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第八話「砂丘の過酷な大連戦」

「はぁ、本当にもう進むんですね」


「大半の店の異常な物価を見たじゃろう。贅沢の虫が起こらんうちに去るのが一番じゃ」


 ホサカとの戦いの翌日、ボクとマンジイは立ち寄った村でデビレンたちを倒した報奨金を換金所で受け取った後、すぐに先にある砂丘に入っていた。


 そのちょうど十分くらい後、今まで武器として使っていたボクの鉄パイプが消滅した。


 これは前に言われた通り、本来の持ち主であるデビレンが処刑されたという事なのだろう。


「あーあ、せっかく使いこなせるようになってきたのにな」


「ま、消えてしまったものはしかたあるまい。それよりも今度はこれを使ってみてはどうじゃ?」


 マンジイは、やや小型のハンマーをボクに差し出した。


 予想はしていたが、鉄パイプよりもずっと重い。


 つまり、鉄パイプから機動力を抜いて、逆に破壊力をプラスした武器といったところだろう。


「これも魔性具の一種なんですか?」


「うむ。鉄パイプが消えたときのためと思ってあらかじめ確保しておいた。戦えそうかの?」


「そ、そうですね。まぁ、雑兵程度の相手なら難なく倒せると......思います」


 なんて軽口を叩いていると、ジープに乗って武装したデビレンたちがぞくぞくとやってきて、ボクたちを取り囲んだ。


 先頭にレベルスリーが一人いるだけで他は雑兵ばかりのようだが、その数はざっと百人以上はいる。


「ちょうどよかったじゃないか、ニシくん。戦ってさっき言った事を証明するチャンスじゃぞ」


「え、でも、この数は......」


「何をぐだぐだ言ってんだ、人間ども。さぁ、どっちからやってほしいんだ!」


「い、いや、ボクは」


「あ、そうじゃ。この男、言うとったぞ。お前さんらより自分の方がずっと強いっての」


「ま、マンジイ、何言うんですか!」


「あれ、なんじゃ? さっき言った事はやっぱうそじゃったのかの?」


「そのブタみたいな男がが俺たちより強いだと。言うじゃないか、だったら今からそれを見せてもらおうじゃないか」


 魔性具をかまえたデビレンたちが大勢でボクに向かってきた。


 ボクは青ざめていたが、やらなければやられると本能で察知し、意を決してハンマーを手に迎え撃った。


 マンジイはその様子をじっくり観察する。


「そこそこ戦えるみたいじゃの。相手が大勢である事を考えれば割といけてる方か。じゃが」


「う、ぐ」


 ハンマーによる攻撃は破壊力がある分、機動力に欠ける。


 ボクの攻撃は鈍足過ぎてよけられたり、スキをつかれて反撃されたりする場面が多々あった。


「はぁ、ぐっ」


「どうした、ブタメガネ! 休憩するにはまだはやいぞ」


「ううう」


 体力の限界からボクはしだいに押され始めた。


 さらに後方ではボーガンや銃を持ったデビレンたちがボクに狙いを定めている。


 ここでようやくマンジイも参戦し、後方のデビレンたちを蹴散らした後、レベルスリーのデビレンと戦い始めた。


「さぁ、ここからじゃぞ」


「はっ、ジジイなんぞに負けるかよ」


 レベルスリーのデビレンは、部下たちを盾にしながら数を生かした戦法で攻め続けた。


 しかし、直接戦闘力は大したことないのか、部下たちがやられていくにつれて劣勢になっていった。


 その後はボクの方に狙いを変えてきたが、背を向けたスキを突かれ、マンジイの槍で倒されてしまった。


「う、くそ」


「手配書が出回っていないという時点で実力はお察しじゃの。部下たちにたよりすぎじゃ」


「ま、マンジイ。や、やりましたね」


「うむ。で、さっそくじゃが、さっきの戦いの感想言っていいかの?」


「え?」


「まぁ、甘めに判定して二十点ってとこじゃな。少なくとも雑魚の域を出ていない」


