいいだろうし……』
『本人?』
エイディとトロフェから立て続けに問い詰められ、新はやや尻込みしながら口を濁す。
それを訝しみつつも、エイディは「まあいいさ」と諦めたように呟いた。
『どちらにせよ、トロフェの治療もしなきゃならないんだ。ここは一刻も早く《神聖帝国》に帰還するべきだろう』
『そだね! この大砲はアタシが持って……って、そういやこれもどうしたの?』
『それも後で話す』
『はいはーい。んじゃ、トロフェをお願いね』
『すみません、ご迷惑を……』
『俺だってお前に助けられたんだ。お互い様だよ』
『では行くよ。ゆっくりと足並を合わせて……各機、微速前進』
エイディの号令で、“イシュ”を抱えた2機は同時にゆっくりと前進を開始した。
その少し後方を、大砲を抱えたノノ機が追随していく。
その時、コクピット内に響き渡る駆動音の中に、はぁ、という小さな声が紛れた。
気のせいかと思った新だったが、念のために通信機の音量を上げてみる。
すると、通信機の向こうからトロフェの落ち込みきった声が聞こえてきた。
『ごめんなさい、お母さん……お母さんの“イシュ”なのに……』
(……お袋さんの……?)
確かにそう聞こえたが、ここでそれに言及するのも野暮というものか。
誰しも、触れられたくない事柄というものは存在するだろう。
新は聞こえなかったふりをし、改めて操縦桿を強く握った。
To be continued...
キャラ・メカ・用語
○キャラ
名前:ウェン・ドーリィクス
性別:女
年齢:19
工士隊に所属する少女。短めの焦茶色の髪を持つ。
誰に対しても物怖じしない、気の強い性格。
機械に対して人一倍強い愛着を抱き、「この子」等と呼んで可愛がっている。
名前:エイディ・スイネーグ
年齢:18
性別:男
騎士団訓練生上がりの青年。肩まで伸びた檸檬色の髪を持つ。
常に冷静で落ち着き払っており、戦闘においては司令塔の役割もこなす。
ボードゲームが趣味だが、同程度の腕前の相手がいないのが不満。
名前:ノノ・グラッチ
年齢:17
性別:女
騎士団訓練生上がりの少女。短く跳ねた柘榴色の髪を持つ。
よく食べよく動きよく騒ぐ、「元気」という言葉を擬人化したかのような存在。
エイディとは幼馴染であり、彼女いわく「ラブラブ」。
○メカ
名前:イシュ・ジャーム
分類:魔導鉄騎
武装:光線魔術、障壁魔術
トロフェが駆る特殊な魔導鉄騎。
通常の魔導鉄騎と異なり、脚と拳が存在しない独特のシルエットを持つ。
独自の回路でトロフェの魔術を増幅し、両腕の先から展開することが可能。
名前:ノーナック・壊天
分類:魔導鉄騎
武装:機関砲×2、大剣×1、結晶砲×1、障壁魔術
《セリトペー》の新型魔導鉄騎。
堅牢な装甲に加えて巨大な岩塊を射出する「結晶砲」を搭載した、重戦車のようないでたちをしている。
センダムの搭乗に合わせて急遽改修が行われた。
○用語
騎士団宿舎
騎士団に所属する騎士達が寝泊まりする施設。
大きな食堂も併設されており、その雰囲気はさながら大学の学生寮のよう。
男子宿舎と女子宿舎に別れており、それぞれ6つの棟が存在する。
工士隊
魔導鉄騎の整備、開発、改造を主任務とする騎士達。
黄朽葉色の外套、作業衣が特徴。
鉄騎の操縦が荒い一部の騎士とは口論が頻発するらしい。
潜士隊
敵地への潜入、情報収集を主任務とする騎士達。
黒橡色の外套が特徴。
任務の性質上滅多に《神聖帝国》へ戻って来られず、ホームシックに罹る者もたまに現れる。