初めましての巫女さん
新作投稿します。
この話はフィクションです。 決して私小説ではありません。
目が覚めて朝の6時。 おはようございます。
そして初めまして白石マリアと申します。
私はここ若白石八幡宮の宮司の孫です。
神社の名前はし”ろ”いしで苗字はし”ら”いしなのでお間違いないようお願いします。
さて宮司と言われても神主とは違うの? と思われる方もおられると思います。
なので最初はそういった所を説明してみようと思います。
宮司とは、簡単に言うと神社で一番偉い人の事です。
どんな小さい神社であってもかならず一人は存在する代表者の事です。
ここで勘違いしないでもらいたいのは、神社に一人の宮司であって一人の宮司に一つの神社ではないという事です。
日本では神社を包括している所を神社本庁と言いまして、日本全国で約八万社の神社に対して神職は約二万人そのうち宮司が一万弱という神社の数より少ない訳ですが、これは複数の神社を一人の宮司が兼務しているという事なのです。
兼務している神社は普段お仕えしている神社を本務神社、他にお仕えしている神社などは兼務神社と言います。
神職の方の仕事は神社の神様と御参拝にこられた方の間をつなぐ事です。
宮司はその中で神職や巫女の長を務め神社を取り仕切る事や、その他の神職と同じように神社を清潔に保つこと、祈願すること、祈願書の文字入れなども行っているのです。
七五三やお宮参りなど人々が神様にお祈りを捧げる際に祝詞や儀式を先頭に立って祭祀を滞りなく行うのも宮司の仕事ですね。
一般的にいう神主という認識で間違いではないです。
しかし昔であれば神職は神主と呼ばれ、また宮司と神主も同じものだとされて来ましたが、1946年に神職制度というものが出来まして、神職の中でも4つの職位がつくられ、宮司、権宮司、禰宜、権禰宜と分けられました。
ちなみに権は副とか仮という意味なので副宮司、副禰宜という事ですね。
最後に出仕という神職見習いというのもありますが、これは神職に数えません。
いうなれば新入社員といった所でしょうか。
現在は神主という職位はなくなって、宮司が代表者で神主は神職を行う方の総称ということになったのです。
権宮司などについてはまた今度。
朝目が覚めるとまずは寝間着から室内着に着替えます。
えーと、予定表では今日は朝食の当番なので台所へ向かいましょう。
途中で境内の掃除に向かう住み込みの神職や巫女さん達に朝の挨拶をしつつ、同じ朝食班の人達と合流し台所に到着です。
そうそう、うちの神社は住み込みが10人前後通いが6人ほどの所です。 まあ警備の人や事務方達を合わせるともっと増えますけど。 つまりお昼担当が一番大変となりますね。
なので台所も大きく、まるで食堂のようと言われます。
さて、壁に貼ってあるメニュー表では…… 今日は焼き鮭ですか。 手早く鮭の切り身を冷蔵庫から出してちゃっちゃと焼いていきましょう。
お味噌汁は別の人が用意しているから残りは何にしましょうか。
ん…… 目玉焼きですか? いいんじゃないですかね。
と他の方によって目玉焼きが作られていきます。
10数人分を作るのですから台所はまさに戦場と化しています。
ちなみに食材は1カ月のメニューに従って業者さんが運んできてくれます。 なのでメニュー外でなにか作りたいときは自分たちで買ってくるという風になっています。
出来る端から出仕の斉藤さん達がテーブルに運んでいきます。
目玉焼きを焼いていたマリ姉さんも終わったようで片付けをしています。 私のほうもそろそろ終わりますね。
焼き上がった鮭をお皿に移し、それを斉藤さん達が持っていくのを眺めつつ魚焼きグリルをお手入れを軽くします。
洗い物は別チームの仕事なのでそこそこで終わります。
全員が終わったのを確認したマリ姉さんが移動を促し食堂に移動します。
全員がテーブルについたのを見たお爺ちゃん…… 宮司が「静座、一拝一拍手」と言うと、全員で一拝一拍手を行ないます。
次に「たなつもの」とフシを付けた言い方で言うと、全員で「たなつもの 百の木草も天照 日の大神の めぐみえてこそ」という和歌を詠います。
詠い終わると全員が一斉に「頂きます」と言い、食事を頂きます。
これは神社本庁が定めた食前感謝のお祈りです。
食後もありますが、まずはいただきましょう。
うむうむ、ごはんは上手く炊けているようでしっかりとお米が立っていますね。 昨日の仕込みだからユカリさんかな? さすがお米マイスターです!
お味噌汁は小さめに切ったお豆腐とワカメのみのシンプルな物ですね。 うんこれも美味しい。
さて焼き鮭ですが、皆の反応を見ても悪くはなさそうですね。 ……うん問題なしです。 ちょっとお醤油垂らそうかな?
目玉焼きはサニーサイドアップで箸を入れると半熟の黄身がトロリととろけます。 目玉焼きの側に千切りキャベツが添えてあり、それを和風ドレッシングでいただきます。
ふと周りを見ると一部の男性は食べ終えて食後のお茶を飲んでますね。
急かされた訳ではありませんがちょっと急ぎましょうか。
ようやく食べ終えてお茶をいただき、飲み終えたのを見た宮司が食後感謝のお祈りを始めます。
「端座、一拝一拍手」と言ってから、全員で一拝一拍手をします。
そしてフシを付けて「朝よいに」と言い、それを合図に全員で「朝よひに 物くふごとに 豊受の 神のめぐみを 思へ世の人」という和歌を詠います。
詠い終わると全員が一斉に「御馳走様でした」と言い、この作法を終えてから席を立ち、食器を片付けます。 (注:これはすべての神社が毎回行っている訳ではありません。 ですが、神社庁や神社関係団体が主催する神職を対象とした各種研修会に於いて、食事を頂く際と頂いた際には必ず全員がこの作法に従って和歌を唱和し、食前感謝と食後感謝のお祈りをしています)
後片づけは朝食を作ったのとは別班がやるので私は部屋に戻って学校へ行く支度をします。
言い忘れていましたが私は今年で16歳、高校一年です。
家の手伝いとして巫女をやってはいますが、基本は学生です。
後勘違いされる事が多いですが、巫女は神職ではありません。 お手伝いというかサポート役ですね。 なので巫女になるのに免許はいりません。 逆に神職になるのは資格が要りますが。
という訳で着替えましょうかね。
続く