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第2話「迫る翠刃」(4/4)


枝葉の豊かな木々の合間に点在する、防壁に囲まれた都市群。

木造の建築物や長い着物に身を包んだ人々、荷車を引く家畜の姿が多く見られる。

《セリトペー》の日常的な光景の中に、場違いな光景が1つ。

金属光沢を纏った真っ黒な車両が1台、のどかな町並を突っ切って走っていく。

道行く人は皆その姿に振り返り、少し間を置いて頭を下げる。

誰もが、“それ”に乗っている人物が何者かを知っているためだ。

その人物は後部座席に腰を埋め、目まぐるしく流れていく景色を眺めながら軽く溜息を吐いた。


「はぁ……相変わらず、無粋極まる乗り物ですわね。いつもの車でしたら景色を楽しんだり、民に手を振ったり出来ますのに……」

「姫、どうかご辛抱を。これは行楽の為にあるのではないのです」

「心得ておりますとも。何より、出陣を志願したのは他ならぬわたくし自身ですから」


簡素ながらも優美な着物に身を包んだ、姫と呼ばれた少女。

彼女は青柳色の頬に並ぶ鱗を指で撫でながら正面に目を向け、その細長い瞳で運転手の男性を見つめた。

鏡越しにその視線を感じたのか、運転手は気まずそうに口を開く。


「あの……何か?」

「……運転がお上手ですのね、あまり揺れを感じませんわ。貴方、お名前は?」

「は、はっ! ラヴィ・アルドと申します!」

「ふふっ、覚えておきますわ」

「きょ、恐縮です! センダム姫に名を覚えていただけるなど!」

「では、砦まで引き続き安全運転でお願いしますわね」

「はっ、お任せください!」


あいも変わらず走り続ける車内で、少女は微笑みを絶やさない。

その視線は手元の端末に表示された、屈強な体格を持つ魔導鉄騎の映像へと注がれている。


彼女の名は、センダム・エケイプ。

この《セリトペー》を統べる最高指導者……すなわち姫だ。

数年前病床に伏した王である父に代わり、類稀なる手腕で国を導いている。


センダムを乗せた車は門をくぐって防壁の外に出、なおも進んでいく。

やがて辿り着いたのは、先程よりも物々しい防壁に囲まれた建物……先程センダムが口にしていた、《セリトペー》の砦だ。

門をくぐると、防壁の内側には大量の輸送機が立ち並び、飛び立つ時を今か今かと待ちわびている。

輸送機の前を横切り、車は砦の目前で停車した。

運転手が後部座席の扉を開き、センダムがゆっくりと地に足を下ろす。

2、3歩ほど歩いたところで、砦の方から数人の男性が駆け寄ってきた。

彼らはセンダムに向けて深々と頭を下げ、内の1人が日傘を差して彼女へ差し出した。


「申し訳ありません、センダム姫。お迎えの準備もままならず……」

「お気になさらず。わたくしが少し早く車を出させただけですもの」

「は、はあ……」

「さ、格納庫へ案内してくださる? 新たな防人の鎧へ祝福を授けませんと……」

「はっ、こちらです」


男達の先導で、センダムは砦の中へと足を踏み入れていく。

まだ幼さの残る顔に、柔和な微笑みと冷酷な笑みの入り混じった、不気味な笑顔を浮かべながら。


To be continued...


キャラ・メカ・用語


○キャラ


名前:グデル・ウォンク

性別:男

年齢:37

《神聖帝国ユースティル・クォッド》騎士団の団長代行。

温厚かつ真面目な性格であり、たとえ部下相手でも強く怒鳴ったりすることが出来ない。


名前:レウルク・セスラッグ

性別:女

年齢:28

《ラミーナ》首相の、猫に似た種族の女性。

《連合国家アレミック》の実質的な代表も務める。

冷静かつ冷酷であり、国内外に様々な策を張り巡らせている。


名前:ノイザップ・ムラ

性別:男

年齢:34

レウルクの側近である、雄牛に似た種族の男性。

側近と言っても、その役割は手駒かボディーガードと言ったほうが近い。

レウルクに心酔しており、彼女の命令を絶対として行動している。


名前:センダム・エケイプ

性別:女性

年齢:19

《セリトペー》王の一人娘にして姫の、蛇に似た種族の少女。

病に倒れた父に代わり、その見事な手腕で国をまとめ上げている。

他人を食うような口調で話し、口元を手で覆いクスクス笑う癖がある。


○メカ


名前:イフシック

分類:魔導鉄騎

武装:片手剣×1、クロスボウ×4、盾×1

《神聖帝国》の主力魔導鉄騎。

量産型ながら高いスペックを誇り、1対1ならば“ティッドナーヴ”くらいは相手にならない。

各部隊の隊長は、これに独自の改造を施したカスタム機を運用している。


名前:ティッドナーヴ339

分類:魔導鉄騎

武装:頭部ビーム砲×1、手斧×1(標準装備の場合)

《ラミーナ》が製造した連合国家の主力魔導鉄騎で、統合軍では“三角耳”と呼ばれていた。

生産コストの安さと操縦の簡易性、そして高い拡張性が特徴。

ジャミング装置や大砲など、任務に応じて様々なオプションを装備可能。


○用語


エグナーツ

6の大国からなり、魔術が一般に普及した異世界。

元々は名前などつけていなかったが、こことは異なる別の世界を観測した際に便宜上名付けられた。


ウィノロック

いわゆるところの「現実世界」。

エグナーツの科学者がこの世界を観測した際に便宜上つけられた名前。


連合国家アレミック

6の大国からなる連合国家にして、IOXの正体。

連合と名乗ってはいるものの、各国の足並みが揃っているとは言い難い状態。

現在は、独立を宣言した《神聖帝国》との戦争状態にある。


神聖帝国ユースティル・クォッド

かつて《ラミーナ》の一部だった《工業特区ユースティル》が、圧政に耐えかね独立を宣言したもの。

東西と南を高い山、北を海に囲まれた天然の要塞とでもいうべき姿を持っている。

近代ヨーロッパ風の中に機械が混ざった、独特の街並み。


騎士団

《神聖帝国》の防衛組織の名称。

任務に応じて工士隊や潜士隊、療士隊や住士隊などの隊に別けられる。

鉄騎に搭乗して戦闘を行う騎士はそのまま騎士団か、他との区別の為に騎士隊と呼ばれることもある。


ラミーナ

哺乳類に似た種族の人々が住む国。

《エグナーツ》でも最大の人口と面積を誇る、連合国家の中核となる国である。

非常に科学技術が発達しており、現代日本にとても近い街並みを持つ。


セリトペー

爬虫類に似た種族の人々が住む国。

伝統と神事を重んじる国で、魔導鉄騎1機の建造にも大仰な儀式を行う。

森林の奥に構えられた、どこか東洋風の街並みが特徴。


魔導鉄騎

連合国家、および《神聖帝国》の主力兵器である人型機械。

20メートル程度の巨体を持ち、魔力を動力として動く。

特別な改造を施せば、搭乗者の魔術を増幅して使用することも可能。

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