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第3話「墜つる蒼衣」(2/6)


時を遡ること、約1時間前。

格納庫では、騎士団の面々が慌ただしく動いて出撃準備を進めていた。

無数に立ち並ぶ甲冑姿の魔導鉄騎“イフシック”が、次々と射出機に足を乗せて外へと飛び出していく。

事の発端となったのは、潜士隊(せんしたい)

騎士団の中でも潜入や諜報を任務とする彼らから、昨日届いた報告であった。


「《セリトペー》及び《ニンバー》国境近辺の軍事施設に物資、人員の大きな動きあり。侵攻に備えられたし」


この報告を受け、騎士団長代行グデルはすぐさま行動を開始した。

時間を置いて届いた追加報告から予想される戦力は《セリトペー》軍が25、《ニンバー》軍が15。

しかして騎士団が現在動かせる戦力は、せいぜい4隊、機体数にして40。

数日前の大規模な戦闘で多数の負傷者が出た為、これ以上は出撃させられない。

残るは、実戦に出すには少々心許ない訓練生ばかりだ。

……ある3人を除いては。


「団長代行! エイディ・スイネーグ、ノノ・グラッチ並びにトロフェ・レウェージュ、ただ今参りました!」

「参りましたぁ!」

「もっ、申し訳ありません! トロフェ・レウェージュ、ただ今!」


グデルの元へ2人の騎士が駆け寄り、目前で敬礼した。

片方は、檸檬(れもん)色の綺麗な髪を肩へ流す青年……エイディ・スイネーグ。

そしてもう片方は、柘榴(ざくろ)色の短い癖っ毛を持つ少女……ノノ・グラッチ。

その後ろから、少し遅れてトロフェが追いついて同じく敬礼した。

3人は胸当てや手甲、脛当てといった軽装を身に纏い、その上から翠色の外套を羽織っている。


「待っていましたよ。レウェージュは少し遅かったようですが……何かありましたか?」

「はい。“イシュ”の様子を見たいと言っていたので、僕の独断で許可しました」

「ああ、それは気になるでしょうね。どうでした?」

「はい。工士隊の皆様が尽力して下さり、万全の状態となっていました」

「それは良かった。……さて」

「!」


不意に、グデルの表情が引き締まる。

それを見た3人も改めて姿勢を正し、グデルの方をじっと見つめた。


「エイディ・スイネーグ、ノノ・グラッチ、トロフェ・レウェージュ。昨日も伝えました通り、君達3人を『特殊遊撃部隊』の隊員に任命します」

「ありがとうございます」

「任命式もせずに任務へ送り出す無礼を許して下さい。今は時間が惜しいのです」

「いえ、全然ダイジョーブですっ!」


ノノが元気いっぱいといった様子で返事をすると、グデルは眼鏡を指で押し上げながら苦笑した。


「そう言ってくれるとありがたいですよ。それでは、改めて任務内容を伝えます。《セリトペー》方面に向け出撃し、前線2隊の後方にて待機。

前線を突破してくる敵機のみに狙いを絞り、これを撃破してください。……何か質問は?」

「いえ、ありません!」

「右に同じく」

「以下同文ですっ!」


グデルの問いかけに、3人が相次いで答える。

真っ直ぐに向けられたその松葉色の、天色の、深紅の瞳。

そこには、戸惑いも不安も無かった。


「では、出撃してください。……可能な限り危険の少ない任務にはしましたが、くれぐれも気をつけて」

「お心遣いに感謝します、団長代行」

「特殊遊撃部隊、出撃します!」


エイディを先頭に、3人はそれぞれの愛機へ向けて駆け出していく。

その背中を見送りながら、グデルは改めて表情を険しく引き締めた。

決して、彼らの実力を不安視しているわけではない。

彼が憤っているのは、虎の子である特殊遊撃部隊を不完全な状態で出撃させざるを得ない、己の不甲斐なさにだ。

可能な限り早く、彼らと肩を並べうる者をせめてあと1人、選抜せねばならない。

思考を巡らせながら歩くグデルはやがて1機の鉄騎……いや、WVの目の前で立ち止まった。


“狼羅・零式”……新が駆り、こちら側へやって来た機体だ。

精悍で力強いその立ち姿は、決して“イフシック”にも引けを取らない。

整備を請け負った工士隊の話では、非常に高い機体性能が予想されるという。

何より、新は向こう側で相当に戦い慣れているらしい。

……もしも、彼が我々に力を貸してくれるのなら……。

そこまで考えたところで、グデルは頭を軽く横に振った。

私はなんとおぞましい事を考えているんだ、彼は被害者なのだぞ。

我々は彼を保護せねばならない、その力を頼るなど(もっ)ての(ほか)だ。

元がこちら側の問題である以上、この件はこちら側の者だけで対処するしかない。

考えを改め、グデルは足早にその場を後にした。

まるで、“零式”の視線を避けるかのように。


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