第五話「デビレンの強さの事」
「な、なかなか手強いな」
赤髪デビレンとの戦いの翌日、ボクとマンジイはたどり着いた雪原でデビレンたちと対峙していた。
今回の敵は丸刈りのレベルスリーが一体と雑兵が二体。
レベルスリーの方はそれなりの名のあるデビレンらしく、赤髪デビレンと戦った食堂に手配書が貼ってあったのを覚えている。
「鎖使いのテポット。たしか、五十万ザディンの賞金首でしたよね?」
「うむ。これはなかなかいい稼ぎになりそうじゃ」
「上から目線はやめろ、ジジイ。年寄りだからって手加減してもらえるなんて思うなよ」
テポットは鎖を二本取り出して雑兵たちに巻き付けて固定し、鎖鉄球のように振り回してきた。
軽快な鎖が相手だとばかり思っていたボクは驚愕し、パニックになった。
そうしているうちに重い一撃が足元に命中し、地面を大きくへこませてしまった。
「な、なんて威力だ」
「フン、同族たちを何の躊躇もなく武器として使うとはの。大した外道ぶりじゃ」
マンジイは槍を装備して前進し、テポットの重い一撃を回避していった。
そして、地面に重い一撃がヒットして止まったスキをつき、雑兵たちを槍で倒した。
しかし、テポットは雑兵たちが残骸と化す前にすばやく鎖を戻し、ボクの方に投げつけて巻き付けてきた。
「フフ、お前は重そうだから雑兵共よりもいい威力が期待できそうだな。さっきみたいに倒して解決ってわけにもいかないしな」
「ぐ、うう」
ボクは近くの木にしがみつき、何とか耐えようとした。
しかし、すごい力でぐいぐいと引っ張られ、鎖がぜい肉に食い込み始めた。
「お、ごごご」
「このデブが。手を放しやがれ」
「あ、ああああああ!」
手が木から離れようとしたその直後、マンジイがテポットの後ろをとって槍を突きながら、拘束した。
「お前さんといい、この前の赤髪といい、簡単にスキを作り過ぎじゃ。賞金首になったのは、強さよりも殺した人間の多さが影響しているようじゃの」
「うう、ちくしょうが」
「さてと。ニシくん、ごくろうじゃったの。さっきの戦いじゃが、何か変化は感じられたかの?」
そういえば、ほんの少しだったが、前よりも全身が軽くなって速く動けていた気がする。
それにあんな馬鹿力でぐいぐい引っ張られたのに、それなりに耐えきる事が出来た。
肉体が強化しているという何よりの証拠かもしれない。
しかし、その後に行ったマンジイとの手合せでは速攻で腹に飛び蹴りをガーンとくらい、倒れてしまった。
さすがに勝てるだなんて慢心はしていなかったが、少し自信がついていただけにショックは大きかった。
「はぁ。まだまだみたいですね」
「そうじゃな。しかし、とっさに手を下にやって防ごうとしたのは見事じゃった。もう少しはやい対応じゃったならダメージを軽減できたじゃろうな」
「え? じゃあ、強くなっていると思っていいんですね?」
「ちっとはの。まだ不安な要素はあるが、次のステップに進んでもいいかもしれんの」
マンジイはそう言うと、赤髪デビレンから奪っておいた太い鉄パイプをボクに渡した。
何というかずっしりと重たく、両手でめいっぱい力を込めてやっと振り回せるといったところだ。
それだけに威力はかなり期待できるそうなので、使う価値は十分にあるといえるだろう。
「たしかに素手だけでデビレンとやり合うには限界がありますからね。ありがたく使わせてもらいます」
「うむ。じゃが、それはあくまでもちゃんとした武器を手に入れるまでの繋ぎと考えておくんじゃぞ。いつまで使えるという保証はないのでの」
「え? どういう意味ですか?」
「魔性具なんじゃから、当然じゃろう。その辺の事情は知らんのかの?」
「ええ、あまり詳しくは。この鉄パイプもその魔性具なんですね?」
「そうじゃ。雑兵から上級までのすべてのデビレンが持ち合わせておるのが魔性具じゃ。形は一つ一つ違えど、共通点が一つだけある。それが人間を取り込んでしまう機能じゃ」
マンジイは鉄パイプの下部にある丸い吸引口のようなものを指さした。
それにより思い出したのは、動けなくなった人間が無残に吸い込まれていくあの光景だった。
もし、村での戦いでヘマをして自分も鉄パイプの中に取り込まれていたかもしれないと思うと、寒気がしてしょうがなかった。
「この鉄パイプに一体何人の人間が取り込まれたんだろう。本当に使って大丈夫なんですか?」
「人間を取り込む機能だけは本来の持ち主であるデビレンでないと使えんよ。あくまで武器として使用するんじゃ。ただし、魔性具は正確にはデビレンの分身体のようなものじゃから、デビレン本体が死ねば、魔性具も消滅するという事を忘れんようにの」
「つまり、村で引き渡したあのデビレンが処刑されるまでの間しか使えないってわけか。んー、あの、いい機会なんでデビレンについてもっと詳しく教えてくれませんか?」
