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第3話「墜つる蒼衣」(3/6)


「着いたわ。ようこそ、私の職場へ」

「へえ、これが……」


それからしばらくして、やや小ぢんまりとした建物の地下深く。

新とウェンは、騎士団の格納庫に辿り着いていた。

そこには大量の魔導鉄騎が立ち並び、黄朽葉色の作業服に身を包んだ騎士達がそれに群がっている。

よく見ればここにある鉄騎は損傷しているものばかりであり、騎士達はその修理作業を行なっているようだ。


剥がされた装甲板をクレーンのような機械で吊り上げ、そこへメスのように工具を差し込んでいく。

その奥の鉄騎は顔面の装甲を取り外され、その奥に輝く水晶体を丹念に磨き上げられている。

更にその奥から、鉄騎の武器らしい巨大な剣を積んだ車両が走ってきた。


「……ちょっと、よそ見してないで。こっちよ、早くして」


ふと、遠くから声をかけられる。

声の方を向くと、ウェンはこちらへ向けて靴音を鳴らしながら歩いてくるところだった。

どうやら、新が立ち止まったことに気付かずそのまま進んでしまっていたらしい。


「あ、ああ悪い。ついな」

「全く……。格納庫の中は広いから、あれを使うわよ」


そう言ってウェンが指差した先には、バイクのような形状の乗り物が多数停められている。

彼女はそれに駆け寄って跨ると、新に乗車を促すように後部座席をぱんぱんと叩いた。

促されるまま跨り、ハンドルのように突き出た部品を握る。

それを後ろ目に見届けたウェンがハンドルを回すと、乗り物はゆっくりと走り始めた。

屋内ということもあってか、乗り物は小走りよりもやや速い程度の速度で走り続けていく。

しばらく走らせていると、遠目に“零式”の姿が見えてきた。

乗り物を置き場に停めて近寄ると、ウェンがその隣を指差す。


「あそこに昇降機があるから、それで操縦席まで行けるわよ」

「おう、助かる」

「気をつけてね。……って、あら?」


そこへ、1人の騎士が駆け寄ってきた。

煤で汚れた作業着に身を包んだ彼は息を整えるのもそこそこに、ウェンの肩を掴んで揺さぶる。

あまりの迫力に、新も思わず足を止めてその会話に聞き入ってしまう。


「ウェン、来てたのか! 急いでこっちに来てくれ!」

「ちょっ……いきなりどうしたのよ」

「ついさっき上に潜士隊から報告があったんだ! 《セリトペー》の小型輸送機が1隻、戦場を避けて直接《神聖帝国》に向かって飛んで来てるって!」

「えっ……!?」

「戦闘地域に入る直前でいきなり方向転換したらしい! ここまで到着される前に迎撃しないと……」

「だから損傷中の鉄騎を応急処置して出撃させる為に、急いで来いってわけね……」


騎士の手を払いのけ、ウェンは不満げな表情を見せた。

その眼光に、騎士は思わず息を飲んで後ずさる。


「悪いけど、私はそれには賛同できないわ。万全の整備を施していない鉄騎に騎士を乗せるなんて、死んで来いって言ってるようなものじゃない」

「でも! じゃあどうやって……」

「あのー……横から悪いんだけどさ」


たまらず、新が2人の間に割って入った。

呆気に取られた様子の2人を交互に見ながら、新は続けて口を開く。


「俺で良かったら出るけど。その迎撃」


「……はぁっ!?」

「……いや、悪い手じゃないわね、それ。あんたの“零式”は拾った日にしっかり整備してあるし」

「いや冗談だろウェン! 団長代行だって言ってたじゃないか、彼を巻き込むなって!」

「でも、ここを守る為には一番可能性があると思うわ。彼、腕も立ちそうだし」

「経験は約2年、撃墜スコアは……しっかり数えちゃいねえが、少なくとも両手足の指じゃ足りねえ程度には」

「ほら、申し分ない」

「いやだからって! ……そもそも天道さん、アンタなんでいきなりそんなこと言い出したんだよ!」


困りきった騎士が頭を抱えながら新に尋ねると、ウェンも鋭い視線を新に向けてくる。

新は涼しい顔をしたまま、短く答えた。


「帰る為だよ」

「帰る……為?」

「ああ。俺が元の世界に帰る為には、まず何よりもお前らにこの戦争で勝ってもらわねえと」

「へえ、あくまで自分の為にってわけね」

「もちろん、拾ってくれた恩もあるけどな」

「……決まりね。“零式”を出しましょう」

「……い、言っとくけどさ! 無茶だけはやめてくれよ! 騎士団が追いつくまでの間、輸送機の足さえ止めといてくれれば……」

「ああ、善処する。それじゃあな」


慌てふためく騎士の言葉に、新は右手を挙げて返答する。

そして昇降機へ向けて駆け出そうとしたところで、後ろから襟を掴まれて足止めを食らった。

軽く()き込みながら振り向くと、やや呆れたような表情のウェンと目が合った。


「あのね、今のままじゃ騎士団と合流出来ても意思疎通出来ないでしょうが。それとも、その子越しにボディランゲージでもする?」

「……あー、確かに……」


言われてみればその通りだ。

新が統合軍に所属してから……いや、この戦争が始まってからこれまでの間、敵との通信に成功したという話は聞いたことが無い。

当たり前と言えば当たり前なのだが、やはり技術の違いによる問題だったのだろう。


「3分ちょうだい、通信周りだけちゃちゃっと調整してくるわ」

「お、おう」

「それからあんたはアレ運んできて、試作のヤツ」

「えっ……いや、アレって鉄騎用だろ? 使えないんじゃ……」

「私の見立てだとこの子でも使えるわ。それじゃ、頼んだわよ」


ウェンはそう言うと外套を脱いで腰に巻きつけ、昇降機に足を引っ掛けてそのまま上がっていってしまった。

後に残された騎士は少しの間呆然としていたが、やがて吹っ切ったように頷いてみせた。


「……ま、ウェンが使えるって言うなら心配ないか。アンタはここで待っててくれ」


騎士も駆け足でその場を後にし、新は1人その場に残された。

手持ち無沙汰な様子で手近な段差に腰掛け、“零式”を見上げる。

こちらに来る前の戦闘で相応に汚れ、多少なりの傷もついていたはずだが、遠目にはそのどちらも確認できない。

よほど腕の良い人物が整備したのだろう。

その人物には是非とも直接礼を言いたい、新はそう考えながら口元を微かに緩めた。


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