「な、なんでですか! 二十人くらいは敵を倒したはずですよ」


「うむ。じゃから二十点」


「そんな適当な判定ないでしょう。もっとどこがどう悪かったか教えてください」


 マンジイが指摘したのは次の箇所だった。


 まず、近くの敵ばかりに目がいっていて、遠くの敵に対して注意力散漫であったということ。


 次に、敵に攻撃をヒットさせても、その後のスキが大きすぎて反撃を受けやすいということ。


 最後に、動きに無駄が多いためか、体力を必要以上に消耗してしまっているということだった。


「まぁ、他にも言いたいことはあるが、まずはこの三つじゃの。そもそもお前さんにハンマーは向いてないのかもの」


「まぁ、それはね。少なくとも使いやすいとはいえなかったし」


「考えてみれば、捕縛でもいいという点を考えれば、相手を必ずしも絶命に追い込む必要はないわけじゃから、もっと振りやすい武器で十分じゃろうの。たとえば」


 ちょうどこの場には、倒したデビレンたちの武器が散乱している。


 この中からボクの専用武器にふさわしいものを探すことにした。


「そうじゃの。ある程度リーチがあって、小回りがきいて」


「重すぎないやつがいいよな。持ち歩くの大変だし」


「これこれ、横着言うでない。ん? う、む」


「な、何こわい顔してるんですか。さっきのは冗談ですって」


「気のせいかの」


「あ、マンジイ。向うから誰か来ます」


「ん?」


 大勢の部下たちを引き連れて現れたのは、レベルスリーと思われる細目の男と厚化粧した女だった。


 たしか、前に立ち寄った換金所に手配書が貼ってあった気がする。


「男の方がボチャ。女の方はバヤンバ。そこそこ名の知れた奴らじゃ。少なくともさっきの奴よりは甘くないじゃろうの」


「れ、レベルスリーが二人も。さっき戦闘したばかりなのに」


「先に着いた連中は全滅か。いいさ、この結果が何を意味するのか分かっていてやったんだろうからな?」


「ボチャ、バカな事お言いでないよ。こいつら人間に物事を考える頭なんてあるわけないでしょ」


「う、うう」


「おい、ニシくん。びびっているヒマはないぞ。前の二人はワシが相手するから残りの雑魚はなんとかしろよ」


「え? でも、どの武器を使えば......」


「知るか! 自分で考えろ!」


「そ、それはないでしょ。あーもー、こうなったら」


 ボクは足元に落ちていた槍を拾い、向かってきたデビレンたちと戦った。


 前の戦いの傷が癒えておらず、また複数の敵を相手にしなければならないのは辛かったが、泣き言は通らない。


 がむしゃらに大玉が転がるような勢いで槍を振り回し、敵を蹴散らしていった。


「やらなきゃやられるだけだ。こうなったら限界まで戦い抜くまでだ」


 生存本能の強さが満身創痍のボクの原動力になっていた。


 一方、その横ではマンジイがボチャとバヤンバに追い詰められていた。


「はぁ、はぁ」


「なんだ、弱いじゃないか。こんな奴にあのバカたちは負けたのか」


「う、むむむ」


 ひざをつくマンジイを取り囲むボチャとバヤンバ。


 ボチャは黒火をまとったトンファー、バヤンバは黒火をまとった拳で同時にマンジイに襲い掛かる。


 マンジイは火傷を覚悟で両手で受けきるが、直後にがらあきになっていた腹部にバヤンバの蹴りをくらってしまう。


「ぐうっ」


 ひるんだマンジイに上からボチャのトンファーの一撃が炸裂。


 とうとう、マンジイはダウンした。


 ボクは頭や背中に傷を負いながらも周りの敵を一掃し、何とか加勢に向かった。


「マンジイ。またボクを試しているんですか?」


「う、い、いや、今回は演技ではない。ホサカ戦でのダメージがまだ消えてなかったようじゃ。それだけならまだしも、最近メシを抜くことが多かったからの。くそ、なさけない。たかがこれくらいのハンデで」