「うむ、これから必要となるじゃろうからの。大変よい心がけじゃ」
マンジイは今までに集めていたデビレンに関する詳しい情報を話し始めた。
まずはデビレンの階級に関する話。
階級は大きく四つに分かれており、強さはピンキリ。
もっとも低いレベルワンは、誕生して間もない状態の事を指し、空気中を漂うだけのウイルスのような存在。
戦闘能力はほぼないものの、肉眼では確認できない状態であるため、捕獲や駆除はまず不可能。
そして、野放しになった状態で一週間から一カ月ほどで少しずつ肉体が実体化していくという。
その末にたどり着くのがレベルツー。
これはボクが今迄に一番多く遭遇してきたデビレンで、一般的に雑兵と呼ばれている連中。
雑兵といっても、普通の人間を軽く絶命させてしまうくらいの力はあり、欠点があるとしたら理性や知性がほぼない事。
だが、それ故に遭遇した人間を躊躇なく襲う事がもはやお約束であり、殺害後は魔性具についた吸引口で吸収し、力を蓄えていくのだそうだ。
そして、蓄えられた力がたまっていくことでたどり着くのが、レベルスリー。
今迄に出会った中では、森で戦った長髪デビレン、村で戦った赤髪デビレンがこれにあたるのだという。
レベルツーとの外見的な違いは、髪が生え、顔立ちが比較的整っているというわずかなもの。
しかし、戦闘能力は別次元で、人語を話すなど知能も高く、この世界に来たばかりの人間にとってはもっとも最初に立ちはだかる高い壁だといえる。
そして、持ち合わせている力も厄介なものばかり。
集中力を高める事で、本来なら死角になる場所からの攻撃にも対応できる複眼。
高威力かつ高スピードで敵を焼き尽くす黒火。
多少の傷なら自動的に再生してしまう自己再生能力。
これらを目の当たりにして心を折られた冒険者たちは数知れず、肉体よりも精神に強いダメージを負って再起不能になるパターンも珍しくないらしい。
ここまでの話をまとめると、レベルスリーがデビレン界の最高峰でも何ら不思議はないのだが、さらに上の存在があった。
それがレベルフォーであり、この世界の恐怖の象徴とも言える存在。
数多くの人間を吸収したレベルスリーのデビレンが、強い邪心を持つ人間を吸収する事で逆に肉体を乗っ取られて変異するという伝承があり、常備している能力も規格外。
集中力を高める事で、離れた場所にいる相手の動きを読み取る千里眼。
焼かれた箇所がいつまでもじゅわじゅわとうずき続ける魔性の火。
いかなる攻撃を受けても元通りに肉体を再生する完全不死。
この三つに加え、魔性具にも特殊な力が込められているらしく、マンジイはそれを身を持って体験したそうだ。
五年ほど前、仲間たちと旅をしていた時、何の前触れもなくその時は来たという。
上空から爆発音と共にマグマの塊が降り注ぎ、その場にいた半数以上が即死。
生き残った者たちも苦しみながら倒れていき、攻撃が止むまでに生き残ったのはマンジイと二人の仲間だけ。
三人共すでに満身創痍だったにも関わらず、容赦の欠片もないレベルフォーのデビレンが前に立ちふさがり、魔性具をかざしてきたという。
すると、次の瞬間、地面からマグマが噴き出して辺りを覆い尽くし、巨大化。
マンジイたちは何とか回避しながら奮闘するも、力の差を見せつけられ敗北。
仲間二人はマグマで焼き尽くされて死亡。
マンジイ自身もしばらく歩けなくなるほどの火傷を負ったという。
このときまでマンジイたちはほぼ負けなしで旅を続けていたらしく、与えられたショックはそうとうなものだったと思われる。
仮に戦闘能力で上回っていたとしても、完全不死なんていかれた能力がある以上、もうどうしようもない。
つまり、レベルフォーと戦った場合、それまで血反吐を吐くような猛特訓をしてどれだけ鍛えていたとしても、敵を倒すという選択肢自体が存在しないという事になる。
それを考えたとき、ボクは全身を震わせながら放心状態となっていた。
ついさっきまで持っていた自信はすっかり消え、デビレンの力を舐めきっていた事をただ痛感するのだった。
「強いうえに不死身だなんて、そ、そんなの反則だよ。ずるいよ」
「ふむ。聞かない方がよかったかの?」
「も、もう聞いちゃったじゃないですか」
「まぁ、そう悲観せんでよい。前もって聞いておいた方がいきなり実体験するよりはショックが小さかろう。はっはっは」
「はっはっはじゃないですよ。てか、なんでそんなに平然として話せるんですか。戦意喪失するのが普通でしょ?」
「たしかにあの戦いの後はそうじゃった。仲間を失った絶望感を含め、どうにかなりそうじゃった。じゃが、いくら嘆いたところで過去はなかったものにはできん。前に進むしかないじゃろう」
「う、ううう」
ボクはマンジイの話を聞き流しながら、近くの木にもたれながら地面に倒れた。
訓練をする気はなれず、ただ震えるだけの時間を過ごすことになった。