表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

サンタ VS 強制収容所 雪原の大決戦

作者: 片隅千尋

 僕は真っ赤なお鼻のトナカイ!

 今年もクリスマスイブがやってきた!

 サンタさんといっしょに、世界中の子どもたちにプレゼントを配るぞー!

「もう、サンタさんが寝坊するからちょっと出遅れちゃったじゃないですかー! さあさあサンタさん、まずはどこ行きますか? 東のほう? 西のほう? それとも南のほうまで足を伸ばしますか?」

「いや、あそこだ、降りろ」

「えっ、もう?」

 僕らが出発して少ししか経っていないのに、サンタさんから降下を命じられた。

 眼下に広がるのは雪をかぶった針葉樹林の森ばかりだ。

 こんなところに街があっただろうか。

 そう思いながら降下しつつ峠を越えると、建物群が見えてきた。窓の少ない煉瓦造りの細長い建物が規則正しくずらりと並んでいる。

 ――あれは厩舎だろうか。畑もあるし、ここは農場なのかな?

「よし、あの門の前に降りろ」

「はーい」

 門の前には人が2人立っている。こんな夜遅くに門番だなんて、何をしているんだろう?

「って、あの二人、銃を持ってますよ!」

「そりゃそうだ。ここは強制収容所だからな」

「しゅ、収容所?」

 戸惑いながら着陸した僕を置いて、サンタさんは門番に近寄る。しばらく話して、戻ってきた。

「くそ、入れてやらねーだとよ、サンタクロースなめてんのか」

「ど、どういうことですか、というかなぜここに」

「いいから飛べ、トナカイ」

「は、はい」

 サンタさんがソリに乗り込んだのを確認し、僕は再び飛び立った。

「説明してくださいよ、サンタさん」

「だから、あそこは強制収容所だよ。この国で『害虫』として迫害されている少数民族を閉じ込めている施設だ」

「…………」

 そんな施設があるというのはショックだが……。

 なぜサンタさんはよりによってそんな収容所のプレゼントを届けようというのだろうか。

 ……いやいや、僕は何を考えているんだ。

 むしろサンタクロースとして当然の行いじゃないか。

 民族ごと収容しているということは、子どもたちもいるだろう。苦境、という言葉も生ぬるいのかもしれないが、苦しい環境に置かれている子どもたちに夢と希望を届ける、それこそがサンタの使命と言っても過言ではない。

「トナカイ、あの建物の屋根に直接降りろ。あんな門番なんか無視してやる」

「わかりました!」

 門番の死角方向から再度降下を始めた僕に、サンタさんが声をかける。

「どうした、急に元気出しやがって」

「だって、うれしいんです! 強制収容所の子どもたちにプレゼントを届けようとしているサンタさんの気持ちが伝わってきて!」

「お、トナカイも同じ考えか!」

「ええ! 苦しんでいる子どもたちのため――」


「やっぱ近場で済ませねえと面倒くせえもんな」


「……………………ん? 今、なんと?」

 きっと聞き間違いだろう。

 サンタさんがまさかそんな……。

「だからー、早く終わらせて帰りたいだろ?」

「んん?」

「近場でパパッと配って帰るつもりだったのによー、寝坊しちまったせいで出遅れたら、近所の街にはもうプレゼント配られちゃっててよ~」

 サンタさんはやれやれといった調子で続ける。

「ま、近くで残ってたのがココだけだったから、しかたねーよな」

「そんな理由!?」

 僕は叫びつつ、厩舎のような建物――正確には『害虫』少数民族の収容施設――の屋根に降り立った。

「ったく、サクッと配って終わらせてくるわ」

 そう言い残してサンタさんは屋根に空いた明かり採りの窓を蹴破り、プレゼントの袋を背負って内部に侵入していった。

 こんな人がサンタでいいんだろうか……?

 星あかりの下、屋根の上で待つことしばし。

 建物内がにわかに騒がしくなり、暗かった窓が一斉に光を放った。サイレンも鳴り始めた。

 あ、周囲から銃を持った兵士たちも集まってきた。

 この騒ぎの原因がサンタさんでないとよいのだけれど……。

 と思っているうちに、夜目にも明らかな赤服おじさんが建物から飛び出した。

 ……まあ騒ぎのタイミングからして、原因がサンタでないわけがなかった。

 兵士たちに追いかけ回されているサンタさんがこっちを指さして叫ぶ。

「こらぁトナカイ! さっさと助けに来んかい!」

 やめて巻き込まないで。

 兵士たちもこちらを向き、僕に気が付いて発砲し始める。

「うう、しょうがない」

 僕は飛び立ち、射線をかいくぐりつつ、全力疾走するサンタさんに近づき、サンタさんが飛び乗ったのを確認してから、急上昇した。

 速度を上げてその場を離れる。

 ここまで来れば大丈夫だろう。

「ふいー、あせったあせった」

「もう、気をつけてくださいよ!」

「プレゼント配り始めたらガキどもが騒ぎ出してよ、見張りにすぐ見つかっちまって、あの騒ぎよ。だからガキは嫌いなんだよな」

「ガキ嫌いならなんでサンタさんやってんですが!?」

「時間がなかったから、プレゼントの袋ぶちまけて来てやった。持ってけドロボー! ってなもんよ」

 僕はあきれた。

「さあ、ちっとあせったが目論見通りサクッと任務完了だ。早く帰るぞ」

「もう、なんでそんなに早く帰りたいんですか?」

 するとサンタさんはポケットに手をつっこみ、何かを取り出した。

「これだよ、これ。新発売のゲーム。絶対プレゼントの中にあると思ってたけど、ビンゴだったぜ。あー帰ってプレイするのが楽しみだ」

「盗ったんかい! ドロボーはあなたですよ!」

 その後、強制収容所からの通報を受けてスクランブル発進した戦闘機とドッグファイトを演じることになったのだが、このときの僕らには知るよしもなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