24
「はぁ!? なんだこれ!?」
「どうした? は、なんだこりゃ!?」
真っ先に異変に気づいたのは海の近くに住む者たちだった。
夜遅く。仕事帰りやら何やらで偶然出歩いていた彼らは足を止め、呆然と目の前の光景に口を開けていた。
それは遠く離れた海の上で起きていた。
風は感じることはできても、見ることはできない。
そんな常識を覆す。
目で見える轟々と荒れ狂う暴風。
球体のように渦巻く風は、海に大きな穴を開け。頭上の雲を蹴散らし。
どこかへ進むわけでもなく、ただその場に留まり続けていた。
恐ろしいことに今もまさに勢力を広げているのか。球体の範囲は次第に広がっていく。
まさに異常気象。
「海神様じゃ……!」
緊迫した空気の中、誰かが呟いた。
「神が、お怒りになっておる…」
「…すぐに皆を叩き起こせ! 避難する!」
この場に留まっていても仕方ない。と住民たちは背を向けてそれぞれの家へと走り出した。
◇
深夜とはいえ、突如沸いた大スクープにマスコミが飛びつかない筈がなかった。
近隣の住民から情報を得たマスコミは、すぐきキャスターを送りつけた。
「ご覧ください! 波が大荒れを起こしています、周囲の住民は即座に高台に避難してください」
ーーこれはヤバイでしょ。絶対ヤバイって。何でよりによって私なの!?
内心穏やかじゃないながらも、風が荒れ狂う中、キャスターは必死に報じる。
逃げ遅れた住民に異常を知らせるために。
一人でも多くの命を救うために。
一方その頃。ネットの住人たちも突然の異常気象に沸いていた。
『発生したのって竜巻じゃないの?』
『水上竜巻ってやつ?』
『だと思ったんだけど何か形が変なんだよな』
『ネットに上がってた動画みたけど綺麗な球体だもんな。あんなに綺麗な球体になるか普通?』
『この前話題になった暴風ちゃんが起こした説』
『ないない、現実見ろよ』
『でも時期がピッタリ』
『たまたまだろ』
◇
風は刻一刻と強まっていく。
球体は暫らく見ない間に大きく肥大化し、風の余波が陸上にも現れるようになっていた。
今は少し風が強いと感じるくらいだが、それも時間の問題。一時間もすれば台風ほどの強風になるだろうと異常気象を見た誰もが推測していた。
故に。
「早く避難しろ!」
「巻き込まれるぞ」
「なんで…こんな目に…」
「俺の力が暴走してしまったのか……すまない」
「こんな時に何バカやってんのよ! 早く逃げるわよ!」
「あっ、ちょ、包帯引っ張らないでくれ!?」
家族あるいは近所の人に叩き起こされ、避難する者がいた。
「いやー、暴風ちゃんそっくりのコスプレイヤーが現れた直後にこの異常気象」
「間違いなくネットでは呟かれるだろうな」
「現実を見れてないアホどもにな」
「対応がめんどくさいなー…。どう思う中川……中川?」
「ヴェーチェル…? 矢野………? いや…まさかな」
会社の今後を憂う者がいた。
「暴風? 異常気象? そこにいるのか……! 待ってろヴェーチェル!」
しかし、暴風に向かう者もいた。