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「やべぇえ!!! 遅刻だ!!?」




 よほど昨日の疲れが残っていたのだろう。


 矢野が目覚めたのは俺が朝食を作り終えてから、暫く経ってのことだった。




「当分会社に行かなくていいんじゃなかったの?」




 俺は暇潰しに弄っていたルービックキューブを適当に投げ捨てると、そんな悲痛な叫び声と共にリビングのソファーから飛び起きた矢野をどうどう、と抑え込む。


 矢野は初めは何を言われているのか理解していない表情をしていたが、少しして頭が回り始めたのか思い出したかのように「あー!」と声を上げた。


「そうだ……休みだった………………よかった…………寿命縮んだわ……」


 安心して力が抜けたのか、だらりとソファーに凭れ手足を脱力させる矢野に、俺は苦笑して、一拍置いてから告げる。



「改めておはよ、お父さん。大分冷めちゃったかもしれないけど、朝御飯持ってくるね」

「え、あっ、あぁ。おはよう、ヴェーチェル……今日も作ってくれたのか。何か悪いな。何なら俺が持ってこようか?」

「ううん、大丈夫だよ。そこで座ってて。すぐ持ってくるから」


 再び体を起こそうとする矢野にそう声をかけてから、俺は身を翻して台所へ向かう。



 ――あー……やっぱり冷めちゃってるな。

 俺自身、冷めた食事は意外と好きだったりするんだけど……こればかりは人の好みだから何とも言えない。矢野も冷めた食事もイケるタイプの人ならいいんだけど……



 そんなことを考えながら、すっかり熱を失ってしまった朝食の皿を持って戻ると、はい、とソファーの前にある机に置き、矢野の隣に腰を下ろした。



「昨日といい、今日といい。ホントありがとう……」

「ん、住まわせてもらってるお礼だから気にしないで。それよりもお父さん、冷めたご飯でも食べれる人? 何ならレンジで温めてもいいけど……」

「え? いや、大丈夫。冷めてても全然イケる」

「あ、そう。よかった。なら食べよっか」



 そんな僅かな会話を挟み、一つの皿に盛り付けた野菜炒めやスクランブルエッグをおかずに白米を箸でつつく。




 特に話すこともなく、静かな時間が穏やかに流れる。


「……なぁ、ヴェーチェル」

「ん、なにかな? お父さん」

「今日は何がしたいんだ?」



 再び会話が始まったのは、食事も終盤に差し掛かった頃だった。


 やはり昨日で大分距離が近づいたとしても、行動が読めない不思議キャラとされるヴェーチェルを信じきることは出来ていないようで。

 顔色を窺いながら発言する矢野に、俺はすかさず苦笑で返した。




「いいよ、今日は。お父さん、昨日の疲れがまだ残ってるでしょ。せっかくの休みなんだしのんびり家にいなよ。それに――」





 ――今はそんな気分じゃないし。





「ごちそうさま。じゃあ食器洗うから食べ終えたら持ってきてくれるかな」



 喉まで出かけたヴェーチェルらしくない言葉を飲み込み、俺は逃げるように台所へと向かった。

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