「さんざん俺らをこけにしてくれたな。さぁ、とどめだ」


「ま、待て。その前にボクがあ、相手だ」


「そうか。まぁ、いい。どうせこいつの次にはお前を消すつもりだったからな。しかし、部下たちを一掃するとはなかなかやるじゃないか」


「へん、あんたたちもすぐにああなるんだよ。クズデビレン共が」


 ボクはもうすでに分かっていた。


 今の自分の実力と状態ではボチャたちには決して勝てないという事を。


 だからこそ、せめて最後に言いたい事だけ言って散る事を決めたのだ。


「さぁ、来い」


「なぁ、さっき、クズと聞こえたようだが、聞き間違いじゃねぇよな?」


「ああ、聞き間違いじゃないよ。もっと言ってやる、クズクズクズ!」


「遺言はそれだけでいいんだな?」


 ボチャはトンファーで力強くボクに殴りかかった。


 ボクも血がにじむくらい力強く槍を握りしめ応戦するが、押し負けてしまう。


 そのままトンファーの一撃を頭部に受けたボクは押し倒され、タコ殴りにされた。


「げ、ぐ」


「蚊に刺された時の気持ちを思い出すよ! 格下にコケにされるとどんだけやり返しても気が晴れないもんなぁ!」


「へへへ。なんだ、ボチャ。くやしいのかい?」


「まだ言うかぁ! ん?」


「かーっ!」


 いきなり、横からマンジイが殴り掛かってきた。


 口からは黒い物体が半分出たような感じでぶらさがっている。


 何と、それは砂丘に生息するサソリたちだった。


「フン、腹が減っていると案外これもいけるもんじゃの」


「何てジジイだ。サソリを生で食うとはデビレン顔負けの悪食ぶりだな」


「選り好みできる状況じゃないじゃろ。さぁ、腹さえへってなけりゃお前さんなんかに負けはしないぞ」


 たかがサソリ数匹を口にしただけでと思われたが、マンジイの動きはさっきまでとはまるで違った。


 トンファー攻撃はことごとくかわして攻撃し、黒火を生成するスキすら与えない。


 それでも激高はせず、一旦距離をとろうとしたボチャだったが、直後にマンジイが投げた何かに右手を刺され、トンファーを落としてしまう。


「ぐっ。これは」


「さっき除去したサソリの尾じゃ。使えるもんは何でも使わないとの」


 マンジイは即座にボチャの眼前にせまると、トンファーを遠くへ蹴り飛ばし、威圧した。


「お前さんの負けじゃ」


「う、うう」


「ちっ、これまでのようね」


 傍観状態だったバヤンバは退散していった。

挿絵(By みてみん)

 しかし、ボチャは立ち上がり、黒火を全身にまとって前進してきた。


 正直、レベルスリーの技量でこんな使い方をするのは自殺行為といえたが、彼に迷いはないようだった。


「デビレンが人間に負けるなんて事があっていいはずがない! 勝てないなら刺し違えてやる!」


「ほう、敵ながら大した覚悟じゃの」


 マンジイはあえて距離をとりながら時間をかせぐ戦法はとらず、真っ向からボチャとぶつかり合った。


 多少の火傷はお構いなしにボチャに向けて拳をふるい続けた。


 それにこたえるかのように、ボチャはさらに全身にまとった黒火を増大させるのだった。


 周りを焼き尽くすかのような黒火が周りに広がっていく。


 ボチャはその勢いを保ちつつ、マンジイにつかみかかった。


 マンジイを確実につかんだ時点でさらに黒火を増大させ、共倒れするつもりなのだろう。


「く、たばれ、ジジイ」


「あ、わわわ。マンジイ」


「あちち。まったく無茶しやがるの」


「フフ、この距離でもこの火力にひるまないとはな」


「この程度の熱さは経験済みなのでの」


 マンジイはボチャの強力な黒火に耐えつつ、絶対につかまれないよう応戦した。


 そして、ボチャの死角に入った一瞬のスキをつき、背中に渾身の蹴りをあびせた。


「ぐう、まだ倒れんか」


「はぁぁぁ、あああ」


「背中はバキバキに折れたはずじゃがの」


「お前は危険すぎる。絶対にこの先には進ませない」


 不敵な笑みをうかべながらマンジイに歩み寄るボチャ。


 それでも向かっていこうとするマンジイだったが、その前にボチャはついに力尽き倒れた。


 しかし、ボクもマンジイもすでに満身創痍の状態。


 村へ引き返したところで、またデビレンたちに遭遇する可能性は否定できず、先に進むしかなかった。

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