ただのおじちゃん
お待たせしました。謝りはしません。嘘ですちょっとは謝っておきます。
ご
「ニューヨーク……消滅…」
「生命体…地球……!?タケっち!どうしよう!」
「どうするもこうするもないよ……。次の瞬間にでも死ぬかもしれない。」
ニューヨークの人達は、死ぬ瞬間、何か感じたのだろうか。痛み、悲しみ、怒り……そんなもの感じる暇もなく亡くなったのだろうか。
「………そうだといいなあ。せめて」
テレビでは新しい速報が入っていた。ルーマニア、ポルトガル、イタリア、オーストリア、メキシコ…生命体は複数居るのか、はたまた瞬間移動でも出来るのか様々な地方の国を襲って行ったようだ。
「……お菓子だけでも食うか。最後の晩餐」
「タケっち!逃げよ!」
「どこに」
「遠くだよ!ブラジルでも宇宙でも!とにかく逃げるの!」
なんだ、ニュース聞こえなかったのか?まあどうでもいいか。そう、どうでもいいんだ。俺は瞳を閉じて、涙をうっすら浮かべる。
……短い……人生だったな。
「デンデレデンデ〜!ジャッジャーン!」
「!?」
余りにも場違いな音楽が聴こえてきた為、俺は2度見をした。中肉中背、緑色のTシャツにステテコパンツ。無精髭。
……何処をどう見ても普通のおっさんだけど、何処かで会ったような……そんな曖昧な懐かしさを感じていた。
「ねえタケっち、あの人ショックでおかしくなっちゃったのかな?」
「馬鹿タレ、聞こえるだろ。仕方ないよ、俺も未だに信じられないし…」
「ヤバッこっち来る!聞かれたかも!」
「お前声でかいんだよ、口閉じとけ」
曖昧な懐かしさおじさんは俺と優の前に立ち、親指と人差し指で無精髭をジョリジョリ鳴らした。
「なんだ、お前ら自宅待機の知らせ届いてねえのか?」
「自宅待機ですか?下校してすぐデパート来ちゃったんで知らなかったな。通りで人が全く居ないんですね」
「ふーんそかそか、まあ自宅待機でもデパートショッピングでも俺が居なきゃ滅亡だしな…………あ!お前あん時の!久しぶりだなぁ!やっと再会出来たよ!カーっ!」
「カーって…えーと、どちらさんで」
「俺だよ!うーんと、15年かな?そんくらい前におめえに石渡したろ?」
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「あれ?おじさん!」
「ぼ、坊主?よく聞けいいな、俺はまだ20歳。つまりおじさんはまだ早い、お兄ちゃんだ。はい、言ってごらん」
「おじちゃん!その石なにー?」
「てめえ混ぜてんじゃねえクソガキ!」
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「おお!思い出したよおじちゃん!」
「お兄ちゃん……いや、今はおじちゃんで合ってるな。それで、石のことは思い出したか?」
「いや」
「うーん、即答されたか……」
「でも俺貰ったもんは大事に取っとくタイプだから家探せばあるんじゃないかな。2歳の時から性格変わってないかは知らないけど」
「そんで?」
すっかり蚊帳の外だった優がここぞとばかりに会話に強引に入って来た。いつも冷たく遇ってはいるが、こういう所だけは関心してしまう。
考えてみて欲しい。10年来の再会を喜ぶ2人の間に「そんで?」と入ってこられるだろうか。俺はとてもじゃないが、いや、とても出来ない。絶対無理。
「なんだお前は、友達?」
「あ、タケっちの彼女です!ねー❤」
「ねーじゃない、幼馴染です!」
「ほほう…こりゃおじちゃん益々頑張んねえとな。ガハハ……で、何だっけ?」
「その石って大事なの?タケっちにあげちゃったの?」
「あ、そう言えばそうだ。なんで俺が持ってるんだよ」
「ああ、それは@#☆♡&@$」
おじさんが喋り始めた時、上の階で何か…というより、建物ごと崩れたような物凄い音が響いた。
おじさんの表情はさっきまでとは打って変わって神妙な面持ちになっていた。
「もう来たか…おい、えーと、タケっち!とにかく石だ!全力で家帰って探してこい!往復頑張れ!」
「おじ…貴方と優はどうするんだ、戦うのか!?無茶だよ!」
「いや、あの石がなけりゃ俺は無力だ。ただのおじちゃんさ。でもな、タケっち。ただのおじちゃんでも死に物狂いで走ることは出来るだろ?」
「わ、私も大丈夫だから!お願い!」
「良いか、タケっち!石を見つけたら直ぐに拾ってその場でこう唱えてくれ。戻ってくる途中で危なくなった時は『2人』を『我』に変えるんだ。良いな!」
『守護神よ、超絶怒涛の膜壁を。絶対防御の防壁を。2人をお護りください』
「超絶怒涛……?よし、行ってくる!」