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3

 ――嘘だ。


『――? すみませんが、そのような知り合いはいないですね』


 ――嘘だ。


『――人違いです』


 ――嘘だ!


 俺の存在がなかったなんて認められるはずがない。

 それを認めてしまったら今までの人生一体何なんだって話になる。


 故に、


 誰か一人くらいは俺の事を覚えているはず。


 なんて、根拠のない願いを掲げながらひたすらに知り合いに電話を掛け続けた。


 しかし、現実は非情で残酷で。


『――うちには息子はいない。もう二度とかけてこないでくれ』


 結局、誰一人俺の事を覚えている人はいなかった。













「……あー、ついに尽きたか……」


 現実から逃げるように、引きこもり生活を始めて2日。

 朝起きた俺は冷蔵庫をチェックして、頭を掻いた。


 冷蔵庫の中身は尽きていた。すっからかんというやつだ。


 元々買いだめをしておく習慣はなかったためこうなることは分かっていたが、


「……はぁ……」


 溜め息を吐いた。

 

 ヴェーチェルの体と言えど空腹を感じることは、2日間の経験を通して分かっている。


 風呂に入らなくても清潔な身嗜みを保てたり、トイレに行かなくても大丈夫だったりする機能が付いているにも拘らず、なんでそこだけがリアルよりなのかよく分からないが。


 それはさておき。


 今は目の前の食材問題について考えなければ。

 ネットショッピングという方法もあるが、それは問題を先送りにするだけ。


 金銭に関しては一人暮らしの際に、三年間で使うであろう生活費を渡されたため問題ないが、それでも生きていくには外に出なくてはいけない。


 人は一人では生きていけないのだから。


 原作通りの災禍姫であれば、また別であったかもしれないが、少なくても精神が俺な以上は外に出る必要がある。

 故に、ここでベストである行動は……


 そう考えて再度深く溜め息を吐いた。


「……外に出ると決めたらこの服は邪魔だな……目立ちすぎる……」


 ただでさえ目立つ容姿をしているのに、目立つ服を着ていたら注目を集めるに決まっている。

 そう考えた俺は、ゆっくり立ち上がり、服を脱ぐ。


 ヴェーチェルになったあの日以来、着替えどころか風呂にも入らず過ごしてきたが、やはり何か特別な力が働いているのか脱いだ服に一切の汚れやヨレは存在しなかった。

 また心も少なからず変化したらしく、着替える際に自分の下着が見えたが、興奮を感じなかった。

 ただ、あぁ、下着だな、と思っただけ。


 自分が変わっていっている気がして寒気がした。


 にしても……この服、割りと便利だし……部屋着にでもするか……


 服を脱いだ俺は、それを丁寧に畳み、ベッドの縁に置くとクローゼットを開ける。


 クローゼットの中身は俺に女装趣味はなかった故に、全て男物のため、今の俺には違和感のあるようなものしかなかったが、その中でもマシだと思える黒のフード付きジャージ上下を取り出し、それに着替えた。


「まぁ……服変えたぐらいじゃこんなもんか」


 姿見に映る自分の姿は、確かに先程より目立つ姿ではなかったものの、見る人が見れば"ジャージを着用したヴェーチェル"と判断できるレベルで、改めてその圧倒的な容貌に戦慄する。


「……ふぅ……財布は持ったし、そろそろ行くか……」


 特徴的な緑の髪があまり外に出ないよう、フードを深く被ると、スニーカーを履いて玄関の扉をゆっくりと開けた。




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