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第3話「墜つる蒼衣」(5/6)


《神聖帝国》を奇襲せんとしていた、《セリトペー》の輸送機。

それを撃墜してみせたのは、紛れもなく“狼羅・零式”であった。

墜落していく輸送機に目もくれず、こちらへ接近してくる“零式”。

その操縦席から、それを駆る“彼”の声が聞こえてきた。


『そこの騎士団、聞こえるか? こちら天道、色々あって応援にかけつけた』

『や、やっぱり新さん!? なんで……』

『お、その声はトロフェか。随分と派手にやられたみたいだが……その様子だと大丈夫そうだな』

『いや、私のことよりも! なんでここにいるんですか!』

『話は後だ。今はそこのデカブツをなんとかする』


新はそう言うと腰からマシンガンを引き抜いて構え、更に加速した。

視線の先に捉えるのは、“イシュ”を撃ち落とした深緑色の鉄騎。

輸送機が墜落して爆発炎上するのと同時に、鉄騎へ向けて引き金を引く。

鉄騎は堅牢な装甲でそれを全て弾き返すと、大剣を振りかざして“零式”へ向けて突撃を仕掛けてきた。

それと同時に、呆気にとられていた2機の敵も武器を構え直してノノ機に立ち向かう。

その攻撃を剣と盾で受け止めつつ、ノノはエイディへ向けて疑問を叫んだ。


『ねえエイディ、何が起こってんの!? なんであの新って人がここにいるのさ!?』

『僕が知るか! ともかく、彼が来たことで状況は好転した! あとは奴らを退けるぞ!』

『ああもうっ、りょーかいっ!』


盾を振り回した渾身の一撃で後方の敵を吹き飛ばしたノノは、その勢いのまま前方の敵をも殴りつける。

ひしゃげた頭部から火花を散らしながらも敵は手斧を構え、敢然とノノ機に立ち向かう。

更に、吹き飛ばされた敵へ向けてエイディがクロスボウによる射撃を敢行する。

放たれた矢は敵の(てのひら)を正確に射抜き、手に持った武器を取り落とさせた。


エイディとノノが剣とクロスボウを構え、それぞれ敵と対峙するその奥で。

新の“零式”と深緑色の鉄騎も刃と刃を激しく打ちつけあっていた。

速度を活かして死角へ回り込もうとするが、鉄騎は巨体に似合わない素早い動きでそれに対応してくる。

数度斬り結んだところで、新は一度距離を取った。

その時、通信機から聞き慣れない声が発せられた。


『ウフフ……お強いのですね、異郷の方』

『……誰だ? そのデカブツに乗ってる奴か?』


ブレードを向けたまま、新は前方の鉄騎を鋭く睨みつける。

鉄騎の巨体からは想像も出来ない、物腰柔らかそうな少女の口調と声だ。

だが、その口調の裏にはどこか薄ら寒いものを感じる。

まるで獲物を見据えて舌舐めずりする蛇、それにまとわりつかれているかのような不快感だ。


『あらあら、わたくしとしたことが。申し訳ございません、自己紹介が先でしたわね』


少女はクスクスと笑い、鉄騎に大仰な仕草でお辞儀をさせながら名乗った。

大剣を地面に突き刺し、右手を胸に当て、左手で腰の装甲板をひょいと摘み上げ、うやうやしく頭を下げる。


『わたくしの名はセンダム・エケイプ。未熟ながら《セリトペー》を束ねる姫を務めさせていただいております。どうぞよろしくお願いいたしますわね』


『なっ……!?』


その言葉に、新は耳を疑った。

姫……姫だと?

《セリトペー》を束ねる、と言っていたからには、姫こそが最高指導者ということなのだろう。

その姫が鉄騎に乗って最前線にいるなんて、あまりにも馬鹿げている。

大統領が自ら戦闘機の操縦桿を握るようなものだ。

困惑する新をよそに、センダムは口に手を当て微笑む。


『それにしても、デカブツとは失敬ですこと。これなるは“ノーナック・壊天”。我ら《セリトペー》が誇る技師達による、最高の魔導鉄騎ですわ』

『……ご丁寧にどうも』

『異郷の方、貴方様のお名前もお聞かせくださる?』

『アホ抜かせ、誰が敵に名前なんか教えるか』

『あら冷たい。わたくし、怖くて泣いてしまいそうですわ……よよよ……』

『チッ……』


口の端からクスクスと笑い声を漏らしながら、センダムはわざとらしく泣き崩れてみせる。

人を揶揄(からか)うような仕草を繰り返すセンダムに対し、新は苛立(いらだ)ちを(あらわ)にした。

それを気に留めることもなく、センダムは地面に突き刺した大剣を引き抜いて構える。


『教えて下さらないのであれば、好きに呼ばせていただきますわ。そうですわね……その素敵な漆黒のお姿から取りまして、黒鉄(くろがね)の君、とお呼びしましょう』

『……勝手にしろ、どの道テメェは俺が狩る』

『あら、わたくしの首を? お断りしておきますが、そう安くはありませんわよ?』

『ほざけっ!』


ブレードを構え直して車輪を回し、大きく弧を描きながら“ノーナック”へと接近していく。

そこへ“ノーナック”は腰に内蔵された2門の機関砲を乱射するが、その弾丸は“零式”に(かす)ることもなく地面を(えぐ)った。

そのまま地面を蹴って懐に飛び込み、ブレードを横一文字に振るう。

微細な振動を高速で繰り返すブレードの刃は、そのまま“ノーナック”の体を両断するはずだった。

しかし、現実はそうはならず、ブレードは“ノーナック”の手甲に少し食い込んだところで止まってしまう。

そこですかさず“ノーナック”の機関砲が火を噴き、飛び退く“零式”の脇腹を擦めた。


「チッ、硬ぇな……どうすっか……」

『新さん、恐らく背中です!』

『トロフェか。背中だと?』


歯噛みする新の元へ、トロフェからの通信が入った。

それを受け、機関砲を避けて走りながら“ノーナック”の姿を改めてよく観察する。

見ると、“ノーナック”は槍のように長く鋭い部品を2本背負っている。


『なんだあれ、槍か?』

『私を岩塊で撃墜した時、背中から煙を上げていました。背中に大型の射出砲を積んでいるんだと思います』

『……なるほど、レールガンみたいなもんだな。で、排熱なんかを考慮するなら、そこの装甲は薄いはずってか』

『まだ憶測の範囲ですけど……もしかしたら』

『いや、充分だ。ありがとな、トロフェ』


新が礼を述べると同時に、“ノーナック”からの砲撃が止んだ。

“ノーナック”の操縦席には残弾不足を報せる警告音が鳴り響き、センダムは思わず歯噛みする。


「っ、迂闊でしたわね……」


その隙を見逃さず、新は加速した。

ブレードを構え、“ノーナック”へ向け一直線に。

その姿に、センダムは少しばかり目を見開いて驚いた。

これまでに交えた刃で、単純な馬力なら“ノーナック”の方が上だと分かっている。

それは向こうも同じだと思っていたが、どういうわけか真っ向勝負を仕掛けてきたのだ。


自棄(ヤケ)になられたか、或いは一か八かの操縦席(わたくし)一点狙いか……どちらにせよ、正面からいらっしゃるのならば受けて立つまで)


(いぶか)しみながらも、真っ直ぐに“零式”を見据える。

大剣を構えて振りかざし、相手が間合いに入ってくるのをじっと待つ。

口の端から、細長い舌をちらりと覗かせながら。

土煙を上げ疾走する“零式”が大剣の間合いに入る、その瞬間。


「はぁっ!」


“零式”の黒い機体を袈裟懸けに斬り裂くように、力強く大剣を振り下ろした。

しかし、その太刀筋は“零式”を捉えることなく、大地を深く抉る結果に終わった。

センダムがそれに気付いた直後、大剣を黒い脚が踏みつける。


「しまっ……!」


“零式”だ。

“ノーナック”が大剣を振り下ろす瞬間、“零式”は素早く一歩下がり、大剣による一撃を回避していた。

そして大剣の背と、大地に突き刺したブレードを踏み台にし、“零式”が大きく飛び上がる。

その目に映るは、大砲に似た形状の複雑な機械が剥き出しになった、無防備な背中。

槍の片方を左手で掴んで姿勢を固定すると、右手でマシンガンを構えて真下に向け引き金を引いた。


「食らえや、姫ェッ!!」


「きゃああああああっ!」


先程までとは打って変わって、弾丸は大砲の表面に容易く風穴を開けていく。

弾痕から小さな火が絶えず噴き出し、やがて大きな爆発を生み出した。

炎に包まれた大砲を蹴り飛ばし、“ノーナック”から離れる“零式”。

炎を背負いながらも、センダムは“零式”に向き直って微笑む。


『……お見事ですわ、黒鉄の君。この度は、貴方様の勝ちですわね』

『うるせぇ。くっちゃべってねえでさっさと爆ぜろ』

『っふ……フフフ……これはなんと手厳しい。では、お望み通りにいたしましょう』


センダムが右手のレバーを引くと、彼女の周囲が眩い輝きに包まれた。

レバーから手を放し、座席に身を投げ出し、薄らと口を開く。


『それではごきげんよう、黒鉄の君』


直後、“ノーナック”の背中を焼く炎が大きな爆音と共に全身へと広がる。

そのまま深緑色の巨体はゆっくりと倒れ込み、大爆発の中へと消えていった。


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